東京ビッグサイトで開催されたSEMICON Japan 2015

IoT(Internet of Things)市場の成長率は著しい。IDC Japanの調査発表によれば、国内市場は2014年の時点でIoTデバイス台数は5億5,700万台、売り上げ規模は9兆3,645億円。これが2019年にはデバイスが9億5,600万台、売り上げ規模も16兆4,221億円まで急成長すると予測し、新たなビジネスチャンスとして多くの企業が参画を試みている。特にIoTと親和性が高いIT企業は、自社独自の取り組みやパートナーと手を組み、新たなビジネスモデルを生み出そうと模索中だ。本稿ではSEMIが開催するSEMICON Japan 2015へ登壇した大手IT企業関係者が語ったIoTの可能性について考察する。

まずはIoTの定義を再確認したい。そもそも本キーワードは1999年に無線タグの標準化団体「Auto-ID」の設立メンバーであるKevin Ashton氏が提唱したといわれているが、センサー(感知器)を各所に設置することで、物理的な存在とインターネットを結びつけるという思想が根底にあった。

だが、現在のIoTは"物理的な存在"がITデバイスに置き換わり、インターネットにつなげることで価値を生み出すようなホームオートメーション(=スマートハウス)やカーオートメーション(=テレマティクス)なども含まれる。つまりIoTは、従来の狭義の解釈と広がりを見せる最近の広義の解釈があることを知ってほしい。さらに最近は、あらゆるネットワーク接続デバイスを含む「IoE(Internet of Everything)」というキーワードも登場している。特にビジネスシーンでは用語の定義の差で意思の食い違いが発生することは珍しくないため、商談中は互いが意図するIoT範囲を確認すべきだろう。

Googleの特設Webサイト「think with Google」にあるマイクロ・モーメント(Micro-Moments)のコンセプトページ。人々がその瞬間に「何かをしたい」(知りたい、行きたい、したい、買いたいなど)と感じたときにインターネットを通じて、即座にその要求を充たすこと。すべてのモノがインターネットに繋がる社会ではそのコンセプトがより具体的になっていく

さて、検索サイト大手のGoogleは、人々が「何かをしたい」という意図が生じたときのアクションを「マイクロモーメント(Micro-Moments)」というキーワードにまとめ、そこからビジネスにつなげようとしている。具体的には検索キーワードからオンラインショッピングやデジタル広告の提供、ショップや販売店への誘導など。つまり"エモーションが発した場面に応じた次のプロセスをビジネス化"するためのデジタルアシスタントの実現だ。

一見するとIoTと何ら関係がないように見えるが、Googleは広義のIoTを実現するため、インフラ強化に応用している。サーバー間のボトルネックを改善するために半導体技術を導入し、膨大なトランザクションを処理することに成功した。これらをマイクロモーメントのビジネスとして扱うときの応答性向上につなげて、「瞬時にデータを提示しないと機会損失につながる」と自社のインフラ強化がビジネス機会を生み出すと、Google for Work日本代表の阿部伸一氏は語っている。

Microsoft Project Oxford Emotion APIsの1つ「Face Emotion API」のデモページ。写真のなかの表情から怒り、悲しみ、驚き、恐れ、幸福などの度合を数値化。APIとして公開している

Windowsで有名なMicrosoftはSatya Nadella氏のCEO着任以降、単なるソフトウェア企業からの脱却を模索してきた。登壇した日本マイクロソフト マイクロソフトテクノロジーセンター センター長の澤円(さわ まどか)氏が「WindowsやBill Gatesに依存していては次に進めない。我々は完全なクラウドベンダーにシフトしている」と語ったように、同社はWindowsやOfficeといった既存コンテンツを維持しながら、Microsoft Azureなどクラウドビジネスを邁進している。

すでにそのビジネスは実を結びつつあり、IoTの基礎基盤とした管理システムソリューションを提供する「Azure Intelligent Systems Service」は、ロンドンの地下鉄やドイツのエレベーターを管理し、ビッグデータや機械学習によるメンテナンスタイミングを予測して事故を未然に防ぐことに成功した。そこにヒューマンエラーが発生する余地は少ない。このほかにもMicrosoft Project Oxford Emotion APIsの1つ「Face Emotion API」を使ったデモンストレーションで「すでにサービスやインフラは整っている。後は人々のクリエイティブなコンテンツが必要だ。我々はそのコンテンツ制作に注力する(澤氏)」と多角的なアプローチを行うことを明らかにした。

Amazon Picking Challengeのオフィシャルページ。倉庫内でのピッキング作業の進展にロボットやIoTの発展は欠かせない

他方でIoTを積極的にビジネス効率の向上に役立てようとしているのがAmazonである。同社は合計2,500円以上の商品を1時間以内で都内一部に配達する「Prime Now」を開始したが、その背景にあるのは広大な倉庫から商品をピックアップするロボット「Kiva」の存在だ。2012年3月に買収した企業技術を利用し、これまで人間が人海戦術で対応していた配送商品のピックアップを半自動化している。さらに人々の代わりに働くロボット開発コンテストを産官学で推進する「Amazon Picking Challenge」を主催するなど、ロボット分野への注力が目覚ましい。

「IoTは極めて大きな可能性を秘めている。先の長い投資対象だ」と語るアマゾン ジャパン バイスプレジデントハードライン事業本部 事業部門長の渡部一文氏は、ボタン1つで特定の商品を購入できる「Dash Button」、家電の横に貼り付けることで消耗品や交換品の注文を容易にする「Dash Replenishment Service」など数々のサービスが米国でローンチしていることを説明し、今後日本でも展開予定だという。Amazonも他社と同じようにIoTを利活用するステージに足を踏み入れているのだ。

4Kカメラを搭載しドローン開発も安価におこなえるQualcomm Snapdragon Flight(デモを報告する同社オフィシャルブログ)

IoT時代に欠かせないのがデバイスを制御する基板だが、通信技術および半導体の設計開発で有名なQualcommも新たなステージでビジネス推進を目指している。さまざまなデバイスをインターネットにつなげるには通信手段を持たせなければならないが、その欠かせない通信デバイスとして2015年秋にIoT向けLTEモデムを発表した。クアルコム シーディーエムエー テクノロジーズ マーケティング/ビジネス開発 統括部長の須永順子氏は「長い電池寿命を必要とするIoTデバイスなど普遍的なニーズを満たす」と自社IoT向けLTEモデムを評している。

Qualcommは多くの報道で目にするドローンにも注力し、同時期にQualcomm Snapdragon Flightを発表したばかりだ。数々のセンサーを必要とするドローンは完成度の高い基板が必要となるが、現状抜きん出た企業はない。そこでQualcommはモデムチップやスマートフォンのSoCで使われているSnapdragonチップセット以外にも手を広げている。須永氏も「将来性のある分野に注力し、市場拡大に貢献したい」と語るようにIoT市場はすでにオープンし、各社は自社の得意分野を軸にビジネス展開を進めている状況だ。それでも今後の市場成長率を鑑みれば、新たなビジネスアイディアを試せる新興市場であることに間違いはない。

阿久津良和(Cactus)