突然ですが、今月から「#Miraikanで考える生物多様性」でタグ付けした生物多様性に関するシリーズブログを5~10本程度連載したいと思います(メンバーのやる気次第で数は変わります!)。というのも実は今年秋にも、COP15という生物多様性保全のための国際的な会議が開かれる予定になっており、それに合わせて未来館でもいろいろと企画しよう、という声が上がったのです。

今回はその「企画」に向けたシリーズブログの第一弾として、メンバー(科学コミュニケーター上田、遠藤、片岡、大澤)の中でもっとも生物学や生態系、生物多様性という言葉にゆかりの無かった私、大澤が、『「生物多様性」ってなんだっけ?』というタイトルでブログを書いてみたいと思います。生物多様性という話題への入り口になれるように頑張ります!

※生物多様性条約の第15回締約国会議。新型コロナウイルス感染症の影響により、本来なら2020年に開かれる予定だった会議の日程がずれ込んでいるようです。一部は昨年10月に終了していて、残りの日程は今年の7~9月の予定とのこと。

教科書を読んでみた

ということでまず私が行ったのは、「教科書を読む」こと。今回は未来館に調査用資料として置いてあった中学校と高校の数種類の教科書を読んでみました。個人的な話ですが、私は教科書がとても好きです。学生時代の郷愁か、はたまた教科書特有の“まとまりの良さ”にひかれているのか、あるいは「教科書を読む私」に酔っているのか……。好きな理由は言語化できないのですが、とにかく今回は教科書を読むところから始めてみました。

 まず読んだのは、中学校理科の教科書です。1、2年生の教科書でそれっぽい単元が見つけられなかったのですが、3年生の教科書1)、単元2の3章に「生物の種類の多様性と進化」というタイトルが見つかりました。一安心です。この章では、「生物が多様である」ことの理由を、私たちの体の形や特徴が長い年月、世代を経て、環境に合わせて変化してきた“進化”の結果として説明しているようです。例えば、水の中に合わせて変化してきたした形もあり、陸上に合わせて変化してきた形もあり、陸上の中でも熱いところではそれに、寒いところでは……と考えると、なるほど、確かにいろいろな種類の生き物がいることについて説明ができそうです。

 ただ、ここでは明示的に「生物多様性の定義」が書かれていることはありませんでした。教科書にはそういう定義が書かれているものだと思い込みながら読み進めていたので、ちょっと意外な結果です。

さて、次は高校の教科書を読んでみます。そちらにはどんなことが書いてあるのでしょう……?

高校の教科書

 次に読んだのは、高校の生物の教科書。こちら、「生物間に見られる多様性を生物多様性という。」という定義をはっきり書いてくれた後に、生物多様性にはいくつもの層があるという説明をしてくれています。2)ある地域に暮らす生き物のすべてとそこに在る生物以外の環境(例えば地形など)をまとめて「生態系」と呼びますが、そんな生態系にも、海の生態系や森の生態系、草原の生態系など様々な種類があり、これを「生態系の多様性」と呼ぶようです。そしてもちろん、生物にはいろんな「種」がいるという「種の多様性」があります。さらに同種の生物を見てみても実はそこには「遺伝子の多様性」もあり、少しずつ形や性質が違うようになっています。

 なるほど、さすが高校の教科書を読むと、今まで生物多様性という一言で呼んでいたものの中身が分類され、さらに理解できた気がします。

机の上に教科書を積んで、「生物多様性」のワード探し。

 ちなみに、高校には生物系でもう一つ、「生物基礎」という科目もあります。こちら、生態系や植物の多様性については書かれているものの、生物多様性という言葉そのものは索引にありませんでした。結構見聞きする言葉なので、基礎科目にも当然書かれているだろうなーと思っていたので、ちょっと意外でした。

※平成24年度以降、高等学校では生物、地学、物理、化学の4科目に加えてそれぞれの名称の末尾に「基礎」を付した通称“基礎科目”が設置されています。

理科の教科書以外にも!

さらに他の教科の教科書にも手を伸ばしてみると、意外といろいろな科目の教科書に「生物多様性」という言葉を見つけることができました。

例えば「政治・経済」の教科書3)には生物多様性をはじめとする様々な環境問題が国際的に喫緊の課題になっていると書かれていました。環境問題は科学だけの問題ではなくて、政治や経済の問題でもあり、国際的な課題であるというのはとても重要な視点だなと感じます。

「現代社会」の教科書4)では「生物多様性とは、地球上のそれぞれの環境に、長い生命進化の歴史をへて、さまざまな生物が適応し、相互に共生したり食物連鎖したりする関係が維持されている状態のことである」として、人間による開発と生物多様性の持続との間に問題があること、そしてラムサール条約やワシントン条約等の枠組みを用いて国際社会がこの問題に対応しようと試みていることが書かれていました。今回、このシリーズブログを書くきっかけとなっている生物多様性条約も、そういった取り組みの一つと言えそうです。

「微生物多様性」をテーマにした展示「セカイは微生物に満ちている」が、今年4月に未来館でオープンしました。植生もある、ちょっとおもしろい展示ですので是非!
そしてこの展示の中でも、「暮らし」や「社会」などのキーワードがたくさん出てきます。生物多様性という言葉は、理科だけの言葉じゃないんだなぁと改めて思いました。

生物多様性、どう考える?

まだここでは詳しく紹介できていないですが、生物多様性の保全について国際的に話し合う「COP15」は、おそらくただ単に「理科」の目線からだけ生物多様性というものを論じるものではなさそうです。むしろ、ただ単に「理科」の目線からだけ論じることでは、生物多様性の保全という目標は達成できないと言えるでしょう。「現代社会」や「政治・経済」の教科書にもこの話題について書かれているということからも、そのことが読み取れるのではないでしょうか?

ここで、今回この生物多様性について扱うことの重要さ、そして難しさを象徴しているある表現を思い出しました。それは、生物多様性の問題を含む環境問題は“やっかいな問題”だ、というものです。環境問題には、いろいろな利害関係者の、いろいろな思惑や意図が複雑に絡み合っていてそもそも「正解」と呼べるものが存在しないので、そのように言われています。ただし、正解が存在しないからといって考えないわけにはいかないのがこの問題。今まさに生物多様性は失われていて、それによる害が私たちに降りかかってきているから、何か対策をしなければいけないという現実からは逃れられません。では一体どうすればいいのか。この問いがとても難しいのです。私たち科学コミュニケーターも、未来館で一体どんな活動をしていけばいいのかとても悩んでいます。

これから連載される「#Miraikanで考える生物多様性」のブログでは、科学コミュニケーターそれぞれがそれぞれの視点から、「生物多様性」について思うことや勉強したことを書いていきます。視点がいろいろで一貫していないばかりか、もしかしたらそれぞれの記事を比べると主張が矛盾しているように思えることすらあるかもしれません。それでも、生物多様性とその保全という“やっかいな問題”に何とか対応するために、企画に向けてまずはシリーズブログを書いてみよう!と考えています。科学コミュニケーターそれぞれのばらばらな視点を、いったん言語化してみよう、ということです。
 そんなブログですから、皆さんもぜひ、あなたならではの視点で色々考えながらブログを読んでみていただけると嬉しいです。もし未来館に来ることがあれば、ぜひ記事を読んで思ったことを教えてください!

1)大日本図書、「理科の世界 3」、(2021)、118P。
2)第一学習社、「改訂 高等学校 生物」、(2021)、358P。
3)東京書籍、「政治経済」、(2021)、103P。
4)東京書籍、「現代社会」、(2021)、10P。



Author
執筆: 大澤 康太郎(日本科学未来館 科学コミュニケーター)
東京都の八丈島に生まれてから高校卒業まで住んでいました。中学から高校にかけて自由研究に熱中したり、研究対象でもあった光る生き物の観光ガイドをしたり、八丈島の自然に科学の芽を育んでもらいました。でもなんやかんやで実は人間の生活について考える方が好きだな、と気づいて今に到ります。皆さんが普段何を食べて、何を見て、何を考え、そこにどんな科学が入り込んでいるのか。一人一人の“日々”についてたくさんお話ができたらと思っています!