ここ数年の間、スタートアップやベンチャー企業によるハードウェア開発のブームがあったように思う。大手電機メーカーでは作れないような尖った製品を企画し、未来感のある、格好いいYouTube動画をアップする姿を見ていると、私たち消費者はそれを見ているだけで、ワクワクさせられた。

そうした商品の多くはクラウドファンディングの仕組みを通す。すぐに製品として発売されるわけではなく、お金を払って、開発が完了するまで、製品が届くのをただひたすら待つ。ほとんどのケースで、スタートアップ企業が設定した日付に製品が完成することはなかった。数ヶ月~半年以上待たされるのはザラだ。

設定されたはずの期限をそれだけ過ぎてしまうと、届いた箱を開けたところでもはや何の感動もない。クラウドファンディングで「購入」ボタンを押したときの興奮した気持ちは、すっかり冷めてしまっているのだ。

始末が悪いことに、箱を開けて製品を手に取ると、さらにガッカリ感が増してくる。お世辞にも質感が高いとは言えず、安っぽいことがほとんどだ。クラウドファンディングのページではCGで描かれていたためか、格好良く、高級感も漂っていたのだが、目の前にある実物は、Webページの画像とは全く異なるものでしかなかった。

【特集】
ソニー変革の一丁目一番地、SAPのいま

2018年3月期の通期決算予想で、過去最高益となる6300億円が見込まれるソニー。イメージセンサーやテレビなど、既存製品の収益力向上、シェア増がモメンタムを作り出している。一方で、かつてのソニーファンが口を揃えて話す「ソニーらしさ」とは、ウォークマンやプレイステーションを生み出したソニーの社訓「自由闊達にして愉快なる理想工場」の賜物だ。世界中の大企業が新機軸のイノベーションを生み出す苦しみに陥るなか、ソニーは「SAP」でそれを乗り越えようとしている。スタートから4年目に突入するSAPの今を見た。

ソニーでも"がっかり"

仕事柄、テクノロジーとして画期的なものはいち早く自分で使ってみて、できれば我先にと購入し、記事を書いてレポートすることが半ば信条だ。しかし残念ながら、これまで購入したハードウェアスタートアップの製品は「レビューを書こう」という気にならないものがほとんどだ。

そして前回にインタビューした新規事業創出部 統括部長の小田島 伸至氏率いるSAPが世に投入した製品も、ソニーの名前を冠すれど「それに近いもの」という印象が拭えなかった。ITやモバイルを中心に取材活動しているため、SAPが手がける製品は目にする機会が多く、開発者に取材することもある。

特にwena wristは当時、ソニーの入社したての社員が開発担当者だったことで、ストーリーとして取材しがいがあったし、各メーカーの腕時計型ウェアラブル機器の方向性が当時は不明瞭ななかで、「ベルト部分にFeliCaを載せる」という画期的なアイデアが素晴らしかった。

  • ソニー 新規事業部門 副部門長 兼 新規事業創出部 統括部長 小田島 伸至氏

  • 入社してすぐにwenaのアイデアがオーディションに合格したソニー 新規事業創出部 wena事業室 統括課長 對馬 哲平氏

実際、ワクワクしながら購入手続きをしたものの、届いた製品の印象は「ちょっと安っぽい」。結局、ほとんど使わずじまいだったことを取材して思い出した。wenaだけでなく、その前には「FES Watch」も購入していたが、こちらも同じく「安っぽい」という理由で、一度も装着して街に出ることがなかった。

wena wristとFES Watchは「腕時計」である以上、それなりの質感をどうしても求めてしまう。ユーザーからすれば「ソニー」の看板を背負う製品としての期待値になるからだ。腕に装着する私は40歳を超えたおっさんだし、いくら最先端のデバイスだからといって、気持ち的に妥協するわけにはいかないのだ。

  • FES Watch(ソニー Webサイトより)