花粉をほぼ出さないスギは存在する

林野庁も、花粉症患者が苦しみ続けるこの現状に、ただ手をこまねいているわけではない。以下の「3本の矢」ならぬ「3本の斧」を掲げて、文字通りこの現状を"伐り開こう"としている。

  • 国産木材の使用を推奨(木づかい運動など)
  • 花粉対策苗木(少花粉スギなど)への植え替えを推奨
  • 花粉飛散を抑える方法の研究を支援

「まずは発生源であるスギを伐らないことには、花粉はなくなりません。現在の木材自給率は約3割。これが仮に6割になれば、伐採のスピードも倍になる」と説明するのは林野庁の担当者。林業の成長産業化を掲げてさまざまな対策に取り組んでいるが、次の対策は再び花粉の発生源とならないよう、花粉の出ないスギ(花粉対策苗木と呼ぶ)に植え替えることだ。2014年度のスギ苗木供給量が1,700万本だったのに対し、花粉対策苗木の数は258万本とおよそ15%。2017年度にはこの割合を50%以上に引き上げ、1,000万本を供給できるようにするのが目標だ。

左が少花粉品種「神埼15号」、右が一般的なスギ。少花粉品種は、普通のスギに比べて雄花がきわめて少ない(写真提供:国立研究開発法人 森林総合研究所)

しかし、花粉対策苗木は馴染みがなく、敬遠しがちな山主が多いという現実もある。

花粉対策苗木(少花粉スギ)の価格は通常の苗木とほとんど変わりなく、親木となる少花粉品種はもともと精英樹(生長や通直性、病虫害に対する抵抗性などの形質に優れた木として選ばれたもの)なので、「木材としての質が劣るとは考えにくく、むしろ優れている場合も多いのでは」(前出の担当者)。実際に、品種開発と原種苗木の育成を行う森林総合研究所の林木育種センターには、現在多くの都府県から少花粉スギの原種苗木(少花粉品種からさし木もしくはつぎ木によって育成した"コピー苗木")を配布してくれという要望が寄せられているそうだ。

上段は無花粉スギ「爽春(そうしゅん)」(左)と一般的なスギ(右)の雄花。下段はそれぞれを顕微鏡で拡大した写真となる。丸い粒が花粉だ(写真提供:国立研究開発法人 森林総合研究所)

花粉対策苗木への植え替えは、たしかに花粉症の根本的な解決につながる。しかし、448万haものスギ人工林をすべて植え替えるにはかなりの時間がかかる。時間がかかるのは仕方ないといえるが、どうにかならないのだろうか……そんな切実な願いを叶える可能性がまだ残っている。

東北育種場のスギ推奨品種ミニチュア採種園。写真は花粉対策苗木ではないが、このようにして種子を生産する(写真提供:国立研究開発法人 森林総合研究所)