協創の難しさにも直面

こうしたソリューション探しのために、日頃から多くのベンダーと協議を繰り返しているが、両社がメリットを見出せるケースは案外少ないのだという。「コンタクトは毎日のように繰り返していますが、成立するのは10件に1件くらいの割合です。今の所うまくいっているのがドコモ側からお声をおかけしたケースばかりです」。ドコモとパートナーの協力で新しい価値の創出を目指すという「協創」を掲げる「+d」だが、成功には創出する価値の共有が課題だということなのだろう。

また、現時点ではまだどの農家にどんなソリューションがいいのか、試行錯誤している段階だ。「たとえば農業法人と兼業農家では向いているソリューションが全然違いますし、マーケティングがまだ不十分です。ベンダーと農家のマッチングも、偶然に頼っているところが大きいのが実情です」。

日本の農業の構造改革に期待

IT企業と農業という組み合わせでは、野菜工場の運営を始める企業が現れるなどの動きがあるが、現時点では収益性などを重視したものというよりは、エコや環境、あるいは先進ビジネスへの注視をアピールする目的にとどまっているように見える。

そんな中、ドコモによる農業の取り組みは、自社で業務を完結するのではなく、パートナーと共に推進していく「+d」の枠組みの中にある。つまり、ドコモの一存で簡単に手を引くわけにはいかない立場だ。そんなところからもドコモの本気具合が見えてくるように思える。

すでに導入しているところでは成果が現れつつあり、ドコモ自身のサポートも良好な様子だ。規模としてはまだまだだが、事業としてはうまく回り始めているように見える。あとは認知度が向上し、採用を検討している農家からの相談窓口をアピールするなど、ドコモ自身の受け入れ体制をもっと充実させていけば、農業ICT自体の採用も増えていくだろう。

欲を言えば、現在は個別の農家との取引だけに留まっているところを、農家同士の横のつながりを強化する方向に持っていけば面白いのではないだろうか。農協に属さない独立系の農家は、肥料や機材などの購入で不利な点もある。こうした部分をドコモがまとめ上げて集団購入できるようにすれば、独立系農家にとって大きなメリットになるはずだ。

また、ドコモのソリューションを利用している農家には、同社が買収した「らでぃっしゅぼーや」のような流通ルートを斡旋する制度があってもいいだろう。農協や青果卸といった既存のシステムに対する挑戦にもなってしまうが、生産面だけでなく、流通などにいたるまで、農業全体の構造改革につながるような活躍を期待したい。

また、ドコモ自身の規模や技術力、そして日本でのノウハウを蓄積することで、農業ICTビジネス自体の海外展開についても、その国・地域の実情に合わせたユニークな展開ができるように思える。特に大規模農業を展開する国ではなく、アジア圏の国々で小規模農業に対応するといった特徴が出せるのではないだろうか。

【関連記事】
進むか農業ICT、ある農家の証言
新ポイントサービス「dポイント」で巨大マーケティング企業に - ドコモの新たな挑戦