各ビールメーカーは、ビール人気の復活のためクラフトビールに力を入れ始めている。なかでも積極的なのがキリンビールだ。

クラフトビールはアメリカで流行したが、日本ではキリンビールが率先して参入し始めた。そしてクラフトビールの醸造や各地のクラフトビールを提供する「スプリングバレーブルワリー」を2015年に開設。そこから一気にクラフトビール戦略が加速する。

そもそもスプリングバレーブルワリーは、キリンビールのルーツともいえる存在。横浜で大衆向けビールを醸造し、やがて麒麟麦酒となり、そして現在のキリングループとなった。つまりだ、横浜を拠点とした地ビール、いいかえるとクラフトビールメーカーが巨大化したともとれる。ただこれはキリンに限ったことではない。アサヒやサントリーは大阪を拠点にスタートしたし、サッポロに至っては発祥の地が社名になっているほどだ。

多様化する食に合わせたクラフトビール

さて、ハナシをキリンに戻そう。クラフトビールに関して同社は積極的だと前述したが、もうひとつ注目したい戦略がある。それは地域性を前面に押し出していることだ。その根幹を担っているのが「タップ・マルシェ」シリーズ。このシリーズは2017年4月にスプリングバレーブルワリーやグランドキリン、ヤッホーブルーイング、ブルックリン・ブルワリーでスタートしたが、同年5月に常陸野ネストビールを加えた。

そして2018年5月から6月にかけて、伊勢角屋麦酒の「ベールエール」「ヒメホワイト」、Far Yeast Brewingの「東京ホワイト」「東京IPA」の販売を開始する。これによりクラフトビールの多様性が増した。

  • 左:「東京」という地名を前面に押し出す「東京ホワイト」「東京IPA」。右:キリンが用意する専用ディスペンサー。4種類のビールを注ぐことができるという機能に、ビールの多様性をねらった戦略がうかがえる

そのねらいは明らかに嗜好にあったビール選びという楽しみを浸透させることだろう。先述したようにビールには選ぶ楽しみが乏しかった。だが、食の多様化が進むにつれ、ワインや日本酒のようにフードペアリングを楽しむために、ビールも多様化させたい。「とりあえず“生”」という、昭和から続いているビールの習慣を変えられるか……。今後の展開を注視したい。