世界初の腕時計は何か。諸説ありますが、1868年にパテック・フィリップが発売した女性用装飾腕時計だといわれていて、ギネスにも認定されています。それから158年もの間、人類は腕時計という小さなケースの中に数々の技術を盛り込んできました。今回は、特に複雑な機構を持つ「超絶技巧」が特徴の3本をご紹介します。

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ブガッティのエンジンを腕時計で再現?

最初にご紹介するのは、1981年にニューヨークで設立したジェイコブ・アンド・コーが手掛けた1本です。先進技術と大胆な芸術性によって、創業してすぐにトップブランドに登りつめた名門ブランドです。

そんなジェイコブ・アンド・コーは2019年、フランスの自動車メーカー「ブガッティ」とパートナーシップを提携し、クルマとコラボした腕時計を世に送り出してきました。

その中でも、2024年に登場した「ブガッティ トゥールビヨン」の技術には目を見張るものがあります。

  • ジェイコブ・アンド・コー「ブガッティ トゥールビヨン」

    ジェイコブ・アンド・コーの腕時計「ブガッティ トゥールビヨン」は、ブガッティのハイパーカー「トゥールビヨン」と双璧をなす腕時計と言っても過言ではありません

腕時計のケース形状はブガッティのクルマと同じで、フロントグリルの両脇にラジエーターインレットを配置。側面にはサイドウインドウを模した開口部があり、色調も合わせています。サブダイヤルはクルマのダッシュボードや回転計をイメージしており、新型V16エンジンブロックや排気マニホールドまで忠実に再現しています。

巻き上げリュウズもクルマのコントロールノブの仕上げに寄せたデザインとなっており、ブガッティとの親和性をとことん突き詰めています。

  • ジェイコブ・アンド・コー「ブガッティ トゥールビヨン」

    創業以来、革新的な腕時計を世に送り出しているジェイコブ・アンド・コー。ブガッティモデルはその代表格です

V16エンジンのように見えるムーブメントはキャリバーJCAM55。機械式腕時計の精度を向上させる世界三大複雑機構である「トゥールビヨン」を搭載し、約80時間のパワーリザーブを確保しています。

  • ジェイコブ・アンド・コー「ブガッティ トゥールビヨン」

    ブガッティ「トゥールビヨン」は同社のハイパーカー「シロン」の後継モデルとして2024年に登場。シロンから大幅な軽量化と高剛性化が図られています

  • ジェイコブ・アンド・コー「ブガッティ トゥールビヨン」

    パワートレインは8.3L V16エンジンに電気モーターの組み合わせ。最高出力は1,800PSにも達します。インテリアには、スイスの時計職人の専門知識を結集して設計されたメーターなどが備わっています

時分針には、扇状の目盛りが動き出したあとに終点から始点へと瞬時に戻る「レトログラード ジャンピング アワー」を採用しています。そのほか、クルマのガソリンメーターのように見えるパワーリザーブインジケーター「ダブルパワーリザーブインジケーター」など、いずれも超複雑機構といわれる超絶技巧を実装した特別なタイムピースです。

腕時計が駆動している様は、走行中のブガッティのエンジンそのもの。それを小さな腕時計サイズで見事に再現してしまうのですから、その技術力には驚きます。

  • ジェイコブ・アンド・コー「ブガッティ トゥールビヨン」

    ブガッティのエンジンを腕時計サイズで緻密に再現してしまうジェイコブ・アンド・コーの技術力には脱帽です

腕時計の価格は執筆時点で6,582万4,000円、限定数は150本。世界250台限定生産のハイパーカー「トゥールビヨン」の380万ユーロ~(約6億5,000万円~)と比較すると安く感じてしまうのも恐ろしいところです。

世界三大時計メゾンが贈る珠玉の逸品

次にご紹介するのは、世界三大時計の一角を担う老舗メゾン「ヴァシュロン・コンスタンタン」の「トラディショナル コンプリートカレンダー・オープンフェイス」です。メーカー曰く「メゾンが探求する革新的な美学と機械式時計の高度な技術、卓越した創造性を体現」しているとのこと。

  • ヴァシュロン・コンスタンタン「トラディショナル コンプリートカレンダー・オープンフェイス」

    ヴァシュロン・コンスタンタン「トラディショナル コンプリートカレンダー・オープンフェイス」。見た目は華やかですが、実物は輝きもほどほどで派手すぎないのが好印象です

41mmのケースにシルバーのオープンフェイス文字盤を採用し、手作業で彫られたギヨシェ装飾(金属表面に幾何学模様を彫り込む伝統技法)が施されています。18Kゴールドの写実的な月やドーフィン型時分針、ブルー仕上げの18Kゴールド製レトログラード日付針、三日月など、細部まで徹底的にこだわり抜いた技術とデザインが宿っています。

  • ヴァシュロン・コンスタンタン「トラディショナル コンプリートカレンダー・オープンフェイス」

    ケースバックから見えるムーブメントを見ていると、時が経つのも忘れてしまいそうです

ムーブメントは約40時間のパワーリザーブを確保した「2460 QCL/270」を搭載。窓には月が表示されています。腕時計の表からも後ろからもムーブメントの動きを鑑賞できるようになっていて、所有欲を満たしてくれます。

  • ヴァシュロン・コンスタンタン「トラディショナル コンプリートカレンダー・オープンフェイス」

    ケース素材はプラチナ、防水性は3気圧(30m)。ガシガシ使う時計ではないですが、日常使いには困らないスペックを持っています

高精度ムーンフェイズを採用しつつもクラシックになりすぎない、現代的なスタイルを確立した1本。段差を付けたラウンドケースとラグ、細身のベゼルなど、装着感や視認性にも配慮され、計算し尽くされた芸術作品に仕上がっています。価格は1,135万2,000円です。

2つの超複雑機構をシンプルに仕上げた傑作

最後は、創業150周年を迎えますます勢いづく世界三大時計のひとつ「オーデマ ピゲ」の「ロイヤルオーク ジャンボ エクストラ シン フライング トゥールビヨン クロノグラフ(RD#5)」です。5年の歳月をかけて開発したという特別なタイムピースで、クロノグラフとフライング トゥールビヨンという2つの複雑機構を1本の腕時計に搭載するという偉業を成し遂げた傑作です。

  • オーデマ ピゲ「ロイヤルオーク ジャンボ エクストラ シン フライング トゥールビヨン クロノグラフ」

    ロイヤルオークは入手困難なモデル。そこに2つの複雑機構を搭載しています

時計好きはときに、腕時計のプッシュボタンの押し心地にさえこだわることがあります。本作は、そうした世界中の時計愛好家のために、内部構造を一から再構築した新しいムーブメントを採用。プッシュボタンはしっかりと押し込まなくても軽い力で押せるのが特長です。

開発担当者の説明によると「一般的なクロノグラフウォッチのプッシュボタンは1mm以上、約1.5kgの力が必要なところ、本作では0.3mm、約300gの力でOK。この力加減はスマートフォンのサイドボタンから着想を得た」とのことです。

  • オーデマ ピゲ「ロイヤルオーク ジャンボ エクストラ シン フライング トゥールビヨン クロノグラフ」

    本モデルは複雑機構を2つも搭載していながら厚さ8.1mmという薄型モデルに仕上げられています

軽量なチタンと、腕時計業界初採用となる「バルクメタリックガラス」を融合した革新的な素材をケースとブレスレットに採用していることでも話題となりました。具体的な製造工程は省略しますが、一度に生産できる数は限られ、希少性が高く、非常に手間のかかる素材で作られています。

複雑な機構をいかにシンプルに仕上げるかが老舗時計メーカーの腕の見せどころといわれますが、クロノグラフとフライング トゥールビヨンを搭載していながらケースサイズ39mm、ケース厚8.1mmという小径サイズで、薄型に仕上げられているのはオーデマ ピゲの技術力があってこそだと思います。

価格は要問い合わせ、世界限定150本です。

  • オーデマ ピゲ「ロイヤルオーク ジャンボ エクストラ シン フライング トゥールビヨン クロノグラフ」

    ケースバックからは磨きに磨き抜かれた超複雑ムーブメントを鑑賞できます

  • オーデマ ピゲ「ロイヤルオーク ジャンボ エクストラ シン フライング トゥールビヨン クロノグラフ」

    これだけの複雑機構を載せていて防水性20mを確保しているのはさすがです。とはいえ、水濡れには注意したほうが無難だと思います

機械式腕時計が世界中で再評価されるようになり、1980年代に続々と老舗メーカーが復興し始めてから40年あまり。その間、世界中の時計メーカーはしのぎを削り、技術力を高めてきました。ここで紹介しきれない超絶技巧を持つ腕時計もまだたくさんあります。

今後も高い技術力によって生み出される、人類の叡智ともいえる機械式腕時計の動向に注目していきたいと思います。