アメリカで日本車はたくさん走っているのに、日本でアメ車は走っていない――。トランプ大統領のこんな発言で注目を集める「アメ車」だが、実際のところ、日本ではどんな状況? 50年にわたってアメ車を販売してきた専門店「スカイオート」のオーナーに話を聞くと、意外な事実が判明した。

  • アメ車専門店スカイオート

    埼玉県越谷市にある「スカイオート」はアメ車を中心に欧州車、国産車まで幅広く取り扱っているが、特にアメリカ製フルサイズピックアップに強みを持つ。敷地内には「ハマー」などのゴツいアメ車が所狭しと並んでいた

アメ車が売れない原因は日本にも?

トランプ関税によって話題になることが増えたアメ車だが、日本ではあまり売れていない。日本自動車輸入組合(JAIA)によると、2024年度の輸入乗新規登録台数は230,230台(日本メーカー車を除く)。そのうち最も多かったアメ車ブランドは「ジープ」で、台数は1万台弱だ。シェアはわずか数%に過ぎない。

  • ジープ「ラングラー」

    日本でも人気が高いジープ「ラングラー」

アメ車が日本で売れない理由としてよく聞くのが、「車体が大きすぎる」「燃費が悪い」「壊れやすそう」などといった意見だが、「アメ車を買うという選択肢がない」「そもそも無関心」などと指摘する専門家もいる。日本で人気の高いドイツ車勢よりも正規ディーラーが少なく、全国の販売網が貧弱とも言われるし、また、大排気量のため税負担が大きく、維持していくのが大変という話もよく耳にする。

ただ、実際にアメ車を販売している専門店に話を聞くと、少し違った声が聞こえてきた。埼玉県で50年にわたってアメ車を販売してきた「スカイオート」の代表取締役 村上周平さんは次のように話す。

「もちろん車体が大きくて扱いにくい、日本の道路に合っていないという理由で売れないという側面はあると思います。ただ、それ以上に、2023年4月に改正された『加速走行騒音試験』に問題があると考えています。このテストは、フルで加速したときにクルマが発する騒音が73dB(デシベル)以下でないと、日本では販売できないというものです。この数値はかなり非現実的で、73dB以下というのは、電気自動車(EV)など、かなり静かに走行できるクルマにしかクリアできない数値だと考えています」

  • GMC「シエラ」

    スカイオート代表取締役の村上周平さん。昨今はネガティブな側面が話題に上がりがちなアメ車だが、「乗って面白い」「人とかぶらない」など魅力もたくさんあると話す。自身もアメ車「シエラ」(GMC)に乗り、アウトドアや釣りを楽しんでいるそうだ

2023年4月以降に生産されたクルマは、並行輸入車も含め、この騒音テストをクリアしなければならない。2023年9月以降は、3.5tを超えるピックアップトラックなどの大型のアメ車については「76dB」という騒音基準が新設されたが、これでも、クリアするにはかなり厳しい数値だという。このままだと、2023年4月以前に生産されたクルマしか取り扱うことができないというのが現状だ。

  • GMC「シエラ」

    アメリカのピックアップ専門メーカー「GMC」の中でも中心的な存在となるのがフルサイズピックアップトラックの「シエラ」だ。この個体、すでに売り先も決まっていて仕入れたものの、上記の騒音テストをなかなかクリアできず、いまだにガレージに保管中とのことだ

  • クルマの吸音材

    鉛を含んだ吸音材(写真)を車体に装着するなど工夫をこらしているが、騒音テストが通過できないとのこと。基準が厳しすぎると村上さんは話す。騒音テスト自体、いつでもどこでも受けられるものではなく、受けられる場所は決まっていて、予約を取るのも大変らしい

実際にガレージ内で3.5tを超えるGMC「シエラ」のエンジンをかけてもらい、測定器でエンジン音を測ってもらうと、アクセルを踏んでいないアイドル状態でも70dB前後の数値を検知した。アクセルを軽く踏み込めばあっという間に76dBは超えてしまう。この基準値では、2023年4月以降に生産されたほとんどのアメ車は日本で販売できないことになる。事実、正規ディーラーを通さない並行輸入のアメ車(特に年式が新しい車両)は、ほぼ日本に入ってきていないのが現状だという。

  • 騒音測定器

    アイドル状態でも78dBという数値を検出。実際に聞いたエンジン音は、車体が大きい割にかなり静かという印象だった

  • GMC「シエラ」

    もともとの状態だとウインカーは赤く光るので、日本に導入するにはオレンジ色に光るように変更しなければならない

  • GMC「シエラ」

    ライトが周辺から中心に向かって徐々に消えるように点滅する「シエラ」のウインカーも、日本ではNGらしい。このパーツも変更しなければならないという

古いクルマよりも新しいクルマの方が、概して燃費は良好だし不具合なども少なく、安心して長く乗ることができるはず。しかし、現状の騒音規制では、最新のアメ車で日本で売りたい車種があったとしても、日本に持ってくるのは難しいという。

「アメリカ国内ではすでに騒音テストをクリアしている車両でも、アメリカから日本に輸入する際には再度、騒音テストをクリアしなければなりません。さらにいえば、アメ車をヨーロッパから輸入する際には、この騒音テストは行われません。これは不公平です。安全基準は満たしているのに、この騒音テストのせいで販売にこぎつけられないのはおかしいと思います。そこをなんとかしなければ、日本でアメ車が売れるはずがありません」(村上さん)

日本でアメ車が売れるかどうかを論じる以前に、そもそも最新のアメ車を日本で売ることができない。これが実情なのだ。

日本とアメリカで建設的な対話を!

アメ車が売れない理由はほかにもあると村上さんは指摘する。

「コロナ禍以降、為替が大きく変動しているので、そこも影響しています。仮に10万ドルのアメ車を買い付けたとして、単純に計算すると1,500万円(1ドル150円換算の場合)になります。そこに税金を加えると1,650万円。配送料(船便)もかかってきます」

円安がかなり効いている上、さらなる追加費用も必要になる。

「排ガス規制やブレーキパーツ、灯火類の交換費用、諸経費などを合わせると、10万ドルのクルマが2,000万円近くになってしまいます。2,000万円あれば、他にも選択肢がたくさんあるでしょう。そこまでの金額を出してアメ車に乗りたい、乗れるという人がどれくらいいるのかという話になってきます。もちろん一定数のファンはいますが、ここまで高くなると、かなり少なくなります」

  • GMC「シエラ」
  • GMC「シエラ」
  • 写真左の光っている部分には本来、バックランプが付いていたのだが、オレンジ色に光るウインカーに変更した。バックランプは写真右のように後付けされている。こうした細かい変更も手間がかかる部分だ

為替の変動は仕方ない部分がある。ただ、規制については、見直しの余地があるのではないだろうか。そうしないと、どれだけクルマに魅力があったとしても、アメ車を日本で売っていくことは難しい。日本のクルマ好きとして考えれば、乗る・乗らないは別として、そもそも選択肢としてアメ車が選べないという状況は残念すぎる。

こうした事態を受け村上さんは、アメリカ政府に直接、書簡を送ったという。日本の規制の現状とスカイオートをはじめとする同業他社が直面している状況をトランプ大統領に伝えるためだ。

この書簡では、アメリカの連邦自動車安全基準「FMVSS」に適合している車両が、日本への輸入時に再度のテストを課せられ、そのテストのクリア基準は非現実的で、アメ車を日本で登録できない状況にあるということを伝えたそうだ。

この点について村上氏は、「実際に日本とアメリカで対話がすぐに始まるかどうかはわかりません。ただ、この手紙は政府高官を通して渡していますので、トランプ大統領は読んでくれていると信じています」と話す。

もしも日本側の規制が緩和されれば、日本から撤退してしまったフォードの人気SUV「ブロンコ」やマッスルカー「マスタング」などの最新モデルも、日本で購入しやすくなるはず。ただ、現状では、正規ディーラー以外の最新のアメ車を日本で購入するのは難しい状況にある。正規ディーラーを日本に置いているアメ車ブランドはキャデラック、シボレー、ジープくらい。あとはテスラもネットで購入できるが、これでもアメ車の一部に過ぎない。

  • フォード「マスタング」
  • フォード「ブロンコ」
  • フォード「レンジャーラプター」
  • 日本から撤退してしまったフォードの人気車種マスタングやブロンコ、レンジャーラプターなどは日本でも需要がありそう

  • ダッジ「チャレンジャー」
  • ダッジ「チャージャー」
  • ピックアップトラックに強いスカイオートだが、今後は「チャレンジャー」(左)や「チャージャー」(右)のような、いわゆる「マッスルカー」の販売も強化していきたいとのこと。ただ、現状の騒音テストがある限り、見通しはかなり厳しいという

アメ車が売れないのはアメ車を作る側、売る側が「売る努力をしていないからなのでは」といった議論を耳にすることがあるが、それ以前の話として、日本側が設けている厳格な規制にも問題がありそうだ。日本でアメ車を販売している業者(特に並行輸入業者)は、売る努力すらできない状態に置かれている。

村上氏は最後にこう付け加える。

「アメ車を求めるお客様は全国からいらっしゃいます。1人でも欲しいとおっしゃる方がいれば、仕入れて販売したいと思っています。当社のスタッフは全員、メカニック兼販売員として働いていますので、購入後のメンテナンスまで、トータルでサポートできる体制が整っています。『アメ車はライフスタイル』だと思っていますので、日本でアメ車があまり売れていなくても、廃れることはないと考えています」

  • スカイオート
  • スカイオート
  • スカイオートではゆっくり商談できるスペースを完備。「雑談するだけでも大歓迎です」と村上さん

  • スカイオート
  • スカイオート
  • スカイオート
  • 店内ではアパレルも販売。取材日は車検や点検整備のため、多くのアメ車オーナーが来店していた。ナンバープレートを見ていると福島、釧路など遠方のクルマもあった

日本でアメ車がバカ売れすることはないと思うが、欲しいと思っている人が一定数いるのは事実だ。アメ車の販売店が減っている影響もあり、スカイオートにはクルマの購入、整備で全国から客が訪れている。少なくとも、欲しいと思った人は、最新のモデルを含め好きなアメ車が買えるという状況を整備しなければ、日本における多様なクルマ文化の醸成という観点からも問題があると思う。

■Information
スカイオート
【場所】埼玉県越谷市南荻島708-1
【営業時間】10:00~18:30
【定休日】火曜日・水曜日