左からさとやまオフィス鯖江の従業員、杉原貴彦氏。メンバーズエッジ 代表取締役社長 塚本洋氏。鯖江市長 牧野百男氏。福井7人の工芸サムライ 発起人 熊本雄馬氏

自治体にもメリットは大きい。まず、廃業した旅館の使い道が拓けた。地方に取材に行くたびに目にするが、活気がそがれているところが数多くある。特に商店街などはシャッターで閉じてあるところが多く、人口流出が容易に想像できる。だが、産業が盛んな鯖江ではそんな印象は感じなかった。

そしてエンジニアが勤めるという点も、長い目で見れば鯖江市に大きなメリットを生む。メガネフレームや漆器、繊維といった産物はあるが、それだけでは発展は大きく望めない。ITに関わるエンジニアが集まり出せば、「越前のITの街」として企業が集まる可能性が高くなる。以前、プログラミング教育に力を入れ、将来的にエンジニアを増やそうという島根県松江市の取り組みを取材したのを思い出した。

鯖江市の市長、牧野百男氏の期待も大きい。その証拠にメンバーズエッジの発表会に市長も登壇した。鯖江市自体は人口増の傾向にあるが、地方自治体は人口流出の危機にさらされている。そのことを考えると、IT企業が市に根を張り、そして発展していくことは市にとってもありがたい。メンバーズエッジの今回の選択は、大歓迎ということだろう。

タタミ部屋やお風呂も完備

さて、前置きが長くなったが、さとやまオフィス鯖江の施設をみてみよう。ユニークなのは、もと旅館だったという点を残していること。基本的に内装はリノベーションされているが、タタミの部屋があったり石灯籠が庭に設置されていたり、リラックスできる施設となっている。特にタタミ部屋は日本人にとって休息の拠り所。東京青山にある外資系企業、日本オラクルの本社ビル最上階にも茶室(和室)が設けられ、社員の憩いの場となっている。

  • 左上:いかにも旅館といった風情の和室。右上:石灯籠のある庭。左中:旅館の名残がある掲示板。右中:くつろげるスペースを用意。下2枚:越前箪笥など、調度品もこだわりがある

もちろん、もと旅館だけあって浴室といった設備もある。ただ、そうした設備になると、泊まり込みで働く社員も出てきそうだと、いらぬ心配も生じてしまった(笑)。いずれにせよ、都市圏ではなかなか味わえない仕事環境だ。さとやまオフィス鯖江という名前から、山に囲まれているかというとそうではなく、福井の平野にあるので、傾斜はほとんどない。地方で働いてみたいという方は、さとやまオフィス鯖江を一度、チェックしてみてはどうだろうか。