M&Aキャピタルパートナーズ・中村悟の「焦らずじっくり」M&A仲介戦略

コロナ禍で一時、対面での仕事ができずに停滞したM&A。しかし、コロナが収束するにつれて案件が動き出し、結果M&Aキャピタルパートナーズの業績は最高益を記録、成約件数も過去最高となった。「コロナに直面し、事業承継を含め、会社の将来を真剣に考える経営者が増えたからではないか」と社長の中村悟氏。日本で事業承継が課題となる中、M&A仲介の課題と果たすべき役割とは─。

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コロナ禍を経て変わった経営者の意識

「2020年9月期決算の下期にはコロナの影響があった。ミーティングの多い仕事だけに様々なスケジュールが中止、延期になった」と振り返るのは、M&Aキャピタルパートナーズ(MACP)社長の中村悟氏。

 M&A(企業の合併・買収)は人対人の仕事だけに、コロナ禍の当初は難しい局面もあったが、社内や協力している弁護士などの専門家含め、リモートを活用した働き方に徐々に適応していった。

 一方、コロナ禍が事業の後押しになった面もあった。「『社長に何かあったら、会社のリスクに直結する』ということを真剣に考える経営者が増えた。M&Aには、そのリスクと会社を切り離す役割もある」(中村氏)。M&Aを含めた事業承継を前倒しするケースが増えたようだ。

 結果、21年9月期決算では売上高が約151億円(前年同期比27.7%増)、経常利益が約65億円(同30.4%増)、成約件数172件(同23.7%増)と、いずれも過去最高を更新。

 中村氏はこの要因を「日本のM&Aのパイが広がっていること、当社のブランド、力が上っていることが大きいのではないか」と分析する。

 同社は05年に中村氏が創業。日本のM&A仲介の世界で日本M&Aセンター、ストライクとともに大手3社の一角を占めている。他2社との違いをどう見ているのか。「日本M&Aセンターさん、ストライクさんは基本的に、銀行、証券、会計事務所と提携しての仕事が多い。我々は銀行との提携も一部あるが、ほとんどが直接オーナーさんのところに通って関係を築く泥臭いスタイル。これが違いではないか」

 中にはM&Aによる事業承継が成就するまでに7年かかったケースもあったという。まさに「焦らずじっくり」の戦略だ。

 このスタイルには中村氏の原点が関係している。元々、1995年に工学院大学工学部建築学科を卒業後、積水ハウスに入社。設計業務の後、地主の相続対策や資産運用業務に従事。「地主さんをコツコツ回る仕事だった。それが今はオーナーさんを回っているという形」(中村氏)

 もう1つ、MACPは他社に比べて1件あたりの規模が大きいことが特徴。1件あたりの株式譲渡の平均金額は約15億円と、他2社の3~5倍の水準。

 その一方で仲介手数料率は他社の3分の1程度。着手金を無料にしていることに加え、株式価額に手数料率を掛ける「株価レーマン方式」を採用していることが大きい。

 M&A仲介の世界では、取引価格に対し一定の手数料率を掛けて成約報酬額を算出する。これを「レーマン方式」という。その中に移動総資産に手数料率を掛ける「移動総資産レーマン方式」と「株価レーマン方式」とがあり、多くの仲介会社が前者を採用している。

 例えば、総資産20億円、負債15億円、株式価額5億円の企業の場合、移動総資産レーマン方式ならば成功報酬は7500万円、株価レーマン方式ならば2500万円となる。「扱っている案件が大きいので、低い料率でも収益を上げることができる」

 創業以来、事業承継の目線で中小企業オーナー個人と上場企業やファンド、中堅企業とを結び付けてきたが、16年には日本のM&Aの草分けであるレコフを買収。レコフは大企業同士を結びつけるスタイルだけに、MACPとは仕事のやり方も違った。ベトナムに特化してクロスボーダー案件も手掛ける。

「どちらも我々にない機能だけに欲しかった。企業同士のM&Aは強化していきたい」と中村氏。21年10月からはレコフ社長も兼務している。同社は山一証券出身の吉田允昭氏が創業し、その色が残る企業。MACPとは社風や人事評価なども違うため、これをどう融合させていくかは今後の課題。

 中村氏は21年10月に発足した、業界の自主規制団体「M&A仲介協会」の理事も務める。実は19年から21年にかけて、中小企業庁に登録しているM&A支援機関の数は約1000件増加している。「M&Aは人の人生、会社の将来を左右する仕事。倫理観やノウハウがない事業者では責任が取れない」という危機感がある。

 また今、日本のM&A仲介では売り手、買い手のどちらか一方に立つケースはなく、いわゆる「両手仲介」。これに対してはかねてから「利益相反を孕むのではないか」という指摘がある。

 だが中村氏は「売り手、買い手ともに迷うことがある。それを双方と信頼関係のある仲介会社が間に入ることで条件が守られる。事業承継は仲介しか難しいのではないか」という認識を示す。その意味では協会、個社で業界の健全性確保のための発信が今後さらに重要になる。

 中村氏は積水ハウス時代に地主の課題解決に取り組む中でM&Aアドバイザーの仕事を知り、ぜひやりたいと考えたことがきっかけ。だが、住宅営業出身者が金融機関で望む仕事ができるかはわからないと考えて独立。

 2度の倒産の危機を経て、今は時価総額約1800億円(21年12月現在)の企業に成長。

 中村氏は将来に向けて「ゴールドマン・サックス(GS)のような会社になりたい」と話す。特に上場前、パートナーシップ制を取っていた時代のGSの姿に憧れを抱く。

「歴史を積み重ねて強固なブランドを築き、さらに優秀な人材を集め、レベルの高い仕事を手掛ける。そういう循環を生む会社になっていきたい」(中村氏)

 特に、中堅・中小企業のうち約127万社が後継者難で廃業の危機を迎えると言われる今だけに、果たすべき役割は重い。

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