京王線刺傷事件が投げかける難問に頭悩ませる鉄道各社

「駅の警備を強化したり、車内循環を実行するなど、様々な手を打っているが、こういうことはまた起こり得る。具体的な策が見い出せないところが悩ましい」─。私鉄大手首脳は語る。

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 東京・京王線での刺傷事件は公共交通機関である鉄道の安全対策をどう考えるかという大きな課題を突き付けている。最も効果的な対策と言われているのが車両内の防犯カメラの設置だ。

 首都圏の鉄道各社では列車内の防犯カメラの設置率に差がある。例えば東急電鉄は100%。「痴漢や暴力、すり、つり革の盗難などの犯罪行為や迷惑行為を未然に防ぐ」ことを目的としていた。

 10年から埼京線に防犯カメラを設置したJR東日本の導入理由も痴漢対策だ。抑止力が働いたこともあって痴漢の発生率は抑えられた。その後も同社は防犯カメラ設置を進め、現在の設置率は管内で8割に上る。

 続く東京メトロが4割台、京成電鉄や相模鉄道が3割台、小田急電鉄が2割台だ。1割台後半が今回事件の起こった京王電鉄、1割台前半に東武鉄道と西武鉄道が並ぶ。最も設置率が低い京浜急行電鉄は1ケタ台だ。

「新型車両を導入するタイミングで防犯カメラを設置しているが、既存車両に導入する計画は今のところない」と私鉄幹部は語る。通勤電車の価格は約1億円が相場。10両編成であれば約10億円の計算となる。新型車両であれば、この相場を上回る価格になるのは想像に難くない。

 また、既存車両に防犯カメラ設置の改修をするにしても、「改修期間中、その車両は動かせない」(同) 上に、防犯カメラは収益を生まない。しかも、防犯カメラ設置がプライバシーにかかわると指摘する声もある。

 そういう状況下、乗客の命をどう守るかという命題。

 鉄道は公共交通機関だ。安い運賃で気軽に利用できる環境を提供することが使命。しかし一方で乗客の安全も公共交通機関の大きな使命だ。コロナ禍で鉄道収入が激減している最中に起きた難問に鉄道会社の悩みは深いものになりそうだ。