日本のOEM(完成車メーカー)でアメリカへの依存度がとりわけ高いのがマツダだ。株主総会ではトランプ関税の影響を問う質問が続出。マツダはアメリカ向け輸出車の生産規模と日本国内70万台体制を死守できるのか。
マツダの世界販売は米国が3分の1
上場企業の株主総会も一巡したが、自動車メーカー各社に米国・トランプ政権の関税政策がどれほどの影響を与えるのか、株主からの関心も集中した。
日本車OEM(完成車メーカー)の多くは米国市場に販売台数と収益の両面で大きく依存している。例えば、日産自動車の壊滅的な業績悪化の主因は米国であり、再建の行方は米国販売の立て直しにあると言っても過言でない。
その中にあって、とりわけ米国依存度の高い日本車OEMとして挙げられるのが、スバルとマツダである。
マツダの2024年度の米国販売は43万4,000台。前年度比16%増で過去最高の数字となった。世界販売は130万2,000台(同5%増)だから米国販売の比率は33%、ちょうど3分の1が米国市場ということになる。
加えて、マツダの2024年の米国販売のうち、日本工場からの輸出車は22万台で約5割を占める。これにメキシコ工場からの輸出車11万台を足すと、約8割が輸出車だ。残りがトヨタ自動車との合弁会社である米アラバマ工場の生産分となる。
マツダは日産などと同じく、メキシコ生産拠点からの米国向け自動車供給体制を構築してきたが、トランプ政権が米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)にも踏み込んで関税を課すということで、米国販売で約8割を占める輸出車への対応が迫られている。
これに対しマツダの毛籠勝弘社長は、定時株主総会で「取引先や販売店などサプライチェーンで力を合わせ、事業と雇用を守り抜くことを最優先とする」と述べた。具体的には、“広島城下町”である広島と山口のマツダ国内工場とそのサプライヤーを守るべく、国内生産年間70万台の維持を強調している。
株主総会では再三にわたりトランプ関税への対応が問われたが、「影響最小化の取り組みとして、緊急対応策の策定に向け部門横断対応チームを立ち上げている。日米政府間交渉などは見極めが困難だが、米国でのインセンティブ抑制、値上げ、現地生産の拡大を検討している」と応じた。また、米国における環境規制の変化をマツダの事業強化の機会と捉え、「今期は可能な限り前年並みの水準を目指す」とした。
マツダの毛籠社長は、2016年に日本人として約20年ぶりに北米現地法人のトップに就き、米国での販売改革に乗り出し、「ブランド価値経営」を推進して現在のマツダの米国販売での質・量の向上に貢献した。
米国販売改革の実現により2023年6月にマツダ社長に就任した毛籠勝弘社長だけに、米国市場は熟知しており、今回のトランプ関税に対応する中で「世界130カ国の市場強化につなげる」戦略も打ち出す。
日本国内の販売強化策も発表し、国内生産安定確保へ
これに連動して、日本国内販売の改革方針も発表した。マザーマーケットの日本では年間20万台を目指して、販売体制のテコ入れを図る。母国市場の強化は国内生産70万台死守につながるものだ。
マツダは1990年代初頭に国内5チャネル販売網を打ち出したこともあったが、以来、久しぶりの日本国内での販売強化策がトランプ関税の中で飛び出した感がある。
ともあれ、マツダは広島・山口の中国地方経済を支える完成車0EMで、かつては米フォード傘下で厳しい経営状況も経験している。だが最近は、「魂動デザイン」「人馬一体」「走る歓び」を前面に押し出し、“マツダらしさ”を核とする「ブランド価値経営」が商品戦略に結びついている。
マツダは「世界の中ではスモールプレイヤー」だと認める毛籠社長だが、それなりの規模感で「2030年に向けてもライトアセット戦略で生き抜く」との決意は固い。この7月には東京本社を麻布台ヒルズに移転し、同時にマツダR&Dセンター東京を新東京本社に開設した。