想像してみてください。約2mmの黒々とした粒が一つ。砂場に落としたら二度と見つからなさそうなこの粒が、実は宇宙の彼方からやってきたもので、地球や太陽系の歴史を読み解く手がかりだと言われたら──あなたはどう感じるでしょうか?

今回公開されたリュウグウの“かけら”のうちの一つ(左)と1円玉(右)。

2020年12月6日、小惑星探査機「はやぶさ2」が総飛行距離およそ52億kmにもおよぶ長旅から戻り、地球にカプセルを届けました。カプセルの中身は小惑星リュウグウから採取した砂やガス。小惑星は地球や太陽と同時に誕生し、その当時に近い状態を保っていると考えられています。しかも小惑星の一つであるリュウグウには、私たちの体を作る材料の一つである炭素が存在すると予測されました。研究者たちはいま、太陽系や私たち生命がどのように生まれたのか明らかにするべく、リュウグウのサンプル分析に日夜取り組んでいます。

そして2021年12月、日本科学未来館ではカプセルの帰還一周年を記念し、特別企画『帰還一周年 「はやぶさ2」カプセル&リュウグウの“かけら” 大公開』を開催しました!!(12月13日に無事閉幕)

本企画の目玉展示の一つが、JAXA(宇宙航空研究開発機構)からお借りしたリュウグウの“かけら”2点です。これらは実際に採取された5.4gのサンプルの一部であり、とても貴重なものです。このブログ記事では展示の裏に隠された苦労や工夫を、制作に参加した科学コミュニケーター花井の視点から、皆さんにちょこっとだけご報告いたします!

左は一回目、右は二回目のタッチダウンで得られた“かけら”を展示しています。

展示がオープンする一か月ほど前、私たちのチームは取材のためにJAXA相模原キャンパスを訪問しました。そこで対面したのが“かけら”の展示に使われる特別な容器です。外気の影響で“かけら”の状態が変わってしまわないよう、保存にはしっかりと密閉された容器が必要です。手のひらに乗るサイズの金属製の筒(ずっしりと重い!)に直径2.5cmほどの小さなのぞき窓が一つ。目を凝らすと、その奥底に“かけら”を模したビーズがぽつんと見えました。

リュウグウの“かけら”を展示する際に使う容器。

この時点で“かけら”を展示するうえでの課題が見つかりました。貴重な“かけら”をきちんと守るには、専用の展示ケースを用意し、その中に容器ごと置く必要があります。この場合、お客様はケースの外側から容器の奥をのぞき込むことになるので、見づらくない置き方を考えなくてはいけません。しかも展示できる“かけら”は人間の目にはとても小さく、拡大鏡を使ってようやく特徴が分かるようなサイズです。「様々な来館者に“かけら”をじっくり見ていただきたい!」という私たちの目標を果たすには、どうやらいくつもの工夫が必要になりそうです。

迷っている時間はありません。取材を終えると、未来館チームは展示方法のアイデアを練りはじめました。未来館に来てくださるお客様は多種多様です。“かけら”を置く展示台をできるだけ低くしたほうが、小さなお子様や車いすをお使いの方にも見やすくなります。また、お客様が身を乗り出さずにのぞきこめるよう、JAXAの担当者と相談したうえで容器を少しだけ傾けて置くことにしました。

それにあわせて、レンズを傾けられるタイプの拡大鏡が必要になります。最適なものを選ぶため、業者の方に拡大鏡の実物を複数種類お持ちいただき、本番と同じ容器(中身はビーズ)を使って展示方法のテストを行いました。皆で拡大鏡の前で立ったり、かがんだり、座ったり・・・。時間をかけて検討した末に、ようやく拡大鏡の種類と設置方法がおおむね決定。レンズはピントを合わせやすく、明るく見える低倍率のもの(6倍)を選びました。

座ったままでも容器の中身が見られるかテスト中。

これらの試行錯誤をふまえつつ、利用可能な資材から展示ケースを作るため、デザイナーさん(「はやぶさ2」の大ファン!)や設営業者の方々と打ち合わせを重ねました。そしてできあがったのが、こちらの展示です。会期中は天候にも恵まれ、大勢のお客様にじっくりと“かけら”を見ていただくことができました。

完成したリュウグウの“かけら”の展示。
展示ケース越しに見るリュウグウの“かけら”。これは2回目のタッチダウンで得られたもの。

展示の完成後、実際にリュウグウの“かけら”を見た科学コミュニケーターの増田がこんな感想を伝えてくれました。

リュウグウの“かけら”は科学的な新発見をもたらすという点で、宇宙の研究者にとって貴重なものです。では展示をご覧になったお客様や、このブログの読者の皆様(おそらく大部分は宇宙の研究者ではないと思います)にとって、この砂粒はどんな意味を持っているでしょうか。あなたが“かけら”を目にしたとき、わずかでもハッとする感覚や心ときめく瞬間があったとしたら、(それが科学的な新発見であろうとなかろうと)“かけら”はあなた自身にとっても大切なものになるはずです。

未来館で展示された“かけら”はすでにJAXAへお返ししましたが、今後も皆様がサンプルに出会える機会があるかもしれません。その際にはぜひご覧になってください。そして感想をお友達やご家族に話してみると楽しいですよ!

ちなみに未来館には電動車いすを使って働くスタッフがいます。スタッフ向けの内覧会の後、彼から「リュウグウの“かけら”見えました!」と一声かけられたとき、私は制作に関わった身として心の中で小さくガッツポーズしたことを、最後に書き添えておきます。


関連リンク
  • リュウグウのサンプルから得られた研究成果
    -リュウグウは水、有機物に富む始原的な小惑星だった ─ リュウグウ帰還試料の初期記載から分かったこと ─(外部サイトへ) https://www.isas.jaxa.jp/topics/002891.html
    -赤外分光顕微鏡マイクロオメガによるリュウグウ帰還試料の初期成分測定(外部サイトへ) https://www.isas.jaxa.jp/topics/002892.html
  • サンプルの画像や分析データを公開するWEBカタログ(外部サイトへ)
    どのようなサンプルがあるのか、研究者だけでなく誰でも見ることができます。 https://darts.isas.jaxa.jp/curation/hayabusa2/
  • 特別企画『帰還一周年 「はやぶさ2」カプセル&リュウグウの“かけら” 大公開』紹介ページ https://www.miraikan.jst.go.jp/events/202111052206.html


Author
執筆: 花井智也(日本科学未来館 科学コミュニケーター)
子どもの頃から博物館と恐竜が大好き。中学2年生のとき、将来は科学にたずさわる仕事に就くことを決心しました。恐竜の成長をテーマにした研究で博士号を取得するも、「科学コミュニケーションの力で、もっと日本の博物館や科学館をもりあげたい!」という思いから未来館へ。休日はボクササイズとランニング@荒川河川敷で汗を流しています!