ドローンや空飛ぶクルマを社会インフラに!【JAL】が見据える『次世代エアモビリティ戦略』

ドローン物流と空飛ぶクルマ

〈長崎県の離島・新上五島町。早朝に水揚げされた鮮魚が東京から遠隔操縦された”ドローン”で中通島まで運ばれ、トラックで長崎空港まで輸送。そのまま飛行機に乗せて羽田空港に到着すると、その日の夕方には都内の料亭に届けられる……〉

〈ゴールデンウイークの最中、名古屋市内に住む家族が岐阜の白川郷まで旅行に向かったが、クルマで大渋滞。抜け道もなく、早朝に自宅を出たのに着いたのは夕方だった。そこで”空飛ぶクルマ”を利用すると、わずか30分ほどで到着し、1日中、白川郷を満喫できた……〉

【日本のDXの後れの要因】システム業界の商習慣を変える! 東大発ベンチャー PKSHA Technology

 こんな光景が実現する日が訪れるかもしれない。「ドローンや空飛ぶクルマといった次世代エアモビリティを、安全を担保した形で社会インフラとして育てていくことが我々の使命だ」――。JALエアモビリティ創造部部長の村越仁氏はこう語る。

 コロナ前の2019年度の売り上げ構成のうち航空運送事業が約75%を占め、運送事業に依存する”一本足打法”からの脱却を進めていた同社。その最中にコロナ禍となり、「人や荷物を飛行機に乗せて飛ばす」という本業が大きなダメージを受けた。そんなJALが将来に向けた成長の種として見据えるのが「ドローン」と「空飛ぶクルマ」だ。

「事業の軸の流れはモノからヒト、過疎地や離島といった地方から都市部、そしてドローンから空飛ぶクルマだ。これらの社会実装に必要な機材・安全を担保する運航管理体制・操縦士の養成で貢献していく」(村越氏)

 既に同社は動き出している。ドローンでは長崎県の五島列島や東京・隅田川で実証実験を重ねた。22年下半期には改正航空法が施行され、有人地帯での補助者なしの目視外飛行が可能になる。これを踏まえ「22年度中には奄美大島で複数のドローンを同時に遠隔操作する実験を実施する」(同部事業開発グループ長の久根﨑将人氏)。

 ドローンを使った物流では道路や橋、あるいは工場といった構造物の点検や農地での農薬散布、山間地や離島での日用品や医薬・医療品の配送など用途分野はかなり広い。「災害対策でも道路が寸断されてトラックが行けない避難場所に救援物資を運ぶことも可能」(同)だ。

 一方、空飛ぶクルマでは25年の大阪・関西万博のタイミングで実用化を狙っている。そのためにも、社会実装に積極的な三重県と連携。実際に空飛ぶクルマに見立てたヘリを飛ばし、中部国際空港―鈴鹿―志摩を巡った。電車やバスでは数時間かかる移動が大幅に短縮された。

 東京から直線距離で数十キロ~100キロの圏域で、鉄道やクルマで行きにくいエリアは空飛ぶクルマが活躍する領域だと村越氏は見据える。数時間もかかっていた移動時間が数十分で済めば、これまで観光地として陽の目を見ていなかったエリアが一大観光地に様変わりする可能性も秘める。

 同部オペレーション企画グループ長の田中秀治氏は「飛行機は2つの空港間だけを結ぶが、空港から先のスポット(地点)を空で結ぶ移動手段は今のところヘリコプターしかない。空飛ぶクルマを使えばヘリよりも低価格での運送が可能になる。この領域はホワイトスポットだ」と話す。

 ドローンと空飛ぶクルマの領域は市場開拓の余地は大きい。それだけに自動車や鉄道、商社、ITなど参入企業は様々だ。空飛ぶクルマの世界の市場規模は40年までに約160兆円規模になるとも言われる。その中でJALはどのような立ち位置を狙うのか。

空の知見がない事業者を支える

 1つはJAL自身が次世代モビリティを運航してヒトやモノを運ぶケース。鶴丸を付けたエアモビリティが運送をするというものだ。そしてもう1つが「リスクマネジメントを含めた安全運航管理のプラットフォームを提供する」(村越氏)というケース。後者では「空に関する知見のない事業者を安全な運航管理システムで支える」(久根﨑氏)ということになる。つまり、JALが、”黒子”になるということだ。

 ドローンも空飛ぶクルマも地上10キロ上空を飛ぶ飛行機よりも低い生活空域を飛ぶ。しかも、空飛ぶクルマも将来は操縦士が乗らない遠隔操縦が実現し、上空を多数の機体が多頻度に飛び交う世界が訪れると予測される。さらにこれまで飛行機で2地点を結んで完結していたものが、次世代エアモビリティと結びつくことで、「毛細血管のように細かな交通ネットワークを形成できる」(村越氏)。

(C)Volocopte

東京都内を飛行する「空飛ぶクルマ」のイメージ

 だからこそ、安全は避けて通れない命題となる。法令に則って安全に運航するための技術やノウハウを持つ同社は、人間は必ずミスをするという前提の下、「状況認識や冷静な判断力、コミュニケーションなどのノンテクニカルスキルでエラーを未然に防ぐ知見もある。緊急事態発生時の対応も含めて貢献できる領域は大きい」(同)。

 ただ、社会受容性という面で大きな懸念は残る。落下の不安や騒音を懸念する国民が多いのも事実。どのくらいの高度をどのように飛ぶか、悪天候時の対処、事故時の補償といった議論も求められる。その点、国や行政、民間を巻き込んだルールづくりが不可欠だ。

 また、次世代エアモビリティがJALの収益面で貢献するには長期的な目線が必要だ。コロナ禍で苦境が続く中、将来を見据えた仕込みを続けて行けるか。JALの本気度が試されることになる。