Association for Computing Machinery(ACM)のA.M. Turing賞は、情報科学系のノーベル賞と言われる権威ある賞である。なお、現在では情報科学は学問だけでなく、我々の生活にも大きく影響する科学分野であるが、ノーベル氏が存命のころには、まだ、科学技術の分野として認識されていなかったので、ノーベル賞は授与されていない。ということで、現在ではACMがTuring賞を作り賞の授与を行っている。

今年のTuring Awardはスパコンにはなじみの深いJack Dongarra教授に授与された。Dongarra教授はTop500のリストの作成の初期から関係したスパコンの性能測定の努力の中心人物である。

  • ISC 2022で行われたDongarra教授の授賞を祝うスペシャルセッションの模様

    ISC 2022で行われたDongarra教授の授賞を祝うスペシャルセッションの模様。右端の演壇の前に立っているのがDongarra教授 (出典:Bernd Mohr氏のTwitter)

前の写真ではDongarra氏の写真が小さく、顔を判別できないので、次にもっと大きい写真を掲載する。この写真の右側に写っているのがDongarra氏で、左側はJülich Supercomputing Centre(JSC)のBernd Mohr氏で表彰後並んで写真を撮ったものである。

  • 受賞したDongarra氏と並んで写真を撮ったJSCのBernd Mohr氏

    受賞したDongarra氏と並んで写真を撮ったJSCのBernd Mohr氏 (出典はMohr氏のTwitter)

当初は、100行100列の係数行列の連立1次方程式を解く性能を測定することにしたが、スパコンの性能向上が早く、すぐに実行時間が短くなり過ぎて精度の高い測定ができなくなった。そのため、1000行×1000列の係数行列に切り替えたが、これもしばらくするとスパコンの性能が高くなり過ぎて、ベンチマークの問題が小さ過ぎるという状態になってしまったという。

Dongarra氏の優れている点は、指定したパラメタに従って、任意サイズの係数行列を生成して性能を測定するベンチマークを作ったことである。これでベンチマークのサイズが小さ過ぎるという問題が無くなった。また、当初は単一プロセサのベクトルプロセサが使われていたが、マルチプロセサやクラスタ、GPUの使用など、構造の異なるプロセサのスパコンにも対応していった。

そして、線形の連立1次方程式から、解く問題の種類を拡大し、それらの問題の解法を集めたライブラリの開発や、解法の自動チューニングなどにカバレージを拡大して行った。

これらのライブラリは多くのユーザを持ち、線形代数問題を解くことの困難さを大きく軽減した。このような功績がチューリング賞授与という結果につながった。

なお、ノーベル賞の賞金は1000万クローネで、約1億3000万円である。これに対してTuring賞の賞金は100万ドルで、こちらも1億3000万円程度である。