ウイスキー愛好家なら『山崎』の名前を聞いたことがない人はいないでしょう。それほど山崎は日本産ウイスキーの象徴的存在であり、国内外で高い人気を誇ります。
サントリーのシングルモルトウイスキー『山崎』は、国際的な酒類コンペティションで数々の賞を受賞し、世界中のウイスキーファンに愛されている銘柄です。近年は需要に供給が追いつかず、品薄で入手が難しくなっていて、「日本のウイスキーと言えば山崎」とされるほどの存在感を放っています。
山崎の歴史は、日本のウイスキー創生期そのものです。1923年、サントリー創業者の鳥井信治郎氏が「日本人の繊細な味覚に合ったウイスキーをつくりたい」という熱い想いから、日本初の本格的なモルトウイスキー蒸溜所を建設しました。当時、ウイスキー造りは誰も挑んだことのない壮大な計画でしたが、信治郎氏は周囲の反対を押し切って山崎蒸溜所の建設に踏み切ります。
こうして京都と大阪の境にある山崎の地に誕生した蒸溜所から、ジャパニーズウイスキーの歴史が幕を開けました。周囲を緑豊かな自然に囲まれ、桂川・宇治川・木津川の三川が合流する独特の地形で湿度が高く、ウイスキーの熟成に最適な環境です。古くから名水の里としても知られており、環境省認定の「離宮の水」をはじめとする良質な地下水が豊富に湧き出る土地でもあります。
サントリーは1929年に国産ウイスキー第1号「白札」を発売し、その後「角瓶」や「オールド」など数々の銘柄を世に送り出すなど、山崎蒸溜所は日本のウイスキー文化の礎を築いてきたのです。
『山崎』のトリビア
オークションで数千万円!
山崎のヴィンテージボトルは、オークション市場で桁違いの高値がつくことで有名です。例えば2020年、サントリーが100本限定で発売した「山崎55年」が香港のボナムズオークションハウスで約8,500万円という日本ウイスキー史上最高額で落札されました。
販売当時の定価(330万円)からは想像できない驚異的な価格で、希少なジャパニーズウイスキーへの世界的な熱狂ぶりを示すエピソードです。それ以前にも、山崎50年のボトルが香港や東京のオークションにて数千万円台で落札されており、山崎のプレミアムボトルが投資対象、そしてコレクター垂涎の的になっていることがわかります。
世界的スターにも愛される山崎
山崎は著名人にもファンが多く、海外のセレブリティにもファンがいます。アメリカのポップスターであるビヨンセもその一人です。ビヨンセは自身の楽曲の中で山崎に触れており、ザ・ウィークエンドをフィーチャーした曲『6 Inch』では「東京から取り寄せた山崎を……」と歌詞に織り交ぜ、夫ジェイ・Zとの共作アルバム『Everything Is Love』収録の『LOVEHAPPY』でも「ロックで山崎を飲みながら……」と歌っています。
さらに2024年にはビヨンセがジェイ・Zとともに来日し、京都で山崎などサントリーのウイスキーのテイスティングを楽しむ様子をSNSに投稿して話題になりました。世界の歌姫が歌詞にするほどですから、山崎がグローバルに愛されていることが実感できますね。
世界一に輝いた限定ボトル
山崎の中でも、限定ボトル「山崎シェリーカスク2013」は伝説的な存在です。2014年、この山崎シェリーカスク2013がイギリスの著名な評論家、ジム・マーレー氏の「ワールド・ウイスキー・バイブル2015」において「ワールドウイスキーオブザイヤー」(世界最高のウイスキー)に選ばれる快挙を成し遂げました。スコアは100点満点中97.5点という高評価。同書11年の歴史にあって、日本のウイスキーが首位に輝いたのは初めてのことでした。
著者のマーレー氏はこの山崎を「言葉に尽くせぬ天才的ウイスキー」と絶賛しており、世界のウイスキー愛好家にジャパニーズウイスキーの実力を知らしめる出来事となりました。限定生産の「山崎シェリーカスク2013」は発売当初、ヨーロッパ市場向けに出荷されたものの瞬く間に完売し、現在では幻のボトルとして語り継がれています。
山崎ノンヴィンテージ(NV)の味わい
山崎には12年や18年といった長期熟成の高級品もありますが、まずはノンヴィンテージ(NV)と呼ばれる年数表記のないスタンダードボトルについて知っておきましょう。山崎NVは熟成年数の異なる多彩な原酒をブレンドして造られており、伝統のミズナラ樽原酒に加えてワイン樽熟成のモルト原酒なども使われています。アルコール度数は43度で、柔らかく華やかな香りと甘くなめらかな味わいが特徴です。
- 公式テイスティングノート
- 香り:苺、さくらんぼ
- 味わい:蜂蜜、なめらかな口あたり、広がりを感じる甘み
- 余韻:甘いバニラ、シナモン、綺麗で心地よい余韻
山崎NVは上述のようにバランスの取れた香味を持ち、初心者からウイスキー通まで楽しめる1本です。近年は抽選販売であることがほとんどですが、抽選販売自体は日本各地のリカーショップやデパート、スーパーなどでそれなりの数が行われています。入手できたら、ストレートやロックはもちろん、ハイボールにして食事と合わせてもその存在感を発揮します。まだ味わったことがない方も、ぜひ一度グラスを傾けてみてはいかがでしょうか?