フェラーリ初の電気自動車(バッテリーEV=BEV)「ルーチェ」が発表となって以来、世界中のクルマ好きが活発な議論を交わしている。ちょっとSNSをのぞいてみると賛否両論か、あるいはちょっと否が多めといった様相だ。ルーチェについて、長年フェラーリを見てきた人は何を思うのか。九島辰也さんに聞いてみた。

  • フェラーリ「ルーチェ」

    あなたはどう思う? フェラーリ「ルーチェ」はこんなクルマ

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なぜフェラーリ・ルーチェは語りたくなるクルマなのか

フェラーリから新しいモデルが登場した。名前は「ルーチェ」。イタリア語で「光」を意味する。日本ではマツダが同名のクルマをおよそ30年間ラインナップしていたから、齢五十路以上の方には馴染みがあるだろう。あらためて「ルーチェ(Luce)って光なんだぁ」と知った方も多いに違いない。

そのフェラーリ・ルーチェが何やら世間を騒がせている。斬新なカタチを見た一部の人からネガティブな意見が吹き出し、ネット上で物議を醸しているのだ。

  • フェラーリ「ルーチェ」が物議を醸している

    フェラーリ「ルーチェ」が物議を醸している

確かに、ピニンファリーナの時代から「フェラーリは美しいもの」という概念が浸透しているだけに、その気持ちはわからなくない。とはいえ、近年のモデルはエアロダイナミクスを優先することで、美しさからは外れていたのも事実。そこで「新・甘い生活」をスローガンに「ローマ」を登場させ、「アマルフィ」につないだ経緯もある。その意味で、フェラーリはイメージ先行のブランドであると言えるだろう。

  • フェラーリ「ローマ」

    フェラーリ「ローマ」

  • フェラーリ「アマルフィ」

    フェラーリ「アマルフィ」

とはいえ、ルーチェが独特のスタイリングをしているのは確か。第一印象は「ナニこれ?」って感じだ。キャブフォワードデザインはフロントのボンネットが短く、スタイリッシュさに欠ける。特に、個人的にロングノーズ+ショートデッキのFRスポーツ好きなだけに、反応は薄くなってしまった。フェラーリの中でもV8+ミッドシップよりV12+FR派だ。

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ただ、長年マラネッロに足を運んで取材をしている立場からすると、あまり驚きはない。いつも周りをざわつかせるのが彼ら流。特に、今回のように新たなカテゴリーを創造するとなると、奇抜になることは珍しいハナシではない。

ルーチェがフェラーリ初のBEVであると鑑みればそうなる。

  • フェラーリ「ルーチェ」

    フェラーリ「ルーチェ」

二枚目なBEVは必ずしも売れない?

ルーチェについてのプレスリリースにも書かれているが、フェラーリ会長のジョン・エルカン氏は以前から、LoveFromの共同創設者であるジョニー・アイブ氏およびマーク・ニューソン氏と親交があったそうだ。であれば、まだ他のカーブランドが足を踏み入れていないそことタッグを組むのは不思議ではない。

ただ、リリースにはこうも書いてあった。あえて従来とは異なる方法でデザインに取り組むこと、そこで、フラビオ・マンツォーニ率いるフェラーリ・デザイン・スタジオの外部にいるデザイナーにこのプロジェクトを託すこと。

つまり、指揮を取ったのはベネデット・ヴィーニャCEOで、マンツォーニはこれに関与していないと述べている。う~ん、なかなか意味深。失敗した場合、マンツォーニのキャリアに傷がつくのを防ぐためか、はたまたマンツォーニ自身が拒絶したのかと想像が膨らむ。

いずれにしても、二枚目デザイン好きの彼とは別路線であることは明確だ。

  • フェラーリ「ルーチェ」

    フェラーリ「ルーチェ」

それじゃ、二枚目デザインのBEVが売れるかといえば、そうとも限らない。実例として、アウトモビリ・ピニンファリーナが2024年にそれっぽい電動ハイパーカーを発表し、発売している。「バティスタチンクアンタチンクエ」とオープントップモデルの「B95」だ。

  • アウトモビリ・ピニンファリーナ「バッティスタ・チンクアンタチンクエ」

    アウトモビリ・ピニンファリーナ「バッティスタ・チンクアンタチンクエ」(右)

イタリア大使公邸の庭で行われたジャパンプレミアに立ち会ったが、それはカッコいいモデルだった。前ヒンジのシザードアはまさにスーパーカーで、そのまま跳ね馬のバッジが付いていても間違えそうな装いである。

ただ、それが現実にはなかなか購買に結び付かなかったようだ。価格は弩級で、バティスタチンクアンタチンクエは為替レートにもよるが3億円台後半だったと思う。なので、購入できる人は当然限られ、日本でのセールスは難航したと耳にした。と同時に、これがガソリンエンジンだったらという声が漏れ聞こえてきた。

といった情報をフェラーリが持っていて、フェラーリらしいデザインで勝負することをやめたのかもしれない。市場のニーズはそこにないと結論づけることは可能だ。そして、王道デザインではないところで勝負するのがBEVという新たなカテゴリーを創造するのに必要だと考えた。

では、どうしてフェラーリはそこまでBEVにこだわるのだろう。ランボルギーニはすでにBEVよりもハイブリッドに比重を置き、その道を突き進んでいる。その背景には会社の形態が関係している気がする。ランボルギーニはフォルクスワーゲン(VW)グループのひとつのブランド。それに対してフェラーリは、独立した上場企業としてニューヨーク証券取引所に上場している。2015年、セルジオ・マルキオンネ最高経営責任者の時代だ。

となると、株主の声を聞き、新たな投資をして企業を発展させるのは自然の営み。SUVが流行れば背の高い「プロサングエ」を開発したのもそれだ。今売れているカテゴリーのモデルをつくる要望を株主は発する。

  • フェラーリ「プロサングエ」

    フェラーリ「プロサングエ」

以上を総合的に考えると、新しいジャンルへ新しい発想でトライするのはわからなくない。常にマーケットを驚かせるのが近年のフェラーリだ。ルーチェの日本導入は来年。比較的早いタイミングで上陸するであろう。

さて、マーケットはどう反応するのか。買える人は買うべきかな。フェラーリの記念すべきBEV第1号は価値がある。それに、このインテリアデザインは、昨今のクルマの中で最高の仕上がりだと個人的には思っている。

【フォトギャラリー】フェラーリ「ルーチェ」