創業120年を超える老舗・大賀薬局。福岡県を中心に調剤薬局やドラッグストアを展開する一方、近年は「薬剤戦師オーガマン」を活用した企業ブランディングや、幼稚園・保育園での「薬育」、動物病院の事業承継、医療従事者向けのバー運営など、従来の薬局の枠にとらわれない事業を展開している。

その舵を取るのが、5代目社長の大賀崇浩氏だ。なぜ薬局の社長自らがヒーローに変身し、新たな事業領域を切り拓き続けるのか。そこには、薬剤師としての本来の使命と、120年続く企業を次の世代につなぐための経営戦略があった。大賀氏に、その狙いと背景をうかがった。

  • 株式会社 大賀薬局代表取締役 大賀 崇浩氏

    株式会社 大賀薬局代表取締役 大賀 崇浩氏

「変身したかった」から始まったヒーロー経営

――大賀社長といえば、自ら「オーガマン」に変身して活動されている姿が非常に印象的です。そもそも、なぜ「ヒーロー」という形を選んだのでしょうか?

ただ「変身したかったから」、というのがキッカケですね。実は、私の母がかなりの特撮オタクで、ウルトラQの時代から、ゴジラ、仮面ライダー、戦隊、宇宙刑事シリーズまで、幼い頃から映画やテレビに連れて行かれるのが当たり前でした。私にとって母と遊ぶことは“ヒーローごっこ”をすることと同義で、ある意味、英才教育を受けて育ったんです。

その後、中学・高校・大学と野球に明け暮れていた時期は少し離れていましたが、20歳の頃に始まった『仮面ライダーアギト』をきっかけにヒーロー愛が再燃しました。当時、DVDショップに入り浸って全シリーズを見直すなかで、変身願望も復活した感じです。

――そこからどうやって「薬剤師のヒーロー」につながったのですか?

ヒントになったのは『仮面ライダーエグゼイド』という作品です。これは医者が変身するライダーなのですが、作中に薬剤師のヒーローが出てこなかった。「これ、薬剤師がいてもいいんじゃないか?」と思ったのがアイデアの元です。

ただ当時、大賀薬局の社長は父でしたから、まだアイデアは温めておきました。その後、私が事業承継してオーナー兼社長になったタイミングで、取締役会に提案したんです。「私がヒーローに変身します」と。

――周囲の反応はいかがでしたか……?

全員反対です。意味不明だったと思いますよ。「社長が変身して何になるんだ」と。メインバンクの支店長からも「キャラクターで成功した例は見たことがない」と止められました。でも私は、「前例がないだけで、事業性を見ていない。バンダイの決算書を見て、仮面ライダーというIP(知的財産)にどれだけの市場があるか調べてみてください」と返しました(笑)。

最終的には「そこまで言うなら、お手並み拝見」といった感じで、半ば呆れられながらスタートしたんです。

――実際にやってみて、反応は変わりましたか?

そうですね。今では、社内に怪人がうろうろしていても誰も驚きません。社員の子どもたちがオーガマンを見て喜んだり、イオンのヒーローショーに人が殺到したりするのを客観的に見て、ようやく「すごいコンテンツを作ったんだな」と納得してもらえるようになったように感じています。

――オーガマンは「残薬問題」の解決を掲げています。なぜこの問題に取り組むのでしょうか?

ヒーローとして戦うには“大義”が必要なんですよ。大義がなければただのコスプレ社長じゃないですか。そうならないために、薬局として社会的意義を問い直す必要がありました。

私の祖母が1962年に薬局を始めた頃は医薬分業の黎明期で、当時は医者が薬を出せば出すほど儲かる“薬漬け医療”が社会問題化しつつあったんです。で、それを防ぐために、第三者である薬剤師がチェック機能を果たし、医療費を抑制するという仕組みが作られた。つまり、薬剤師の本来の使命は「病気を治すこと」以上に、「余計な薬を出さないようにし、医療費を削減すること」なんですよ。

――売ることではなく、適正化することが薬剤師の本分だと。

そうです。処方箋通りに薬を出して利益を上げるだけなら薬剤師なんていりませんし、昔の薬漬け医療と変わりません。だから、私たちはあえて「不要な薬を減らす」というメッセージをヒーローとして発信する。結果として売り上げは落ちるかもしれませんが、それでいいんです。ヒーローは、戦う相手がいなくなった時にその役目を終える。それが一番かっこいいじゃないですか。

――2022年から始まった「オーガマンのやくいくプロジェクト」では、すでに累計400カ所以上の幼稚園・保育園を訪問されているそうですね。実際にどのような手応えを感じていますか?

年間1,000億円とも言われる残薬の多くは税金から支払われています。このもったいなさを子どもたちに伝えるために、薬の飲み残しをなくすことや、手洗い・うがいの大切さを伝えています。

面白いことに、大人が言っても聞かない子どもたちが、オーガマンが言うと一瞬で行動を変えるんですよ。オーガマンが「君も手を洗おう!」と言うだけで、手洗い場に行列ができる。フロス(糸ようじ)を嫌がっていた子が、自分でするようになる。保護者の方からも「オーガマンのおかげで習慣がつきました」とお手紙をたくさんいただきます。

  • やくいくプロジェクトで幼稚園や保育園に出向くオーガマン

    やくいくプロジェクトで幼稚園や保育園に出向くオーガマン

  • やくいくプロジェクトでは、子どもたちに処方された薬を最後まで飲み切ることの大切さを伝えるため、「やくいく手帳」を配布している

    やくいくプロジェクトでは、子どもたちに処方された薬を最後まで飲み切ることの大切さを伝えるため、「やくいく手帳」を配布している

「薬局」の枠を超えて、新たな事業を生み出す

――スキンケアやオーラルケア、ヘルシーフードなど、オリジナル商品の開発にも力を入れられていますが、大手メーカーとの違いはどこにあるのでしょうか。

やっぱり“隙間商品”であるという点ですね。私たちは福岡県内に100万人以上の患者データを持っているので、約5人に1人は大賀薬局のお客様という計算になります。この莫大なデータを分析すれば、今の時代に何が求められているかがわかります。

今はニーズが多様化していて、家族全員で使うような大容量商品より、個人にパーソナライズされた商品が求められています。例えば「咳だけを止めたい」「特定の悩みだけに刺さってほしい」といった、大手メーカーでは対応することが難しい“隙間”のニーズを、現場の接客から拾い上げて商品化しています。

――ほかにも動物病院の事業承継や、医療従事者限定のバー「MEDs(メッズ)」など、薬局の枠にとらわれない事業を展開されています。こうした新しい事業は、どのように生まれているのでしょうか?

動物専門調剤については、私自身の飼い犬が病気になった際の経験が元になっています。容体が末期の時によく動物病院に通っていたのですが、そのときに動物医療でも人用の医薬品が使われるケースがあることや、薬にかかる費用の高さを実感しました。そこで、薬剤師が関わることで、コストを抑えられるのではないかと考えたんです。実際に動物病院を事業承継したところ、売り上げは以前の120%にまで伸びています。

  • 大賀ペットクリニック

    大賀ペットクリニック

医療従事者限定の会員制バー「MEDs(メッズ)」は若手薬剤師のアイデアを具現化したものです。医師や看護師、薬剤師などの医療従事者が、職種の垣根を超えて悩みを相談し合える場として、現在3000人近い会員がいます。スタッフも全員医療従事者なので、専門用語が飛び交ってもどこか安心感があるんです。

実はここは広告代理店的なビジネスモデルになっていて、15社ほどのスポンサー企業から広告費をいただくことで、固定費をまかなっています。安くお酒を提供でき、かつ医療者の採用や紹介のハブにもなる。このモデルは今、全国からフランチャイズの引き合いが来ています。

  • MEDs

    MEDs

120年の歴史を守るために「面白く、目立つ」

――120年以上続く老舗企業でありながら、こうして次々と新しい事業に挑戦されています。歴史を守りながら変化を続けるうえで、大切にしていることは何でしょうか?

企業が継続するために、最も重要なのは“人”だと思っています。給与や休日といった待遇面だけで大手と競っても、なかなか勝てません。それよりも、「この会社で働いたら面白そう、成長できそう」と思ってもらえるかどうかが大事なんです。

「30代前半で事業会社の社長を任される」「オーガマンと一緒に仕事ができる」。そうした大賀薬局ならではの魅力を発信することで、優秀な人材が集まってくるようになりました。120年の歴史を守り、会社を次の世代につないでいくためには、常に新しいことに挑戦し、面白い会社であり続ける必要があります。「攻撃は最大の防御」と言いますが、挑み続けることが結果的に人を惹きつけ、会社と歴史を守る最大の“守り”になっていると思います。

――最後に、今後の展望をお聞かせください。

今掲げている目標が「子どもたちに誇れる企業」であることなんです。きっかけは、娘から誕生日に「お父さんのチャレンジを尊敬しています」という手紙をもらったことでした。そのとき、仕事をしていてこれほど嬉しいことはないなと感じました。社員たちもきっと同じだと思います。

人と動物と環境を一体で守る“ワンヘルス”を推進し、福岡に必要不可欠な会社となれば、きっと子どもたちも誇りに思い、尊敬してくれる会社になれるんじゃないかと思っています。