「Netflix」での配信開始をきっかけに、『警部補・古畑任三郎』を見返していらっしゃる方も多いのではないでしょうか? この作品、実は印象的なクルマが何台も登場しています。今回は「しゃべりすぎた男」(第2シリーズ、第1話、初回放送は1996年1月10日)で明石家さんまさんが演じた弁護士・小清水の愛車について、ライター兼YouTuberの塩見智さんに聞いてみました。
小清水が選んだスウェーデンのクルマ
軽妙で挑発的な手法を得意とするやり手の若手弁護士・小清水潔(明石家さんま)は、この日の法廷でも鮮やかなしゃべりで弁護を展開した。まるで、傍聴している婚約者(大物弁護士の令嬢)に見せつけているかのようだ。
彼の愛車はサーブ「900」。その日の夜、彼はサーブを路肩に駐め、大学の同級生だった愛人のマンションを訪れた。婚約者との関係を進めるうえで邪魔になった愛人に、別れ話をするためだ。
このクルマを選んだ理由を考察!
小清水のようなやり手の弁護士が乗るクルマとして、サーブはぴったりだ。サーブはスウェーデンの航空機メーカーとして1930年代に設立された。第二次世界大戦末期になって、民需に対応すべく自動車部門を設けたというストーリーは、日本のスバルに似ている。
サーブ車に共通するのは、航空機メーカーのクルマづくりにありがちな理想主義的な設計。前輪駆動にこだわり、ターボエンジンを搭載するのも早かった。加えて、今でいうところの“クセつよ”なスタイリングもあり、“人とは違う”という自己主張を好むスノッブな層に人気を博した。小清水はその典型に見える。自信家で、話術を武器に若くして成功し、大物弁護士の令嬢と交際するなど、上昇志向も見てとれる。
ドラマが放送されたのは1996年だが、この世代のサーブ900は1993年に新車での販売が終了している(小清水が乗っているのは、1982年に追加された2ドアセダンだ)。やり手弁護士なら最新モデルに乗っていても不思議ではないが、こだわりがあるという設定だったのだろうか。
サーブ900自体は1978年に発売されたモデルだが、バブルと呼ばれる空前の好景気だった1980年代終盤の日本で人気が急上昇した。メルセデス・ベンツ、BMW、アウディといった典型的な人気輸入車以外を選んで注目を集めるのに、サーブ900は最適だった。もしかしたら小清水は、学生時代の憧れだったクルマを手に入れ、大事にしているのかもしれない。
小清水はこの夜、衝動的に愛人を殺してしまう。
彼女はドラマの主人公である古畑任三郎(田村正和)の部下、今泉慎太郎(西村まさ彦)とも大学時代の同級生だった。小清水が彼女を殺した直後、今泉は彼女宅を訪れ、死体の第一発見者となり、同時に容疑者となってしまう。友人の小清水が今泉の弁護を引き受ける。弁護を装い、今泉を犯人に仕立てるためだ。
その後は他のエピソード同様、小清水と古畑の攻防が展開され、小清水はタイトルの通り「しゃべりすぎる」ことでボロを出し、追い詰められていく。
不定期にエンタメ作品に出てくるクルマについてあれこれ述べる機会をいただいているが、今回の劇用車のサーブ900は、小清水弁護士のキャラクターを表現するのに適切だと感じた。ありていにいえば似合っていた。乗ってそうだった。なおサーブは2011年、業績不振のため、何度か別の会社に買われた後、完全に経営破綻した。


