【日本のDXの後れの要因】システム業界の商習慣を変える! 東大発ベンチャー PKSHA Technology

デジタル格差が拡大する中、PKSHA Technology(パ ークシャテクノロジー)は「デジタルの恩恵を受けていないシニア層や、パソコンはないけれど電話はあるという人たちにもデジタルの恩恵を届けていきたい」(上野山勝也・代表取締役)と日本語の話し言葉で問い合わせができる対話エンジンサービスの普及に力を入れる。また、業界共通の課題を解決すべく、業界横断のプラットフォームの提供を開始。PKSHA が進めるAIの社会インフラ戦略とは─。

本誌・北川 文子 Text by Kitagawa Ayako

システム業界の風習を変えたい

「2012年に研究室のメンバーで創業。(AIの)研究開発をしてきたので、どう社会に実装すれば良いかを考えてきた」─。

 PKSHA Technology代表取締役の上野山勝也氏は会社設立の経緯をこう話す。

 PKSHAは東京大学の音声や映像処理の研究チームがスピンアウトして誕生。17年9月マザーズ上場。ベンチャーは赤字が多いが、同社の業績は上場以来黒字。22年9月期も売上高120億円、EBITDA24億円、営業利益10億円を見込む。

 黒字経営を続けている理由は創業のモチベーションにある。

「1社あたりの単価を上げるようなシステムインテグレーターの商習慣を変えたかった。『できなかった。でも儲かったね』ではキャッシュは残っても、クレジットが毀損してしまう。創業時から、信用自体を大きくして、結果、お金につながるという思想があった」と語る。

 上野山氏は会社のステージをフェーズ1、フェーズ2に分類。

 創業時はまだAIという言葉も知られていない時代。そのため創業時は企業との「研究開発」が中心で、その事業をフェーズ1、そしてフェーズ1の成果をAI SaaSとして「社会実装」したものをフェーズ2に分類。

 フェーズ1の「研究開発」ではトヨタやNTTドコモなどと共同研究を実施。またベネッセコーポレーションと『進研ゼミ高校講座』の学習アプリ『AI StLike(エーアイストライク)』を開発。

 50年以上の進研ゼミの学習指導ノウハウを活用して、1レッスンあたり約2000億通りの学び方の中から1人1人に最適な解説だけを抽出して提供するアプリを開発、20年『日本e-Learning大賞』で『経済産業大臣賞』を受賞した。

 フェーズ2の「社会実装」に向けて開発した商品には、チャット型対話エンジンの導入や定型的な問合せを自動音声対話で完結させ、オペレーターの負担を軽減できる対話エンジン『BEDORE(ベドア)』、よくある質問や回答(FAQ)サイトの作成から分析・運用・改善を簡単にできる『OKBIZ(オーケービズ)』などがある。

 AIベンチャーと呼ばれるPKSHAだが、ミッションは「未来のソフトウエアを形にする」。

「人とソフトウエアの共進化」を目指すアルゴリズムを商品化し、2354社に導入してきた。

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 こうして見ると、PKSHAはAIを活用したソフトウエア開発会社といえる。上野山氏も、大企業との共同開発で見えてきた課題を次のように語る。

「システムインテグレーターの多重下請け構造でソフトウエアがブラックボックス化して、ソフトウエアの改編に多額のお金がかかる。それから大企業しか先行投資ができず、デジタルの恩恵が業界全体に波及しない」

 こうしたシステム業界が抱える課題を解決すべく、「社内に埋もれた知恵やナレッジを企業の枠を超え、多くの会社が使えるようにしよう」とフェーズ2の事業として「AI SaaS」事業を立ち上げた。

日本語AIでGAFAに対抗

「日本語の対話応答で勝ち切ることが重要」─。

 上野山氏は今後の成長のカギをこう語る。

 ブームともいえる状況にあったAIだが、市場は今どうなっているのか─。

 上野山氏はAI市場を3層構造で捉えている。

「一番上の1層目に国を超えて存在するGAFAのようなグローバルプラットフォームプレイヤーがいて、2層目にIBMやNECのようなエンタープライズソフトウエアマーケットがあり、3層目にわれわれのような新興がいる」という構造だ。

 1層目のGAFAは「汎用AI」を開発しているが、この競争に勝ち目はない。だが、2層目と3層目はコンタクトセンターや自動運転、医療AIなど「業界バーティカル(垂直)専用AI」の開発競争が起きており、PKSHAはここで勝負する。

 その中で切り札になるのが〝日本語〟。

 PKSHAは自社が提供するAI SaaSを「人と話し言葉で対話をし、人と共に進化するソフトウエア」と定義。例えば、企業の問い合わせセンターに連絡をするにも「キーボードで入力しなくても電話で困りごとを話せばAIが自動的に回答。そこでも対応できないものは人が解決する」という使い方だ。

 AIはデータの量が競争力の源。PKSHAの対話エンジン『BEDORE』は2億回の会話を実現、既に100社以上にサービスを導入している。

 さらに、PKSHAの関連会社「MNTSQ(モンテスキュー)」が長島・大野・常松法律事務所と提携して契約書の解析アルゴリズムを開発、契約データベースシステムとしてトヨタや三菱商事、コマツなどが活用するなど、会話に加え、文字ベースの様々な日本語データを解析。

 この強みを活かし、「日本語データのハブになることで(GAFAなどの)グローバルプレイヤーに対抗していく」。

 日本のDXにも注力する。その1つが今年5月にスタートした問い合わせ業務の知見を地銀間で相互共有する『地銀FAQプラットフォーム』。

 全国に点在するFAQを集約し、日本語AIエンジンで解析、PKSHAのAI SaaSを通じて各地銀が利用できるサービスだ。

 元データは京都銀行が提供。

「競争はあるが、システムなど共創領域は共にやっていきたい」とPKSHAと業務提携、プラットフォームを提供する。

 この取り組みに参画する十六銀行は「地域差やサービス、事務要領による違いはあると思うが、共通部分も多い。連携可能な部分は一緒に取り組み、共通化することで地銀全体の活性化に貢献したい」と語る。

 業界で共有できるプラットフォームの展開を視野に入れるPKSHAだが、すでにクレジットカード分野で実績を出している。

 AIが最新のカード不正手口を学習し、不正使用を抑制するサービスで、サービス導入後、クレディセゾンのカード不正利用は業界平均値を大幅に下回る水準になった。

「ソフトウエアを個別に作るのではなく、共通で使う。SaaSというクラウドで知恵を共有し、社会実装していくべき」

 AI技術の汎用化も進む中、日本のDXが遅れた要因とも言えるシステム業界の商習慣を変え、AIの社会インフラ化を進めていく。

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