新型コロナウイルス感染症(COVID-19)から回復した患者の血液を基に作った「スーパー中和抗体」が、オミクロン株など多様な変異株に有効であることを動物実験で確認した、と富山大学などの研究グループが発表した。同グループは今後も出現するとみられる未知の変異株にも効果がある治療薬の開発につながると期待している。

中和抗体はウイルスの粒子に結合し、人間の細胞への感染を防ぐ働きがある抗体で、中和活性はその強さの程度を表す。スーパー中和抗体は、研究グループが回復患者のうち、新型コロナウイルスに対する強い(高力価)中和抗体を持つ患者を選定。採取した血液から抗体を作るB細胞を取り出し、遺伝子組み換えの手法で複数の人工的な組み換え抗体を作製するなどして作り上げた。従来の人工中和抗体より感染を防ぐ力が高いとされる。同大学が昨年6月に「スーパー中和抗体」(開発番号:UT28K)と名付けて研究成果を発表した。

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    富山大学が開発したスーパー中和抗体作製の基本プロセス(富山大学提供)

世界的なCOVID-19がなかなか収束しない中で次々と新しい変異株が出現している。昨年から今年にかけて世界的にオミクロン株が猛威を振るい、日本国内でも同株のまん延が感染「第6波」を引き起こした。今後も新たな変異株が出現したり、変異株の派生型(亜種)が現れたりするのは間違いないとみられている。

このため、研究グループは今回、スーパー中和抗体UT28Kが多様な変異株に対する効果があることを確かめる研究を進めた。まず、変異株のウイルス(生ウイルス)にUT28Kを投与する「中和活性測定実験」を行い、UT28Kが従来株(野生株)のほか、どの変異株に対しても感染を阻害することを確認した。

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    スーパー中和抗体UT28Kが新型コロナウイルスの多様な変異株に対して高い中和活性を示す実験結果のグラフ。オミクロン株に対する中和活性は多少低下したが、残りの株に対してはウイルス増殖を止める極めて高い活性を示した(富山大学提供)

また、ハムスターの腹部にUT28Kを投与し、24時間後に変異株の人工疑似ウイルス(シュードタイプウイルス)を注入したが、感染はしなかったことを肺の画像から確認した。中和活性の全くない抗体を投与後に同様に注入したハムスターは感染し、中和活性測定実験と同じく変異株に対するUT28Kの感染阻害効果を確認できたという。

これらの実験対象になったのは、従来株のほか、アルファ株、ベータ株、ガンマ株、カッパ株、デルタ株、イプシロン株、オミクロン株の7つの変異株の合計8種類の株。研究グループはさらに、どの変異株でも構造が変わらないとみられる「F486」「N487」と呼ばれるウイルス表面の抗体結合部位(エピトープ)に、UT28Kがしっかり結合することなどを構造解析で確かめたという。

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    変異株のシュードタイプウイルスを使ったハムスターの実験工程(上)と、UT28Kが多様な変異株の感染阻害効果があることを示すハムスターの体内画像(下)(富山大学提供)

研究グループのメンバーで富山大学先端抗体医薬開発研究センターの仁井見英樹准教授は「UT28Kの変異株に対する感染阻害効果を確認でき、今後も出現するとみられる未知の変異株に対しても感染を防御できる治療薬になり得ることが分かったので、国の承認を得て実用化を目指したい」などと述べている。

 抗体治療薬はがん治療用などに使用されていたが、COVID-19用としては米製薬大手のイーライリリーがいち早く開発。2020年11月に米食品医薬品局(FDA)が緊急使用許可を出して以降、米国内外に普及した。その後日本国内でも複数の研究機関がさまざまな抗体治療薬の開発を競っている。

 UT28Kの効果を発表した研究グループは、富山大学の医学部、工学部、付属病院の連携組織である先端抗体医薬開発研究センターの仁井見准教授、小澤龍彦准教授らのほか、同大学和漢医薬学総合研究所や富山県衛生研究所、京都大学医生物学研究所や北海道大学薬学研究院の研究者で構成。研究論文は11日付の国際学術誌「mAbs」に掲載された。

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