今年、旅行業界のロイヤルティプログラム界隈に激震を走らせたニュースと言えば、4月にANAが発表したスーパーフライヤーズカード(以下、SFC)の制度改定だろう。これに対し、株主や会員から多くの不満や懸念が寄せられたことで、ANAは2026年9月29日に制度改定の見直しを発表した。

本記事では、SFC制度改定の背景と全貌とともに、当事者目線からの考察や他社の動向を比較しながら、ロイヤルティプログラムの今を紐解く。

年会費11,275円~で「スターアライアンス・ゴールド」を維持できたSFC

SFCとは、ANAマイレージクラブの「ダイヤモンドサービス」または「プラチナサービス」メンバーなど、マイルとは別に、搭乗回数に応じて付与されるプレミアムポイントの条件を満たした人だけが申し込めるクレジットカードだ。一般カードの場合、年会費は11,275円となっている。

SFCが注目されてきた大きな理由は、カードを継続して保有することで、ANAの上級会員向けサービスを半永久的に利用できる点にあった。SFCを保有することでANAラウンジ、優先チェックイン、手荷物の優先受け取り、優先搭乗など、空港でのさまざまなサービスを利用できる。さらに、世界最大級の航空連合「スターアライアンス」のゴールドステータスが付与されることにより、シンガポール航空、ユナイテッド航空、エアカナダやルフトハンザ、ターキッシュエアラインズなど、海外のエアラインを利用する際にも上級会員向けのサービスを受けられることが大きな魅力だった。

この「一度ステータスを獲得すれば、カードを維持することで長期的に上級会員資格を持ち続けられる」という仕組みから、近年SFC会員数は増加の一途をたどっている。

年300万円決済で区分分け。ANAラウンジ利用OKも、LITEは事前予約制に

2026年4月、ANAが提示した当初の改定案では、年間決済額300万円を境界線とした区分分けが発表された。

  • SFC PLUS:年間決済額300万円以上。現行サービスを維持し、さらに5,000マイルのボーナスを付与。
  • SFC LITE:年間決済額300万円未満。ラウンジ利用権はなく、スターアライアンス・ステータスも「シルバー」へ格下げ。

特にLITE層における「ラウンジ不可」の衝撃は凄まじく、修行(マイル獲得のための多頻度搭乗)を経て権利を手にした層からは、約束を反故にされたという不信感が噴出し、株主や会員からの問い合わせが相次いだ。

これを受けANAは、2026年9月29日に一部の条件を緩和する「再見直し案」を発表した。

サービス項目 SFC PLUS(300万円以上) SFC LITE(300万円未満)
国内線ANAラウンジ 制限なしで利用可 原則利用可(混雑時を除く/事前予約制導入)
国際線ANAラウンジ 制限なしで利用可 利用可(羽田・成田・ホノルルのANAグループ便のみ)
スターアライアンス ゴールド シルバー
各種優先サービス ANA/提携社ともに維持 ANAグループ運航便のみ維持

ANAは「お客様の声」を反映させたと称し、主要拠点でのラウンジ利用を再び開放した。しかし、LITEについては、国内線ラウンジは2027年度を目途に導入される事前予約が必要となる。さらに年末年始・ゴールデンウィークなどの大型連休や、出発便が集中するなど混雑が予想される期間・時間帯は利用できない場合もあると公式では発表されている。また、国際線においては「ANAグループ運航便」への搭乗が条件となり、ANA便名で予約していてもコードシェア便や、他社運航便であればラウンジは利用できない。

再見直しでラウンジ利用が一部戻ったとはいえ、SFC LITEに課された「スターアライアンス・シルバー」への降格は見直されなかった。最大の不利益を被るのは、ANAラウンジがない海外の空港から飛行機に搭乗する場合だ。ANAグループ運航便の利用であっても、LITEの場合は海外の空港における提携社ラウンジが利用できない。

SFC制度改定の背景にあるラウンジ混雑と、スターアライアンスへの支払い負担

改定についてANAは公式HPで「お客様のご利用が拡大する中、ラウンジの混雑などにより、一部のサービスにおいて快適性を十分に維持することが難しい場面が生じているためです」と発表している。近年、羽田や新千歳、福岡空港などのANAラウンジは、ピーク時に座れない、あるいは利用できないケースも発生していた。ANAのシミュレーションではこの混雑が2030年に向けてさらに悪化していくと予想している。解決を図るため、これまでもラウンジの増床を行っており、2027年度には羽田空港のラウンジを拡張予定だが、空港の使用条件上、これ以上の規模拡大は難しいという。その結果、新たなルールを設けたというわけだ。

また、今回の見直しでも、スターアライアンス・ゴールドの資格は年300万円以上の決済に据え置かれた。このことからも、ANAがスターアライアンスへ支払うラウンジ利用料などの負担を減らしたいという思惑が見え隠れする。

新SFCが示す3つの選択肢。「持ち続ける」から「どう使うか」へ

今回の再見直しによって、利用者には以下の3つの選択肢が示された。

選択肢A:年間300万円を決済し「SFC PLUS」を維持する

メインカード化し、毎月25万円以上を決済する。生活費や事業費に加え、三井住友カード発行のANAカード(VISA、MASTER)を持っている場合は、SBI証券のクレジットカード決済積み立てなども対象なので、これらを活用するといいだろう。海外出張や他社便利用が多い層にとっての正攻法だ。

選択肢B:「SFC LITE」として割り切り、国内メインで活用する

スターアライアンス・ゴールドのステータスは諦め、国内線や国際線のANAラウンジの利用、優先チェックインや優先搭乗だけ享受する。メイン決済を他社カードへ分散させたい層向けの現実解だ。

選択肢C:他社カードへ乗り換える

優先チェックインや優先搭乗はないが、航空会社にかかわらず世界中のラウンジが利用できるプライオリティ・パス付帯のクレジットカードを作る。あるいは他航空会社のクレジットカードや、Marriott Bonvoy等のホテル系ステータスへ軸足を移す。特定の航空会社に縛られない自由な旅を追求する道だ。

ANAの新制度は2026年12月16日から2027年12月15日までの決済実績を判定期間とし、2028年4月1日から新しい区分でのサービスが始まる予定だ。

また、ANAは混乱を鎮静化させるため、4月の発表以降に一度退会した会員への特例再入会という措置を講じている。2026年4月23日から9月29日の間に、改定を不服として退会した会員は、2027年3月末までであれば再入会が可能だ。

半永久的な上級ステータス付与は、世界的には特殊な事例

では他社エアラインはどうだろうか。ライバルのJALは2024年1月に制度改定を行っている。しかし、ANAが「決済額による選別」に舵を切ったのに対し、JALはJALグローバルクラブ(JGC)の既存会員への待遇は維持し、長年のロイヤルティに対する信義を重んじる姿勢を見せた。その分、いわゆる“修行”をしてステータスを獲得するハードルが事実上難しいプログラムへ変更している。

しかし、SFCやJGCのような半永久的な上級ステータス付与は、世界的には特殊な事例だ。例えば、アメリカのデルタ航空は「デルタ アメックス・ゴールドカード」の発行で、初年度は無条件でゴールドメダリオンを付与。これによりデルタが加盟するスカイチームの上級ステータスである「エリート・プラス」が自動適用され、エールフランス、大韓航空など世界中の加盟航空会社で優先サービスを受けられる。しかし、次年度以降は年間150万円以上の決済で、ゴールドメダリオンが継続できる仕組みを取り入れている。

アメリカン航空は、搭乗だけでなく、対象クレジットカードでのショッピング利用で貯まるロイヤルティ・ポイントの数に応じてステータスを付与するが、その期間は1年間だ。エールフランスやKLMも同様の仕組みを取り入れている。

こうした制度を見れば、ANAのSFC改定も単独の動きではないことが分かるだろう。航空会社にとって、上級会員は搭乗回数の多い人だけではなく、カード決済や日常サービスまで含めて長期的に関係を築きたい顧客でもある。SFCの再見直しは、航空会社と顧客との長期的な関係づくりそのものが変化していることを示す動きともいえそうだ。