本当の狙いどころ

IIJの本当の狙いどころ、それはモノのインターネット「IoT」だ。電化製品、産業機械、家をはじめとして、あらゆるものがネットワークに接続する方向に動いている。そのネットワークにIIJの通信サービスを売り込もうというわけだ。

SIMを機器自体に埋め込むことで、SIMをソフトウェアとして捉え、その内容を書き換えることができる。ある製品を日本国内で製造し、それを輸出することを考えてみよう。現在は、現在は最終仕向け地ごとに異なるSIMが必要となるため、製造ラインでSIMを装着できない。SIMがソフトウェアになり、書き換え可能ならば、こうした問題は片付く。

IoTを狙うのであればSIMを部品として捉えるのが必須となる

もうひとつ、フルMVNO化によって独自SIMの発行が可能になることで、耐振動性や耐候性の高いなど特徴を持たせたSIMの発行も可能となる。

たとえば、タイヤの交換時期を最適化するために、車両のタイヤに通信機能を持たせるならば、耐振動性が求められるだろう。寒冷地や熱帯地方で稼動する重機の設備保守に活用するにはSIMの耐候性が必要だ。このように、IoTを意識した場合、特別仕様のSIMはIoTビジネスの幅を大きく広げるものとなる。

ただし、忘れてならないのは、大手携帯電話会社の存在だ。大手と同じ土俵に立てるようになるだけでもフルMVNO化の意義はあるが、同じ方向を向くだけでは、厳しそうだ。同社幹部にそうした疑問を投げると「中小規模の企業など、IoTの分野で大手がとりこぼしているエリアがある」とし、きめ細かくフォローアップしていきたい考えだ。

格安SIM新時代はやってくるか

こうしてみていくと、IIJがフルMVNOに乗り出したのは、IoT市場狙ってのことであり、結果として格安SIMでも新サービス提供が可能になるなどの恩恵が受けられるわけだ。IIJの見立てが正しいなら、IoTを狙わずに数十億円のお金をかけてフルMVNO化を果たすのは現実的には難しいことになる。格安SIM新時代は、IIJおよびIIJから回線を借りるMVNOにやってくるが、格安SIM市場全体に波及していくには、かなりの時間がかかるのではないだろうか。