立命館大学は5月24日、圧電-半導体-光励起の相乗効果である「ピエゾフォトトロニクス効果」を用いて、「曲げると起電力が変化する軽くて柔らかい光発電デバイス」の開発に成功したと発表した。

同成果は、立命館大学大学院 理工学研究科 機械システム専攻の藤村潤大学院生(研究当時)、同・足立悠輔大学院生、同・髙橋輝樹大学院生、同・小林大造教授らの研究チームによるもの。詳細は、エネルギーハーベスティングや変換などで用いられるナノデバイスの科学と工学を扱う学術誌「Nano Energy」に掲載された。

原子番号34のカルコゲン元素の1種であるセレンの結晶は、可視光波長の光吸収が優れた材料であり、室内照明光を用いた理論限界変換効率は約60%という高効率な光発電デバイスへの応用が期待されている。

これまで、P型半導体である結晶セレンに対して酸化亜鉛系、酸化チタン系および硫化カドミウム系などのN型半導体を接合したヘテロ接合(異種材料のPN接合)による光発電デバイスの重要性が報告されてきた。しかし、P型半導体とN型半導体が異なることによるエネルギーバンドの整合性改善などの課題があり、実際の変換効率は理論限界の5分の1程度と低く留まってしまっており、ヘテロ接合界面制御のための技術開発が求められていたという。

そこで研究チームは今回、PN接合のエネルギーバンド不整合(バンドオフセット)の改善のアプローチとして、N型酸化亜鉛系圧電薄膜への歪み印加による分極の利用に着目することにしたという。

従来はエネルギーバンド制御の手法として、不純物の添加や混晶化が用いられてきたが、組成比や結晶構造の変化により、材料の電子物性が変化し、性能が低下する場合があったことから、今回は、酸化亜鉛系圧電半導体に歪みを印加して圧電分極電荷を接合界面に発生させ、P型結晶セレンに対するバンドオフセットを変化させる手法を適用。その結果、PETフィルム上に酸化亜鉛系窓層/結晶セレン光吸収層による薄膜光発電デバイスを形成し、基板を曲げることで光起電力を顕著に変化させることに成功したとする。

  • 曲げることで応答する光発電デバイス

    曲げることで応答する光発電デバイス (出所:立命館大プレスリリースPDF)

なお、研究チームでは、今回の研究成果による、従来の組成制御とは異なる新たなアプローチによるエネルギーバンド整合を改善することで、結晶セレン薄膜光発電デバイスの光電変換効率の改善が期待されるとしているほか、将来的な用途として、さまざまなセンサで得られた幅広い情報をインターネットで統合するIoTのために必要となる、小型軽量な室内照明光による発電デバイスや、光起電力が歪みに応答するメカニズムを利用した新規の歪みセンサへの応用などに期待されるとしている。

  • デバイスの動作原理

    デバイスの動作原理 (出所:立命館大プレスリリースPDF)