ただでさえスゴいアストンマーティンのクルマには、車名に「S」を冠する高性能バージョンが存在する。アストンのSはどれほど速いのか。一般人でも制御可能なのか! 会員制ドライビングクラブのコースで試してきた。
これまでに取り上げたアストンマーティンの写真を一気に見る
アストンマーティンの「S」モデルといえば、そのルーツは1950年代の「DB3 S」まで遡る。「S」は「スペシャル」の頭文字で、ベースモデルの走行性能をさらにアップグレードした高性能版だ。今回は車名に「S」を冠する「DBX S」と「ヴァンテージS」に試乗した。
Sを走らせたのは、千葉県南房総市にある会員制ドライビングクラブ「THE MAGARIGAWA CLUB」に設えられたクローズドコース。22のコーナーと800mのストレート、上り22%、下り16%という激しい起伏を組み合わせた3.5kmの難コースを、2台のSモデルはどうクリアするのか。
SUVなのにスーパーカー? DBX Sに試乗
アストンマーティンの「DBX」シリーズは2019年、100年以上の歴史を持つ同社で初のSUVモデルとして登場。メルセデスAMG製の4.0L V型8気筒ツインターボに独自チューンを施した550PSエンジンを搭載していた。その高性能バージョンとして、2022年には「世界で最もパワフルな高級SUV」を目指した「DBX 707」が追加に。エンジン出力はその名の通り707PSまでアップし、パフォーマンスは0-100km/h加速3.3秒、最高速度310km/hを標榜していた。
それを打ち破ったSUVがフェラーリ「プロサングエ」(フェラーリはSUVではないとしている)で、搭載する6.5L V12自然吸気エンジンは707を上回る725PSを発生。パフォーマンスはほぼ同等な数値となっていた。
となると、さらなるパワーアップを……ということで誕生したのがDBX Sだ(アストンでは、誕生の経緯をこのように説明していないが)。冷却性能の強化やエンジンマッピングの見直しを行ったことで、最高出力は20PS上乗せの727PSに向上し(900Nmの最大トルクは変わらず)、ライバルを上回ることに成功。馬力、トルクともにピークの発生回転数が上がったことで、高い回転域まで高出力が持続するようになった。
試乗を前に、先導車に乗り込むレーシングドライバー氏からいくつか注意があった。具体的には①Sモデルは通常モデルより高出力の強化モデルになっている一方、ブレーキングや荷重移動の良否がクルマの挙動に与える影響が大きいため、モードとペースを周回ごとに上げていくこと、②数車身を目標に車間を開けすぎないこと、③ブラインドコーナーが多くコース幅が狭いため、常に先導/前走車を視界にとらえながら走ること、などだ。言わずもがなだが、ドライバーはヘルメット、グローブ、長袖着用である。
DBX Sに乗り込んでスタートすると、前を走るヴァンテージSのルーフを見下ろすような位置に目線があることに気が付き、こんな背の高いクルマで付いていけるのだろうか? とちょっと不安になる。
1週目はドライブモードを「GT」に入れて慣熟走行。それでも、ストレートエンドでは200km/hオーバーだ。2週目は「スポーツ」に入れてスピードアップ。220km/hからフルブレーキングして、180度ぐるりと方向転換する「たこつぼ」コーナーを回っていく。
難しいのは、その先の上りストレートエンドにあるわずかな切り返しの後にある右コーナーへの侵入だ。ここで、ちょっとでもステアリングを切ったままフルブレーキをかましてしまうと、カーボンルーフや23インチマグネシウムホイールなどで軽量化されているとはいえ、ボディの重さ(2,198kg)が背中の斜め方向にグッと伝わり(冷や汗が出る)、進路が乱れてしまうのだ。
3週目は「スポーツ+」で240km/hまでスピードを上げていく。2周目でしくじったあのコーナーを真っ直ぐブレーキングしてクリアしていき、4週目はクールダウンだ。
立ち上がり時に路面を蹴り出すトラクション、アクセルやブレーキワークにダイレクトに反応するボディ、ドライブモード変更に正確に比例して鋭敏になる応答性、パドルシフトへの反応速度など、これはもう背の高いスーパーカーといってもいいのでは、と思わせてくれたDBX S。これで5人が乗れて荷物がたくさん積め、価格も変更なしの3,590万円なのだから、もういうことなしだろう。
コンパクトで速い! ヴァンテージS
ヴァンテージSのボディサイズは全長4,495mm、全幅2,045mm、全高1,275mm。青山の店舗で行われた発表会の時にはそう思わなかったのだが、こうして広い空間に置かれた姿を見ると、意外にコンパクトだ。
DBX同様にメルセデスAMGから供給された4.0L V8ツインターボは、ベースモデル比で12PSアップの680PSを発生。800Nmの最大トルクや最高速度の325km/hは変わらないものの、0-100km/h加速は0.1秒速い3.4秒を記録する。
トラック走行では「スポーツ」「スポーツ+」「トラック」の3段階を試した(DBX Sとはドライブモードの名称が異なる)。
スピード領域は先に乗ったDBX Sと変わらないものの、その走行感覚というか、安心感というか、やっぱり、背が低くコンパクトでショートホイールベース(2,705mm)のスポーツカーに乗っているというコントローラブルな走行性能は、(見た目も含めて)昔から変わらずにドライバーを感動させてくれるのだ。
アストンマーティン・ユーザーは保守的?
アストンマーティンAPAC&中国リージョナルプレジデントのカール・ベイリス氏によると、同社では、今回の会場でも実物を見ることができた「ヴァルハラ」のような先駆的電動化モデルを意図的・計画的に開発しているのだが、一方でユーザー自身は、V12であったりV8であったりというエンジン車への嗜好が強いのも、また事実だそうだ。
ゆえに、そうした顧客の需要がある限り、さらに法規制が許す限り、ICE(エンジン車)の生産を続けていきたい、とのことだった。














































