広島大学とAFIテクノロジーの1月27日、新開発の「マイクロ流路電極一体型チップ」(一体型チップ)を評価した結果、前処理なし、かつ簡単な操作でバクテリアや真核細胞を連続的に分離できることを確認したと発表した。

同成果は、広島大 学術・社会連携室 環境遺伝生態学分野の丸山史人教授と、AFIテクノロジーの研究者らの共同研究チームによるもの。詳細は、物理・地球科学・生命科学・健康科学などの幅広い分野を扱うオープンアクセスジャーナル「iScience」に掲載された。

従来の細胞分離方法は、セルソーターなど、細胞に目印となる物質(蛍光物質や抗体)を標識として用いる手法が一般的であり、細胞をそのままの状態で分離することは難しかった。また、標識の必要がない方法として、マイクロ流路を使った細胞サイズ分離方法や、誘電泳動力による電気的な分離方法も研究されているものの、分離精度や操作の複雑さに課題があるという。

今回開発された一体型チップは、マイクロ流路を用いたサイズによる分離方法と、誘電泳動力による電気的な分離方法の両原理を駆使したもので、サンプルの投入口は、マイクロ流路によるサイズ分離部(HDF region)につながり、そこでターゲット細胞よりも小さな細胞がより分けられて、1つ目の出口(出口ポート3)より排出されることとなる。

その後、ターゲット細胞を含む残った細胞は、誘電泳動を原理とした電気特性分離部(DEP region)に送られ、そこでターゲット細胞のみが電極に沿って移動し、出口ポート1で回収され、それ以外の細胞は出口ポート2から排出されるという仕組みが採用されている。

これまでも誘電泳動力による細胞分離は研究されていたが、通常は誘電泳動力が適切に働くためのシース液に遠心分離などの処理であらかじめ液置換しておく必要があったが、今回の一体型チップでは、サンプルとシース液を同時に流すだけで、細胞に目印となる物質で標識する必要もないシンプルな操作方法で、細胞をより分け、ターゲット細胞を分離することが可能であることが示された。

また、チップ内のHDF regionで細胞サイズによる分離をしながら液置換できていることが導電率測定によって証明されたほか、その際、バクテリアのような1μm前後の小さな粒子は最初の出口ポート3へと分離され、DEP regionでさらに精密に分離できることがデータで示されることとなった。

さらに、10μm以上の真核細胞として、ヒト細胞(Jurkat細胞、MCF7)を用いた分離試験が行われたところ、印加電圧の周波数に対する反応性の違いを利用することで、これらの細胞を等量混合したサンプルからMCF7だけを90%以上の純度に濃縮できることも確認できたという。

なお、開発された一体型チップは、分離した細胞を出口ポートから簡単に回収することができるため、多くの細胞を連続的に回収することができるほか、細胞をそのままの状態で簡単な操作で分離できるため、環境中にあるダメージに弱い細胞や治療用細胞の分離など、従来の方法では困難だった研究や産業化への応用も期待されるという。

  • 開発された一体型チップ

    一体型チップの原理図 (出所:プレスリリースPDF)