日本ハムは、長年二軍の本拠地としてきた千葉県鎌ケ谷市を離れ、2030年をめどに北海道内へ新たな育成拠点を整備する計画を進めています。背景にあるのは、単なる施設の老朽化や一軍との距離ではなく、育成、地域振興、観光、商業を北海道で一体化する球団戦略です。

なぜ鎌ケ谷から移るのか。移転で生じる遠征費や寒冷地ならではの課題も含め、その狙いについて、『プロ野球 二軍の経済学 - 「育てる」から「稼ぐ」時代へ -』(小林至/ワニブックス【PLUS】新書)から抜粋してご紹介します。

日本ハム――築き上げた鎌ケ谷から北海道へ

北海道日本ハムファイターズは、2025年7月、二軍本拠地を現在の千葉県鎌ケ谷市から北海道内へ移転する意向を正式に表明しました。プロジェクト名は「ONEBASEHOKKAIDO~新たな拠点の創造~」。2030年の開業を目標に、メイン球場、サブグラウンド、室内練習場、選手寮に加え、商業施設なども視野に入れた新たな育成拠点の整備を構想しています。 栗山英樹CBOが会見で強調したのも、「本当の意味での育成拠点を北海道につくりたい」という点であり、この計画の主眼が、単なる二軍移転ではなく、育成機能そのものの再設計にあることは明らかです。

この構想の背景には、長年二軍の本拠地として機能してきた鎌ケ谷スタジアムの実績と限界の双方があります。鎌ケ谷は、日本のファーム球場としては早くから地域密着と収益化に取り組み、二軍の事業化を語るうえで欠かせない先行事例となってきました。しかし、その一方で、ファイターズのブランドや事業基盤が北海道へ大きく移った現在、育成の拠点だけが千葉に残る体制には、選手育成、地域戦略、球団経営のいずれの面でも再検討の余地が生じていました。特に、エスコンフィールドHOKKAIDOの開業によって一軍の事業基盤が大きく変化したことが、二軍も含めた再配置を促した面は小さくありません。

当初、候補地として挙がっていたのは札幌、北広島、江別、恵庭、千歳、苫小牧の6市でした。しかし、その後の協議を経て、北広島市は誘致から外れ、2026年3月時点では、候補地は恵庭、江別、苫小牧の3市に絞られています。球団側は2026年6月までに移転先を決める意向も示しており、本書の刊行時点では、候補地選定はかなり終盤に入っているとみてよいでしょう。

この移転の最大の狙いは、一軍と二軍を同じ北海道というブランド空間の中で運営し、育成、地域振興、観光、商業を一体で展開することにあります。すでにエスコンフィールドHOKKAIDOとFビレッジは、野球場を核に宿泊、飲食、商業、居住を組み合わせる複合拠点として球団価値を高めています。二軍施設の北海道移転は、その発想を育成部門にまで広げる試みと理解できます。つまり、単に一軍に近い場所へ二軍を置くという話ではなく、球団全体を北海道という地域資源の中で再編しようとする構想なのです。

もっとも、この構想には課題もあります。第一は、やはり遠征コストです。鎌ケ谷時代は関東圏での試合が多く、移動の多くを陸路で賄うことができましたが、北海道移転後はビジター遠征の多くで航空機利用が前提となるため、表面的には移動費の増加は避けられません。ただし、プロ野球には、首都圏球団と地方球団の遠征費格差を一定程度ならす「プール計算」があり、地方球団の遠征費の一部をリーグ内で平準化する仕組みが存在します。そのため、北海道移転による負担増がそのまま球団に丸ごとのしかかるわけではなく、制度的に一定程度は相殺されます。さらに、NPBは2026年からファームを1リーグ3地区制に再編し、今後のファーム拠点移転などを踏まえて2~3年後をめどに地区構成を見直す方針も示しています。日本ハムの北海道移転は、こうした制度面の調整とあわせて考えるべき案件です。

第二の課題は、北海道特有の気候です。春先や秋口の寒さは、選手のコンディショニングや観客動員の面で不利に働き得るため、新拠点には十分な室内練習環境やケア施設が不可欠になります。もっとも、この点は球団側も当初から織り込み済みであり、構想に室内練習場が含まれているのもそのためです。むしろ重要なのは、北海道移転後の二軍を、一軍の廉価版としてではなく、地域密着型の別ブランドとしてどう育てるかでしょう。エスコンフィールドと同じ地域圏に置く以上、単に近づけるだけでは一軍とのカニバリゼーションを招きかねません。二軍独自の体験価値、地域との結びつき、価格設計、イベント設計をどう組み立てるかが、今後の成否を大きく左右します。

このように見ると、日本ハムの北海道移転は、単なる本拠地変更ではありません。

鎌ケ谷で築いてきたファーム事業の経験を土台としながら、それを北海道という広域ブランドの中で再構築しようとする、極めて野心的な計画です。現在は候補地が絞られ、いよいよ具体化の段階に入りつつありますが、その本質は「育成のための施設整備」だけではなく、「球団全体の地域戦略の再編」にあります。

成功すれば、日本のファーム改革の中でも、最もスケールの大きい再配置事例のひとつになるはずです。

  •  プレスリリースより引用

    プレスリリースより引用

『プロ野球 二軍の経済学 - 「育てる」から「稼ぐ」時代へ -』(小林至/ワニブックス【PLUS】新書)

二軍だけの「新球団」オイシックスとハヤテの明暗を分けたものとは――2024年から「二軍球団」として新規参入したオイシックスとくふうハヤテが、2年目を終え早くも明暗が分かれ始めています。また、既存の12球団でも二軍戦でイベントを充実させたり、ヤクルトやロッテなど複数の球団で二軍本拠地移転やリニューアルの動きがあるなど、プロ野球の「二軍」はひとつのコンテンツとなりつつあります。こうした近年の流れについて、東大出身の元プロ野球選手であり、ソフトバンクホークスの経営にも携わった桜美林大学教授が、ビジネスとしての「プロ野球の二軍」について、二軍14球団すべての最新事情を交えて解説する一冊です。