【深谷龍彦・ネスレ日本社長兼CEO】「沖縄をコーヒー豆の一大産地へ」

沖縄をコーヒー豆の一大産地へ─。当社は「食の持つ力で、現在そしてこれからの世代のすべての人々の生活の質を高めていきます」を存在意義(パーパス)に掲げ、個人と家族、コミュニティ、地球の3つを影響分野に位置づけています。

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 そのうちのコミュニティでは、2010年から「ネスカフェ プラン」というコーヒー豆のサプライチェーンを継続的に改善することを目的としたプログラムにグローバルで取り組んでいます。コーヒー豆の栽培から製品の製造・流通・消費まで全ての工程に関与することで、コーヒー豆の生産農家の皆様に恩返しをすることが目的です。

 近年、コーヒーの木の老化や気候変動による病気、栽培従事者の減少、コーヒー豆の収穫量低下、取引価格の変動などにより、特に小規模農家の皆様の生計とコーヒー栽培業の持続可能性が脅かされています。

 一方で日本の1次産業に目を向けてみると、特に沖縄県では耕作放棄地の増加が課題となっています。沖縄特有の気候で作られるものと本州で多く食べられるものとのミスマッチがあることに加え、輸送料が高いことなどから価格面でも対抗できず、沖縄で農業は厳しいという声をよく聞きました。

 そのような状況の中、沖縄県を拠点とするサッカークラブ・沖縄SVの代表を務める髙原直泰さんから、当社に「沖縄でコーヒー豆を栽培することにチャレンジしたい、協力いただけないか」という打診をいただきました。コーヒー豆の栽培に適した「コーヒーベルト」は北緯25度から南緯25度とされていますが、北緯26度の沖縄本島はぎりぎり適地に入ります。

 日本国内では、沖縄県外で栽培できる可能性が低く、全国的にたくさん消費されるコーヒー豆の栽培が軌道に乗れば、沖縄県が抱える1次産業の課題解決にもつながり、耕作放棄地などを活用した栽培を通じて、沖縄県産コーヒーを新たな特産品へと育成することができます。そうなれば、新たな産業育成の可能性も出てきます。

 そんな趣旨に賛同してくれたのが名護市と琉球大学です。沖縄で大規模な国産コーヒーの栽培を目指す「沖縄コーヒープロジェクト」を

19年4月からスタートし、産官学連携の取り組みを行ってきました。

 住民や農家の皆様の協力でコーヒー豆の栽培地は11カ所に広がり、22年4月時点で累計約6500本の苗木が植樹されました。このうち最初の2年間に植えた木が今冬から来春にかけて収穫を予定しています。

 さらに、うるま市とも連携し、同市内の耕作放棄地に新農場を開設してコーヒーを活用した地域活性化に取り組みます。新農場は7月に整備を開始する予定となっており、コーヒーをはじめとした農作物の栽培に福祉事業所で働く障がい者の方々に従事していただくほか、市民の憩いの場となるユニバーサルカフェも来年3月に併設する予定です。

 沖縄の土壌や気候に適した栽培方法を確立し、観光客が収穫を体験して、その場でコーヒーを試飲できるアグリツーリズムのような形態に育てると共に、中長期的には「ネスカフェ」ブランドでの製品化も視野に入れています。今年4月からはネスレの専任の社員が沖縄に駐在して、プロジェクトの推進を強化しています。

 いつか沖縄県産のコーヒーが当たり前になる世の中を目指し、当社は様々なパートナー様と協力しながら、一歩ずつ大事にこのプロジェクトを育てていきたいと思っています。