鴻海とのシナジー効果

2つめは、鴻海とのシナジー効果だ。これも鴻海傘下だからこその成果が生まれている。

すでに、鴻海の拠点を活用した、シャープブランド製品の生産はいくつか開始されている。たとえば、超軽量のスティック掃除機として国内で話題を集めているラクティブエアも鴻海の拠点で生産されたものだ。

さらに、物流面でも鴻海のグローバルネットワークを活用することでのコストダウン効果もある。今後、中国や欧州市場への販売拡大においても、シャープにとっては、メリットになるだろう。

それ以外にも、鴻海との連携によって、いくつかの成果があがっている。

たとえば、かつての経営体制下において、経営不振の打開策として、スロバキアのUMCに、シャープブランドをライセンス供与する契約を締結。欧州市場からは事実上撤退をしていたが、鴻海傘下に入ってから、UMCの株式を56.7%取得して、逆に子会社化するという大鉈を振るい、UMCを通じて、シャープ製品を直接販売できる体制を作り上げた。

「今後、欧州市場においては、テレビだけでなく、様々なシャープブランドの製品を出していきたい」とする。

さらに、ビジネスソリューション事業では、スイスの複写機販売会社「フリッツ・シューマッハー」を買収。欧州での複写機販売も弾みをつける考えだ。こうした買収戦略も、シャープの独立経営時代にはなかった、鴻海傘下ならではの成果である。

また、戴社長は、こんなことも指摘する。

「かつてのシャープには、資金がなかったため、取引先が心配して取引価格を値上げしていた。だが、それが解消したため、コストダウンが図れた。また、シャープは外部の情報が入りにくく、取引先に言われるままの価格で契約をしていたことがあった。こうした取引も改善できた」

シャープには、不平等な契約が数多く存在すると戴社長は語る。

なかでも、太陽光事業におけるポリシリコン材料調達の契約の不平等さを指摘する。「この契約によって、シャープの太陽光発電は赤字になっている。技術や製品のすばらしさや、社員のがんばりとは関係がないところで赤字になっている」とする。

鴻海の力をバックに、不平等な契約も見直しを迫っているのが現状であり、シャープの野村勝明代表取締役副社長は、「過去には不平等な契約もあり、体質として回収ができず、赤字となっていた部分もあった。この半年でしっかりと見直し、コストダウン効果が生まれており、これが収益改善に寄与している」と述べる。

中国市場で反転攻勢へ

戴社長は、太陽光事業におけるポリシリコンの調達などにおける契約を指しながら、「大規模な減損を出さなくてならないような契約を結んだ人たちには責任がないのはおかしい。サインはルールではなく、責任である。私は簡単には契約をしない」などと、過去の経営陣の責任について、厳しい口調で迫る。

戴社長は、いまから5年前に、鴻海がSDPに9%を出資した当時を振り返りながら、「そのときに、私たちは経営管理委員会を設置しようと提案した。これによって、シャープを改造できていれば、いまのようにはなっていなかった。その時からアドバイスができたはずだ」と悔やむ。そして、「過去7年の業績悪化の責任は社長にあった」と断言。過去の経営陣のやり方を強烈に批判してみせた。

堺工場のあるグリーンフロント堺

一方で、今後も中国市場などにおいて、鴻海の生産体制や販売網を生かして、事業拡大に乗り出す考えを示す。これも鴻海流ならではの仕掛けだ。

「昨年2月24日に、シャープは約3500億円の偶発債務が判明したことを発表したが、私がチェックをしたら、そのうちの半分の要因が中国であった。これは、リベートや税金、コストなどによるもの」とし、「日本と中国は文化が違う。だが、鴻海は中国市場に強い。中国市場は鴻海にサポートしてもらいたいと考えており、コンシューマ向け製品の製造、販売を鴻海に任せることができる」などと語った。

戴社長は、「昨年4月2日の記者会見では、2~4年で黒字化するという目標を掲げたが、9月13日までの1カ月間にチェックをした結果、いろいろと手を打てば、黒字化できると考えた」と、シャープの体質の甘さを指摘。これまでの経営革新によって、投資削減で300億円、鴻海とのシナジー効果を含む費用削減で370億円、和解金や事業譲渡などの一過性収益で183億円の効果があることをあげてみせた。