松本氏はプロダクトのデザイン性について「ユーザビリティを徹底的に磨き上げ、丁寧に作り上げていくことで、機能性も向上し他社との差別化になる。機能美を突き詰めると自然と一番使いやすい形になるし、それが商品の特徴になる」と説明する。スタイリングだけを重視することは「デザインのエゴ」と言いきる。

そうした美学はメガホンヤクにも生きている。片手でも難なく操作できるように、メガホンの重心の位置やグリップ形状まで徹底的に吟味、非常時に素早く間違いなく使えるようにした。「カタログでアピールするようなものではないが、見えない配慮ができていないと商品としてはダメ」(松本氏)。

  • 重心一つとってもプロダクトデザイン。片手で操作しやすいように改良したメガホンヤク

こうした細やかな気遣いは、「家電で培われたDNAが生きているからこそ」だと松本氏は話す。B2B事業であっても、その機器を利用する従業員、B2B2Cの最終的なエンドユーザーは『人』。人を中心に考えるパナソニックとして、デザインに分け隔ては存在しない。「デザイナーとして、『使いやすい』という言葉はデザインが褒められたと感じている。かっこいいデザインだけがデザインではない。ユーザビリティと機能性はイコール」(松本氏)。

実は松本氏は、昨年10月から羽田空港に導入された出入国審査用の顔認証ゲートのデザインにも携わっている。こちらはB2B2Cに近い製品だが、「使いやすく、円滑で厳格なゲート」という要望に対して、人が自然と取る行動を重視した製品デザインを開発メンバーで徹底的に考え抜いたと話す。

顔を認証し、パスポートを読み取ってゲートを開ける。まずはこうした機能性において、高い技術力を持つ企業同士の戦いで競い勝つことはもちろんだが、その上で「お客様視点でどれだけ使いやすさに配慮を尽くしたか」が決定的な差別化のポイントになる、と松本氏は強調する。

"樋口後"は「新しいものを生み出しやすい環境に」

樋口 泰行氏のカンパニー社長就任後、社内の雰囲気が変化したと松本氏は話す。

コネクティッドソリューションズの社員全員に対して樋口氏は、「みんなでビジネスをやっていこう」という思いを込めたメールを何度も直接発信しているという。さらに、社内であってもスーツが基本だった過去から、ラフな格好で自然体に仕事ができるように変え、オフィスも東京への移転を機に「フリーアドレス/フレックスシーティング」となった。

これまでとは異なり、デザインセンターだけのフロアにはせず、営業部門や設計部門といったさまざまな部署、さらには外部の協力会社なども交えた「協創の場」に変化したことで「新たなものを生み出しやすい環境」になってきたと感じると松本氏は喜ぶ。

100年企業のパナソニックは、長年の経験があるからこそ、必ずしもイノベーションを起こしやすい環境ではなかった。そこに新風を吹き込む樋口氏が来たことで、「情熱と(会社の)支援によるシナジーが加速していく空気がある」(松本氏)という。今後、パナソニックからB2Bの現場に向けた使いやすいデザインがより多く放たれることを期待したい。