「駅弁いかがっすかー」。ホームで威勢のよいかけ声を放つ販売員を呼び止め、列車の窓越しに代金を払って弁当箱を受け取る。走り出した列車の中で買ったばかりの弁当箱のフタを開け、車窓に流れる景色を眺めながら舌鼓を打つ。昭和の原風景ともいえるこんなシーンはすっかりみなくなったが、「駅弁」は“旅を彩る楽しみ”のひとつであることは今も昔も変わらない。

そんな旅情を演出する駅弁だが、“冬の時代”が到来しているといわざるをえない。モータリゼーションの台頭をはじめ、鉄道の高速化による乗車時間の短縮、駅構内に整備される「駅ナカ食堂」の増加、手軽に空腹を満たせるコンビニの存在などが駅弁の市場を縮小させている。冒頭で述べた“窓越しの購入”ができない固定窓式の車両に、ほとんどの鉄道が移行してしまったことも駅弁が苦戦している一因に挙げてもよいだろう。2015年4月、105年間も駅弁事業を手がけてきた山口県の老舗業者すらも、弁当事業から撤退するなど、その厳しさがうかがえる。

海外メディアに駅弁の魅力を伝える試み

海外メディア向け説明会に用意された100種類の駅弁

こうした情勢のなか、駅弁業者はどのように生き残りを図ればよいのだろうか。公益社団法人「米穀安定供給確保支援機構」は、「日本の食文化『EKIBEN』とごはんの魅力」と銘打った説明会でその一端を示した。この説明会はズバリ海外メディア向け。海外メディアを通じて駅弁の魅力を各国に紹介してもらい、来日の際にはぜひとも駅弁を利用してもらおうという意図がある。

2015年、おしくも2,000万人には届かなかったものの、過去最高の約1,974万人のインバウンド観光客が日本に押し寄せた。つまり、日本総人口の約17%にあたる需要が生まれたことになり、この市場をねらうのは至極単純な発想だ。問題はいかにして駅弁を認識してもらうかということか……。「『弁当』はすでに海外で認識され始めており、『BENTO』とパッケージに記されたお弁当が欧米のイベントで配られることがあります。“ベントー”という発音が普通に通じますよ」と海外取材経験が多い記者はいう。この「BENTO」に続けとばかりに説明会の題名に「EKIBEN」と銘打ったわけだ。

伝承料理研究家/大阪市立大学大学院生活科学研究科非常勤講師 奥村彪生(あやお)氏

そもそも、駅弁は日本独自の食文化といってよい。説明会に登壇した伝承料理研究家/大阪市立大学大学院生活科学研究科非常勤講師である奥村彪生氏は、「1885年に発売された“おにぎり2個とたくあん”のセットが駅弁の始まりで、130年もの歴史を誇る」と解説した。日本で生産される「ジャポニカ米」は冷えてもおいしく、しかも粘りがあるので握りやすい。この特性を生かした携帯食として「にぎりめし」が誕生したのは約1300年前のこと。以来、日本人は昼食を携えて出かけることに抵抗がなくなり、明治以降、急速に敷設された鉄道の発展と結びつき、駅弁という発想に結実した。