包丁で、リンゴの皮をくるくると一枚につなげてむいてみせる。――子どものころ、大人にそれを見せてもらって「かっこいい」と感動した記憶はないだろうか。当たり前のように行うその様子に、「早く大きくなりたい」と大人に憧れていた人も多いだろう。
ところが、大人になって同じことをしようとしても上手くいかない。
あれだけ簡単そうにやっていたのに、いざ自分が挑戦すると、実までゴッソリ削ってしまい、途中で皮もちぎれてしまう。それに、刃の近さから恐怖感も相当なものだ。
自分が特別下手なだけだろうか。そう思って周囲の編集部の同僚に聞いてみると、「料理はそれなりにしてるけど、リンゴの皮むきは上手くできない」といった声が思った以上に多かった。
そんな我々がきれいに皮むきを行いたいと考えた時に、自然と頭に浮かぶのがピーラー(皮むき器)だ。ピーラーなら、技術がなくてもそれなりの厚さで皮がむけるし、何より包丁より怖くない。
そんな利点があるのになお、「うちは包丁派」「ピーラーはなんとなく信用していない」という人も一定数いる。一体なぜなのか、理由を考えている時にふと、もっと根本的なことが気になった。
――そもそも、ピーラーとはどういう道具なのか。何が得意で、どこが苦手なのか。そして『トマトピーラー』や『キャベツ専用ピーラー』など、最近増えている変わり種は本当に必要なのか。
そんな疑問から、調理器具の『ピーラー』について色々な角度から改めて考えてみることにした。全6回シリーズの第1回は、「ピーラーとはそもそも何者なのか」を整理してみる。
この記事の担当者(マイナビライター)


水貝 英斗
プロデューサー兼編集ライター
「包丁 vs ピーラー」リンゴで見える、両者の得意・不得意
「リンゴの皮をむきたい」と思った時に選択肢として挙がる、包丁とピーラー。どちらでも「皮を落とす」という同じ結果を得られるが、扱う上で考え方が大きく違う。
包丁は「自分の手」を拡張する道具
包丁でリンゴをむくとき、ほとんどの人は、
- 左手でリンゴを持つ(利き手と逆の手)
- 右手で包丁を持って刃を当てる
- 左手を少しずつ回しながら、右手で厚さをコントロールする
という動きになっているはずだ。
ここで重要なのが、厚さのコントロールも方向のコントロールも、すべて自分の感覚まかせだという点。言い換えれば、包丁は「自分の手の延長」であり、道具の側が何かを制御してくれるわけではないのだ。
そのため、手先が器用な人は薄く均一に皮をむけるが、慣れていない人は厚さがバラバラになってしまうし、常にケガのリスクも付きまとう。
なので、包丁のメリットとしては、慣れてしまえばカットの自由度が非常に高いこと。デメリットとして、個人の技量による差が大きいことが挙げられる。
ピーラーは「一定の厚さで削る」ことに特化した道具
一方、ピーラーはどうか。典型的なY字型ピーラーを思い浮かべると、以下のような特徴がある。
- 刃の位置は ハンドルから決まった距離に固定されている
- 刃は、ある決まった角度でしか食材に当たらない
- ハンドルをどのように動かしても、刃と食材の距離・角度はほぼ一定
この仕様から、ユーザー側がコントロールするのは、主に「どの方向にスライドさせるか」と「どれくらいの速さで動かすか」だけでいい。包丁とは違い、「厚さ」や「角度」といった難しい部分を、ある程度道具側で肩代わりしてくれるのだ。
この構造のおかげで、リンゴの皮むきにピーラーを使うと、
- そこまで神経を尖らせなくても、厚さがそこそこ均一になる
- 刃の向きが決められているぶん、力のかけ具合を意識しやすい
- 包丁のように刃先が自由に動かないため、心理的な怖さが少ない
といったメリットが得られる。
ただ、その一方で、
- カーブのきつい部分(ヘタやお尻まわり)にフィットさせにくい
- 皮以外のカット(くし切り、飾り切りなど)は原則できない
という割り切りが必要だ。
「ピーラーは皮むきだけ」の思い込みを疑う
ここまで読むと、「ピーラーとは誰でも簡単に皮をむける道具なのね」という理解で終わりそうになる。だが、最近の売り場をのぞくと様子が違う。
「トマト用」「キャベツ用」「千切り」「ワッフル」など、ピーラーにもさまざまなバリエーションがでてきているのだ。
一見すると、こうした「○○専用ピーラー」は、
- キッチンの引き出しを圧迫する
- そこまで頻度も高くなさそう
- ちょっとしたブームに乗った一発ネタ
のように思える。
だが、特許情報や意匠登録をたどってみると、それらの多くが単なる思いつきでなく、「ピーラーという道具の構造を、かなり真面目に掘り下げた結果」として生まれていることがわかる。
その代表格といえるのが、NHKの『あさイチ』や関西テレビの『ウラマヨ!』でも紹介された、横浜の生活用品メーカー『レーベン』が開発している一連のピーラー群だ。
レーベンという”変わったピーラー”のメーカー
株式会社レーベン――この社名に聞き覚えがないという人も多いだろう。
だが、『キャベピィMAX-EX』『スージー&みじん』『ワッフルピーラー』といった商品名ならどうだろうか。
- キャベツの千切りを、包丁より速く・ふわふわに
- 大根やきゅうりを、そうめん状やみじん切りに
- にんじんなどを、格子模様のワッフル野菜に
と、いずれも従来の皮むきから一歩踏み出した使い方を提案するピーラーである。
開発者は、自身が手掛けたピーラーたちを指して、テレビやWebなどのメディアで「ピーラー界のスティーブ・ジョブズ」と呼ばれることもある。その真偽のほどはさておき、“当たり前”の形や使い方を疑い、まったく別の方向から切り直す姿勢は、確かにどこかジョブズ的だ。
こうしたピーラーの多くには、
- 指かけ穴・肩部(意匠登録第1470383号/第1470719号)
- 幅広の三角ギザ刃(意匠登録第1534779号)
- 両面・両側に刃を持つ構造(特許第6209701号)
- まな板の上から削れる“出っ歯構造”(特許第5997753号)
など、いくつもの特許・意匠が関わっている。
これを見てわかる通り、「ちょっと変わった形だから売ってみました」という軽い気持ちではなく、「こういう不満を解決するために、この構造にたどり着いた」という理由がちゃんと存在するピーラーなのだ。
「リンゴ」を入口にして、どこまで世界が広がるのか
ここまでの整理で見えてきたのは、
- 包丁は自由度が高い代わりに、技術が必要な道具
- 一般的なピーラーは、厚さと角度を道具に任せられる皮むき特化ツール
- 専用ピーラーは、さらに特定の食材や特殊な動きを最適化した進化形
という3つのレイヤーだ。
リンゴでまずピーラーに慣れれば、「トマトもこれでむけたらいいのに」「キャベツの千切りもピーラーで何とかならないかな」という発想が自然と出てくる。
実際、専用ピーラーたちはまさにその延長線上から生まれている。
このシリーズでは今後、
- 第2回:トマトピーラー編
リンゴと真逆の性格を持つトマトに、なぜ専用ピーラーが必要なのか - 第3回:キャベピィMAX-EX編
なぜキャベツの千切りは「最大の重労働」なのか、専用ピーラーはどこを変えたのか - 第4回:スージー&みじん編
すじ切り・そうめん・みじん切りを1本でこなす仕組みと、特許の中身 - 第5回:ワッフルピーラー&天才ベジホルダー編
盛りつけを変えるピーラーと、安全に最後まで削り切る裏方ツール - 第6回:総括編
指かけ穴・ギザ刃・特許群から、「ピーラー界のスティーブ・ジョブズ」は本当かを検証
という流れで、ピーラーの世界を掘り下げていく。
「ピーラーを1本持っている」から一歩進むために
第1回の締めとして、実用的な話をひとつ。
多くの家庭には、すでにピーラーが1本あるはずだ。その1本があるおかげで、
- ジャガイモの皮むきが早くなる
- ニンジンの下ごしらえが安全に行える
と、時短と安全というメリットを享受している。
ここから一歩進んで、ピーラーを「投資対象」として見るとどうなるだろうか。
- リンゴ用に、刃の切れ味が安定した1本を選び直す
- トマト用に、やわらかい皮に特化した1本を足す
- キャベツ専用や多機能タイプを、家庭の食生活に合わせて選ぶ
これらは、キッチンツールとしてはささやかな出費かもしれない。
しかし、毎日・毎週繰り返される作業の「時間」「疲れ」「仕上がり」を変えていくという意味では、十分、資産型の買い物と言える。
次回はその第一歩として、「リンゴではうまくいくのに、トマトになると突然うまくいかなくなる理由」から掘り下げ、トマトピーラーという存在がどこまで意味を持つのかを検証していく。
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