ホンダが発売を予定する小型電気自動車(EV)「Super-ONE」(スーパーワン)は、往年の「ブルドッグ」を思わせる攻撃的な見た目で、いかにも走りそうな雰囲気。ただ、とはいえEVなので、運転してもそこまで楽しくないのでは……。サーキット試乗で確かめてきた。
サーキットで荒ぶるスーパーワンの写真はこちら!
ブルドッグのような電気自動車?
スーパーワンは2026年5月下旬に発売予定。「これまでのEVの常識や軽自動車規格の枠を超越する存在(Super)」として、また「ホンダならではの唯一無二(One and Only)の価値を届ける存在」として、ホンダが開発した小型EVだ。実車を千葉県・袖ヶ浦フォレストレースウェイで試してきた。
ベースとなっているクルマは見ての通り、軽EVの「N-ONE e:」だ。その四隅に超ワイドなブリスターフェンダーを取り付けた。
この出立ち、ちょっと昔のクルマ好きなら「シティ・ターボⅡ」、通称“ブルドッグ”を思い浮かべる人も多かろう。開発者も当然、意識している。
フロントフェンダーにはカーテンエアダクト、リアフェンダーには「ブリーザーダクト」と呼ぶ薄いスリットを設けるとともに、フロントグリルのオフセットした位置にパワーバルジ、ルーフ後端には長いウイングを装着。設地感や空力、冷却効果を高める装備をわかりやすい形で配置している。
ボディカラーは全5色。ちょっと深い紫色の「ブーストバイオレット・パール」は、宇宙に向かって走る雷「ブルージェット」をモチーフにしたという専用色だ。なかなか個性的である。
水平基調のインテリアは基本的にN-ONE e:を踏襲。フロントシートはホワイト、ブラックにブルーをアシンメトリーに配色した専用のスポーツシートだ。
ステアリング右スポークにはブーストバイオレット・パールカラーのボタンが取り付けられていて、色の名前の通り、走りを「BOOST」(ブースト)する役割を担っている。
今回はボンネットを開けることが許されなかったけれど、その下にあるEVパワーユニットは最大出力が通常モード時で47kW(軽自動車枠上限の64PS)、ブーストモード時には70kW(約95PS)まで拡大され、ユニットそのものが持つ性能を最大限に引き出すことができるようになっている。駆動方式はFF(前輪駆動)だ。
車両重量は1,090kgで、国内乗用EVとしてはクラス最軽量レベル。航続距離はWLTCモードで274kmを達成していて、日常で安心して使える実用性と走りの楽しさを両立したと謳っている。
まるでエンジン車? スーパーワンに多彩な工夫
袖ヶ浦フォレストレースウェイは全長1.6kmで、4.2%の最大斜度と曲率の異なるコーナーが多数配置されたテクニカルなコース。今回はホームストレートの走行はなしで、1セット目は開発者同乗でコースを2周(7分間)、2セット目は単独ドライブで3周(10分間)というメニューだった。さすがに、全開で何周もすると発熱したり、バッテリーに負担がかかったりするので、それくらいが妥当なところとして設定されたのかもしれない。
1セット目の1周目はドライブモードを「ノーマル」や「シティ」モードに入れて走行。シティでは静かなワンペダル走行ができて、通常使用時のEVらしくイージーな走行が行える。
ピットレーンを通過した後の2周目は、お待ちかねの「BOOST」モードに入れて走行。メーターは紫色に変わり、スピード表示の下側には左から「バッテリー温度」「タコメーター(シフトタイミングを見極める仮装エンジン回転数)」「パワーメーター(リアルタイムの駆動/回生出力)」の丸型トリプルメーターが現れる。
このメーター表示、かつてのシティ・ターボⅡ(ブルドッグ)でダッシュボード中央に配置されていた「ブースト計」「デジタル時計」「タコメーター」のアナログ3連メーターをオマージュしている。
ブルドッグのブースト計は、確かアクセル全開時には10秒間だけ過給率が10%上がる仕組みになっていて、それを見ているだけで気分が高揚したものだった。スーパーワンでは、BOOSTモード起動時に電流制限が開放されて、70kWまで出力が拡大される設定で、さらにはアクティブサウンドコントロールにより、4つのドアスピーカーから擬似エンジンサウンドが聞こえてくる。
本コース進入時にアクセルを床まで踏みつけると、1周目とは異なる「グイッ」と背中を押しつける加速感が。低速時には「ドリュウウウン」というエンジンの太いトルクを感じさせる音が味わえるようになり、車速が上がると高回転時のような吹け上がり音になっていく変化が楽しい。EVだからといって、ジェット機のような音や不思議な電子音はかえってないほうがいい。個人的には、もう1段高いハイトーンの「ホンダミュージック」が聞こえてきたら、というのはあったけれども。
やっぱりホンダは面白い!
2セット目はBOOSTモードで「−」(マイナス)パドルを長引きして、仮装の7段有段シフト制御に。レブリミットはスポーツモードより30%アップした位置になり、シフトアップポイントまで回すとメーターが点滅して教えてくれる。そのまま上限に達すると、エンジン車でレッドゾーンに当たった時のように「ブブブッ」と加速が鈍って頭打ち感まで伝えてくる。ダウンシフト時もキレのある回転数変化が表現されていて、走りのリズム感がつかみやすい。
高い速度で侵入するゆるい下り坂の第3左コーナーでは、50mm拡大されたトレッドやボディ中心の低い位置に搭載したバッテリー、長い方は太くて短い方は細い左右等剛性ドライブシャフト、専用アルミ鍛造ロアアーム、剛性アップしたハブ、クイックレシオ化した電動パワステなどの専用セッティングを施したシャシーの性能を実感。筆者程度の腕でも、タイヤ(185/55R15のヨコハマ・アドバンFLEVA)を鳴かせることなかった。リアが粘りつつ、クルリと回頭していく感覚がすばらしい。特に、トレッドの拡大とバッテリーによる低重心化が走りのよさに効いているようだった。
何より気に入ったのがブレーキだ。1,090kgの軽量ボディとサイズアップしたブレーキディスク、これに回生ブレーキがうまくマッチしていて、本格スポーツカーのような剛性感を伴った減速が行えるのだ。
EVといえば、程度の差こそあれ総じて静かで速いものの、運転した感じは大体どれも同じ、という評価があるのは確か。つまり、快適だけど没個性だったのだ。
そんな中で、「やっぱりホンダはやることが違って面白い」と思わせてくれたのがスーパーワンだった。
ホームストレッチのスターティンググリッドに置かれたスーパーワンを見ていると、ワンメイクレースなんかが開催されたら楽しそう、と想像が膨らむ。
ホンダのEVにはここのところ、ネガなニュースが付きまとっているけれども、スーパーワンについては、どうかポジティブなニュースを提供してくれるクルマになってほしいと願わずにはいられない。






























