BYDが日本市場向けに開発した軽EV「ラッコ」を発売した。日本の軽自動車市場は年間170万台規模を誇る巨大市場だが、ラッコの意義は販売台数だけでは語れない。試乗して感じたのは、従来の軽自動車とは異なる上質な乗り味と存在感だった。軽EVは単なる環境対応車ではなく、「小さな高級車」という新たな価値を生み出す存在になりつつあるのかもしれない。
細部まで撮影しました! BYD「ラッコ」の写真を一気に見る
BYDにとって日本の軽自動車市場は魅力的?
BYDは電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)の販売で2025年に世界第5位の自動車メーカーとなった。米国のゼネラルモーターズ(GM)やフォード、日本のホンダや日産自動車より上位だ。
そのBYDが、日本専用車種といえる軽EVの「ラッコ」を7月28日に発売した。
日本の自動車市場は中国、米国、インドに次ぐ4位の規模だといわれる。ただ、最大市場である中国の年間3,400万台に比べると、日本は約442万台(13%)でしかない。
軽自動車に限定すると、日本では年間約171万台強が売れている。国内市場の38.9%ほどで、日本で売れる自動車の約4割が軽自動車ということになる。その点にBYDは着目した。昨年、約460万台を売ったBYDにとって、171万台の軽自動車市場はけっして小さくはないということではないか。
軽EVが新しい「小さな高級車」に?
ラッコに試乗してみると軽自動車とは思えない走行感覚で、上級車に通じるほどの重厚さがあった。
4年前に日産自動車「サクラ」と三菱自動車工業「eKクロスEV」が発売されたときから、軽EVの性能や走りはエンジン車の軽を超える感触があった。ホンダ「N-ONE e:」を含め、軽EVに乗っていて「やはり軽だから仕方がない」という我慢をした覚えがない。軽自動車の枠を超えた充足感が軽EVにはある。それでいて、電気代も税金も安あがりだ。
さらに、ラッコに乗った際には高級感さえ感じられた。それを一言でいえば、「小さな高級車」という価値だ。
過去にも、小さな高級車と形容された車種がある。たとえばトヨタ自動車の「プログレ」だ。しかし、筆者の考えでは、軽自動車で小さな高級車と思わせるクルマはなかった。
軽自動車における新たなこの価値は、まさに21世紀ならではの世界観を表しているのではないか。もはや、黄色いナンバーの軽と侮ることはできない。
21世紀のライフスタイルに最適なクルマ
気候変動の影響は、いま身近にある。
令和8年熊本地震の被災地は連日の猛暑で、復旧作業の困難さが増し、被災地をさらに苦しめている。欧州で40℃を超えた熱波と変わらない気象状況といえ、世界的な傾向だ。
千葉県での豪雨は、県庁所在地の千葉市という都会でさえ、身動きできないほどの洪水になり、死者まで出た。次いで、北陸や北海道も集中的な豪雨が起きた。この事態は、次は自分に及ぶかもしれないとの懸念や恐怖を抱かせる。
そうした時代に、上質で豊かな暮らしを快適にしながら、安心して過ごすには、早急な脱二酸化炭素の実行が不可欠だ。クルマでいえば、EVの選択だ。なおかつ軽でも、小さな高級車が移動の快さを満たしてくれるだろう。
かつて、英国で「ミニ」(MINI)が発売されたとき、最初に関心を示したのは社会的地位の高い富裕層や貴族たちだった。また、ファッションデザイナーのポール・スミスが自らデザインした青いミニを限定製作し、マリー・クワントも限定車を製作した。ここから大衆車としてのミニ人気に火が付き、41年間も販売され続けた。
軽EVが同じような動機づけとなり、EVへの関心や、購入意欲を掻き立てることはできないだろうか。
オール電化の高層マンションで暮らす人たちも、日々の生活がすべて電気なら、クルマも電動化という選択肢が現実的になってくるはずだ。あるいは、社会を牽引する人たちがあえて軽EVに乗ることによって、社会的見地を世に示し、EVを選ぼうとする機運を高めてくれてもいい。
軽EVであればこそ、黄色のナンバープレートを誇りに思える大切さがそこにある。環境を意識せざるを得ない21世紀だからこそだ。
ラッコの日本参入は、小さな高級車という21世紀のクルマの在り方を明らかにした。さらにラッコの商品性は、欧州における大衆車の規範にもなるだろう。
EU(欧州連合)は年間約1,000万台の市場規模がある。ラッコの作りや性能は、日本だけで終わらせまいとするBYDの深謀遠慮さえ垣間見せる。





