- 高収入やFIRE達成者ほど「自分は騙されない」という過信から甘い投資話に巻き込まれやすく、資産を守るためには金融リテラシーと資金管理能力が欠かせない。
- 1:医師や士業など多忙な高収入層は、投資判断を他人任せにしやすく、「節税」「未公開案件」などの営業トークに引っかかるリスクが高い。
- 2:投資詐欺は「信頼できる友人」経由で紹介されるケースも多く、紹介者が善意でも投資案件の安全性は保証されない。
- 3:資産の大半を一つの案件に投入する「オールイン」は投資ではなく投機。資産を守るためには金融リテラシーと徹底した資金管理が欠かせない。
会社員として地道に資産を築き、念願のFIREを達成した人。あるいは、医師や士業、経営者、外資系企業のビジネスパーソンとして、年収3000万円を超える成功を手にした人。
一見すると、彼らは「お金に困らない側」の人たちに見える。だが実際には、十分な収入や資産を持っているはずの人ほど、ある日突然、築き上げた財産の大半を失ってしまうケースが少なくないという。
例えば、節税目的でよくわからない不動産投資に手を出してしまう。知人から紹介された未公開案件に大金を投じてしまうなど、理由はさまざまだ。それにしても、なぜ稼ぐ力のある人が破産寸前まで追い込まれてしまうのか。
「お金を持ったこと自体が、転落の引き金になってしまう人が想像以上に多いのです」
そう語るのは、自身も33歳で3億円超の資産を築いてFIREを達成し、現在は投資スクール「Financial Free College(FFC)」で累計1万人以上の受講生を導いてきた代表講師であり、“ライオンじゅんさん”こと金盛潤一氏だ。
高収入層や富裕層が陥りやすい“お金の罠”とは何か。また、1億円を築いた人と、それを守り抜ける人の決定的な違いはどこにあるのかについて金盛氏に伺った。
“信頼できる友人”が一番危ないワケ
資産を築く力と、その資産を守り続ける力は、まったく別のものだ。とくに本業が忙しい医師や士業などの高収入層は、このギャップを突かれやすい。
「収入が高くても、お金の勉強をする時間が取れない方は、資産の置き方が『現金だけ』か『よくわからない保険商品』のどちらかに偏っていることが少なくありません。そこに『節税になりますよ』といった営業トークが入ると、深く調べないまま新築ワンルームマンションを購入し、買った翌日に資産価値が3割も下がってしまうようなことが起きるのです」(金盛氏、以下同)
多忙を理由に資産運用を人任せにしてしまう人は、巧妙な投資トラブルや悪質な業者にとって格好の標的になる。
例えば、多額の出資金を集めたのちに破産手続きに入った「エクシア合同会社」の事例を見ても、投資家を信用させるための“見せ方”は非常に巧妙だった。同社は丸の内から六本木へ本社を移転し、1,000坪を超える大規模オフィスを構えていた。
さらに、ファッションイベントのメインスポンサーになるなど、華やかな露出によって知名度を高めていたとされる。もちろん、立派なオフィスや広告宣伝、スポンサー活動があるからといって、それだけで怪しいと決めつけることはできない。
ところが、そうした派手な演出を前にすると、人は「これだけお金をかけている会社なら信頼できそうだ」と感じ、心理的な警戒心を解いてしまいやすいのだ。
「一番厄介なのは、紹介してくる友人本人に、騙す意図がまったくないケース。本心からよい案件だと信じ込んで勧めてくるので、紹介された側も警戒しにくいです。ただ、そのコミュニティを奥へと辿っていくと、本当の詐欺師が胴元としていることがあって……。紹介者が信頼できる人物だからといって、投資スキームそのものが安全だという保証はどこにもないのです」
「何もしない」という不安が全財産を奪う
金盛氏のもとには、実際にこうした罠にはまり、大切な資産を失った人たちが相談に訪れる。そして彼らの転落エピソードは、決して特別な人だけに起きる話ではない。
ある一般的な会社員の男性は、コツコツと貯めた2000万円の資産を持っていた。「銀行に預けたままではほとんど増えない……」と焦りを感じ始めていたとき、ある未公開の投資案件を耳にしたという。
自分でネット証券を開いて運用する知識がなかった彼は、その甘い言葉を信じ込み、全財産である2000万円をひとつの案件に全額投入してしまった。
「結果は全損……。その方の手元に残ったのは100万円に満たない貯金だけで、人生の再スタートを余儀なくされました」と話す金盛氏。
また、資産3億円を持つとある事業家のケースも強烈だ。
「香港やシンガポールの富裕層向け」という特別感のある海外節税スキームを紹介され、8000万円を投じたものの、その資金が戻ってくることはなかったそう。
「この事業家の方のように、もともとの収入が年間数億円あるような特殊な層であれば、8000万円を失っても、すぐに人生が終わるわけではありません。ですが、先ほどの会社員の方のように、持っている資産の半分以上、あるいは全額をひとつの案件に突っ込む『オールイン』は、投資ではなく投機です。リテラシーがない状態でお金を持つと、少しでも楽に増やしたいという欲が暴走し、致命的な資金管理のミスを犯してしまうのです」
大損した後に、また騙される人の共通点
一度失った大金を取り戻すのは簡単ではない。全財産を失った先ほどの会社員に対しても、金盛氏は「数年で取り返そうと焦らないでください」と伝えたという。感情的になって一発逆転を狙えば、また同じような罠にはまってしまうからだ。
「大きなお金を失った直後は、どうしても“早く取り戻さなければ”という心理になります。でも、その焦りこそが一番危ない。冷静さを失った状態で次の投資話に飛びつけば、また同じ失敗を繰り返してしまいます」
マイナスから再出発するとき、最初にやるべきことは、これ以上の資産流出を防ぐことだ。
まずは家計の収支を徹底的に見直し、出ていくお金をコントロールする。そのうえで、失ったお金をすぐに取り戻そうとするのではなく、「なぜ失敗したのか」を学び、同じミスを繰り返さない考え方に切り替えていく必要がある。
「最初は、“増やすことよりも守ることを優先”しましょう。どこからお金が出ていっているのか、なぜその案件を信じてしまったのか。そこを見直さない限り、仮にまたお金が入ってきても、同じ形で失ってしまう可能性があります」
投資で一番大事なのは“勝つ”ことではない
とはいえ、怪しい投資話を見抜き、築いた資産を守り続けるにはどうすればよいのか。金盛氏は、そのために必要な対策は大きく二つあると話す。
一つは、運用内容を自分の言葉で説明できるだけの金融リテラシーだ。
投資の世界には、長期で見たS&P500の平均リターンが年率7〜10%前後といわれるように、現実的な目安がある。
この基準があれば、相場から大きく外れた高利回りの投資話を持ちかけられたときに、「なぜそれほど増えるのか」「どこにリスクがあるのか」と立ち止まることができる。
「大事なのは、難しい金融知識をすべて覚えることではありません。少なくとも、その投資が何で利益を生み、どんなリスクを抱えているのかを、自分なりに理解できていることです」
もう一つは、絶対的な規律としての資金管理能力である。
どれほど魅力的に見える案件であっても、ひとつの銘柄や案件に資産を集中させない。残りの資産は公的な金融商品で堅実に守りながら、時間を味方につけて増やしていく。この鉄則を守り抜くことが重要だ。
「投資で大切なのは、大きく勝つこと以上に退場しないことです。自分の資産全体に対して、どれくらいのリスクを取っているのか。その感覚を持てるかどうかで、結果は大きく変わります」
怪しい投資話を完全に避けることは難しい。だが、相手の手口を知り、自分がどんな言葉に弱いのかを理解していれば、立ち止まることはできる。
FIREの達成や1億円への到達は、ゴールではなく、新しいスタートラインである。築いた資産をどう守り、どう育てていくか。その学びが、これからの人生をより自由にしていくのだ。


