KDDIのシリコンバレーにおける取り組みについて、KDDI Investment Teamの傍島 健友氏へのインタビューを2回に渡ってお伝えした。最終回となる第3回では、シリコンバレーにおけるコミュニケーションの苦労話と、シリコンバレーという土地柄、日本企業がこの地とどう向き合うべきか、語ってもらった。

英語を話せても「3歳児くらいの感覚」

筆者は今回、複数の企業取材で渡米したが、正直ほとんど英語を話すことができない。テクノロジー企業の取材については、IT用語の多くが「カタカナ言葉」として利用されているため、細かい表現でわからない部分はあっても、ある程度の理解はできる。ただ、日常会話やビジネスのやり取りともなればその難易度は格段に上がる。

  • KDDI Investment Team 傍島 健友氏

傍島氏のレベルは私と比較してはいけない程度高いと思うが、それであっても「希望してのこととはいえ、海外で暮らすことは初めてで、英語の勉強も我流。正直、何か伝えようとしても伝えられない3歳児になったような感覚でした」と傍島氏は話す。海外法人へ赴任するケースは、どの国の企業であっても少なくないはずだが、日本企業は母国語の壁があるうえに、通常の異動ローテーションの一貫として海外赴任があるため、言語に慣れたタイミングで異動するということも少なくないだろう。

「例えて言うなら、『席をちょっと詰めて』が言えないのですよ(苦笑)。ほかにも、『そこの塩を取ってください』も、『塩取って』なのか『塩を取っていただけますか?』のニュアンスの違いがある。アメリカ人は『ストレートにNOを突きつける』というイメージを抱きがちですけれど、実際には相手をリスペクトしながら、丁寧にNoとはっきり言う。そんな小さなニュアンスにも気をつけなくてはいけない、そういった感覚を養うことが大変です」(傍島氏)

シリコンバレーでは、多くの日系企業が拠点を構えているため、そういったところで情報交換も少なくないのだろうと思いきや、「企業ごとにそれぞれミッションが違う。私としては、日本人との交流をできるだけ控えるようにしています。私たちのミッションは、日本人ではなく、こちらにいる地場の外国人とのビジネス。「シリコンバレーで日系企業がやってはいけないこと」といった話も大切ですが、語学や人脈作りなど、本当にやらなくてはいけないことを考えると、地道にそれを積み重ねなくてはならないのです」(傍島氏)。

ただし、KDDIのほかのメンバーや、自宅に帰った時も日本語を話すという、語学留学とは異なる環境のため「家族を連れて海外に来るのと、ホームステイとは違う。ちゃんと英語を学べるかというと、それはまた別の話」と傍島氏は苦笑いする。「意外と難しいポイントは、英語圏の歴史や地理についての話です。西海岸は移民の町だから、さまざまな歴史・地理の話が飛び交う。ヨーロッパがなぜ、今こういう状況なのか等、その辺りのベースがない人間にとっては難しい」(傍島氏)。

切り札は「バーベキュー」

ただ、それを乗り越えるために傍島氏が取り組んでいる秘策がある。「真面目にバーベキュー」(傍島氏)だ。

「子供の学校の友達や親を呼んで、飲みながらコミュニケーション取ることを真面目にやっています(笑)。この3年間、日本人は呼ばず、現地の人だけでずっとです。そのお陰で、昨年の後半あたりから、サンクスギビングやクリスマス、ハヌカなどの集まりに呼んでもらえるようになったのです。『日本から来て大変だよ』と話すと、みんなサポートしてくれる。『Give first』が当たり前なんですよね」(傍島氏)

真面目にバーベキューすることでコミュニケーションが深まり、コミュニティに参加でき、英語も勉強できる。ただし、その裏には苦労もある。

「こちらでは飲み会が少ないし、かと言ってパーティも難易度が高い。日本では簡単に『居酒屋飲みニケーション』しやすいですけれど、こちらは菜食主義者や宗教の違いから、簡単においそれとご飯を共にできないのです。とはいえ、バーベキューでも『こちらの家族を呼んだらこちらも』『お肉は食べられない』『お酒も飲めない』など、色々ある(苦笑)。その意味でも、文化を学ぶ必要がありますね」(傍島氏)

こうした体験を通して傍島氏が感じたことは、スタートアップの観点のみならず「シリコンバレー全体が、特殊な街」ということだ。日本人も多く、中国系も、そして欧州、アフリカ系も多い。「色々な国から色々な人が来ている街。だから、スタートアップの起業家は目線がグローバルなのだなと思うのです」(傍島氏)。

手段としてはアメリカからヨーロッパ、南米へ、そしてアジアと広げる方法が定着しているものの、「基本はグローバル」(傍島氏)。アメリカも全体の一部であって「グローバルで通用するためにやることを、日々考えている」(傍島氏)のだという。