中国広東省深セン市政府が出資している新興DRAMメーカーである昇維旭技術(Shengweixu Technology:SwaySure)が2022年6月16日付で、元エルピーダメモリの社長で、2019〜2021年末まで中国の半導体大手Tsinghua Unigroup(清華紫光集団)の副総裁兼日本法人社長を務めた坂本幸雄氏を最高戦略責任者(Chief Strategy Officer)に任命したことを明らかにしたと複数の台湾メディアが報じている。また、同社CEOには、元TSMCのFab 14や最先端となる5nmプロセスの量産を担当するFab 18の工場長を務めた劉曉強(Liu Xiaoqiang)氏も同日付で任命されており、台湾半導体業界内からは「またしても台湾政府が警戒していた中国による半導体専門家の密猟」という声があがっているという。

昇維旭技術は、2022年3月に資本金50億元でDRAMの生産を目的として設立された新興企業。総額3000億元を投資して、28nmプロセスによる12インチDRAM生産ラインを構築し、最終的には月産14万枚の生産能力を目指すとしている。プロジェクトの第1段階となる工場建設はすでに開始されており、2023年第3四半期に竣工される予定で、2024年第1四半期に量産を開始するとしているほか、生産が軌道に乗れば、ロジックLSIなどメモリ以外のデバイスも手掛けることにしているという。

中国の新興DRAMメーカーにとって、最大の課題はDRAMの製造技術の入手だが、台湾および韓国業界関係者によると、現在、DRAMがらみの特許のほとんどは、SamsungとSK Hynix、Micron Technologyの大手3社が握っており、中国が海外から合法的に情報を入手するのは不可能である。昇維旭技術は、以前の清華紫光集団同様に、坂本氏に海外人材採用を含めて技術入手や研究開発を任せる模様であるという。しかし、同氏はエルピーダを退任後、中国の複数メーカーにてDRAMの製造立ち上げに協力してきたが、海外からの技術獲得に成功していない(あるいはその前に会社が倒産や解散してしまった)。しかも、日本、韓国、台湾の各政府は、中国への違法な半導体技術流出に対する罰則を強化しており、米国政府は、中国への技術輸出をさらに厳しく規制する方向で検討しており、米国以外の国々にまで米国の定める規則や法律を適用する域外規制方針を掲げていることから、今後、ますます中国勢の海外からの合法的な技術獲得は難しくなるものと思われる。今回、設立されたばかりの昇維旭技術がCEO、CSOともに海外から人材を招聘したのも、坂本氏を清華紫光集団が副総裁兼日本支社長として招き入れた際と同様に、中国内にはDRAMを製造する十分な技術がなく、人材がいないことの表れだと台湾関係者は見ている。