2017年度の新造車で復活した「全面塗装車」。車体自体はステンレス製だが、それを感じさせない

しかしながら、京急はこうしたステンレスのメリットを承知の上で、今回、新造車の全面塗装に踏み切った。ステンレス車が登場した直後、経営陣から「やはり京急は『赤い電車』だ」という声が上がったそうなのだ。

京急に初めて赤に白帯の電車が現れたのは、1953年のこと。1978年には、現在も続く窓周りを広くクリーム色にした新しい塗り分けが登場したが、基本的には京急イコール「赤い電車」という企業イメージが、60年以上にも渡って受け継がれてきた。

「敢えて塗装したステンレス車」の前例である、南海1000系(前寄り2両)

それゆえ、無塗装部分をかなり狭めたとはいえ、銀色の金属的な地肌が目立つ電車は「京急らしくない」と、感じられたのだろう。一度変えた設計は、なかなか元へ戻しづらいもの。だが今回、それを敢えて“塗装する”という選択をすることによって、電車の基本設計自体は変えずに、企業イメージの構築に再び役立てるようにしたのである。

敢えて塗装したステンレス車の前例はいくつかある。代表的なところでは、南海電気鉄道の1000系がある。ただ、京急の「赤」への回帰は、やはりインパクトが強かった。

電車の色が企業イメージという会社は多い

日常的な存在ゆえに、電車の色が鉄道会社、ひいては鉄道が走る地域のイメージと結びつけられることは多い。典型的な例が阪急電鉄で、創業以来の「マルーン」をまとった上品な電車は、沿線住民の誇り、アイデンティティでもある。他にも、小田急電鉄の「青帯」や西武鉄道の「黄色」などもある。会社全体ではなくても、東京メトロ丸ノ内線の「赤にサインカーブ」やJR東日本中央線快速の「オレンジ」など、例は枚挙にいとまがない。

  • 左:京急のイメージは、やはり赤に白帯(写真は800形)。右:阪急のイメージカラーは、創業から100年以上変わらない「マルーン」だ

私鉄はそうしたイメージを事業に活用してきた。バブル期頃よりもてはやされた「CI戦略」の一環でもあるが、その歴史はさらに古くさかのぼれそうだ。例えば阪急は、マルーンの電車から感じられる高級感を、グループ全体のイメージづけに利用している。それが京急においてはやはり、1950年代からの「赤」だったのだ。