「ブロックチェーン」といえば仮想通貨「Bitcoin」の基幹技術として知られているが、現在はこの「分散台帳」という仕組みを使って既存のインフラを置き換える新しい技術基盤を構築できないかという試みが盛り上がっている。

こうしたなか、携帯キャリアであるKDDIが、KDDI総合研究所とクーガーを交えた形で今年2017年9月に発表した「Enterprise Ethereumを活用した"スマートコントラクト"の実証実験を開始」というニュースは驚きをもって迎えられた。

ブロックチェーンの派生技術の1つとして注目を集めるスマートコントラクトだが、なぜKDDIが業界他社に先んじてこの取り組みを発表したのか。その実際について話を聞いてみた。

ブロックチェーンとスマートコントラクト

まず発表の概要について簡単に整理する。ブロックチェーンとは、Satoshi Nakamotoという人物の論文を基に2009年から運用が開始された「Bitcoin」の基幹技術であり、その後も発展改良が続いて今日に至っている。

Bitcoinにおけるブロックチェーンでは、ネットワーク内での個人間の送金情報を記録した「ブロック」が10分ごとに生成され、以前までのブロックの情報(ダイジェスト)を含んだ形で新しい次のブロックへと引き継いで「連鎖(チェーン)」していく形態を採る。取引情報は誰でも参照できる一方で、チェーンをたどって以前までのブロックを改ざんするには膨大な計算が必要で困難が伴うことから安全性が高いとされている点が特徴だ。

またBitcoinの技術自体はオープンソースで公開されているため、これを活用してさらに新しいブロックチェーン技術や、それをベースにした「Litecoin」のような"オルトコイン"と呼ばれる技術が複数誕生している。

今回の話題の中心となっている「Ethereum (Enterprise)」もその1つで、Bitcoinの中核ソフトウェアであるBitcoin Coreの開発メンバーの1人が「スマートコントラクト」という新しいアイデアを基にスピンオフしてできたものだ。

スマートコントラクトの概要については別記事を参照していただきたいが、簡単にまとめると「(相手に対して契約情報の送信など)一定条件を満たすと、事前にプログラミングされた手順に従って一連の処理を自動的に実行する」というもので、単純に「AからBへの送金」といった処理以外に、プルグラムによってより複雑な処理を組み込める仕組みだと考えてもらえばいいだろう。

「Ethereum (イーサリアム)」は現在、オルトコインの1つとして主に仮想通貨の送金に利用されているが、この仕組みを企業システムやインフラに応用できないかということで複数の企業が集まってアライアンスを作り、独自の技術としてEthereumとは別に発展改良を続けているのが「Enterprise Ethereum (エンタープライズイーサリアム)」ということになる。

今回発表されたKDDIの実証実験では、同社の既存事業に加え、非金融事業を含めた分野でのブロックチェーン技術の活用のほか、KDDIのパートナー連携を含めた形での「スマートコントラクト」の活用に向けた技術的課題の洗い出しと効果の検証を行うのが狙いという。

まず第1弾として、Enterprise Ethereumを使った携帯電話の店頭修理申し込みから完了までの工程において、リアルタイムでの情報共有ならびに業務効率化を検証していくという。

今回KDDIが発表した携帯修理業務における「スマートコントラクト」の実証実験の概要(KDDIのプレスリリースより抜粋)

実証実験での結果を踏まえ、今後はさらに修理とは別事業の携帯電話のリユースや、それ以外の分野でのパートナー間でのシステム連携の可能性も模索していくということで、今後発展改良を続けていくうえでの第一歩という位置付けだ。ではなぜ、KDDIがこうした取り組みを率先して行い、このタイミングでの参入発表なのだろうか。