「子どもたちには、平等に残してやりたいんです」
相続の相談で、親世代の方から最も多く聞く言葉の一つです。長年住み続けてきた自宅、先代から受け継いだ土地、賃貸アパートや店舗ビル。どれも苦労して守ってきた大切な財産であり、「家族が揉める原因になるはずがない」と考えるのは、自然な感情でしょう。
しかし実務の現場では、相続人同士の深刻な対立の多くが、不動産を原因として起きています。しかも相続が発生した“後”ではなく、相続が起きる“前”から静かに仕込まれていることが少なくありません。
相続トラブルの本当の原因は「何も決めなかったこと」
相続を巡る争いというと、「兄弟仲が悪かった」「欲張りな相続人がいた」といったイメージを持たれがちです。
しかし実際には、「被相続人が元気なうちに、何も整理しないまま不動産を残したこと」が最大の原因になっているケースが非常に多いのです。
- 誰が引き継ぐ前提なのか決まっていない
- 売るのか、持たせるのか方針がない
- 価値や負担が共有されていない
- 資産として活用できる状況になっていない
結果として、相続人は「分け方」から話し合わざるを得ず、不動産という“分けにくい財産”を前に、感情的な対立へと発展していきます。
「節税」よりも先に考えるべきことがある
相続対策というと、どうしても「相続税はいくらか」「評価をどう下げるか」といった節税の話に目が向きがちです。
もちろん税務は重要です。しかし、不動産に関して言えば、税金よりもはるかに重い問題があります。
それは、「その不動産が、相続人にとって『資産』になるのか、『負担』になるのか」という点です。
相続人にとっての「資産」とは何か
被相続人にとって価値のあった不動産でも、相続人にとって同じ価値を持つとは限りません。
- 住む予定がない、あるいは他人に貸せる状況にない自宅・空家
- 管理に手間がかかる築古アパート
- 売却しづらい立地の土地(例えば、山林、別荘地、耕作放棄地等)
こうした不動産は、相続後に固定資産税、修繕費、空室リスク、維持管理負担といった継続的なコストを生みます。
相続人の一人がそれを引き取った結果、「なぜ自分だけがこんな負担を背負わなければならないのか」という感情が残り、家族関係に長期的なしこりを残すことも珍しくありません。
相続発生前に、被相続人がやるべき3つの整理
では、相続人に負担を残さないために、被相続人は何をしておくべきなのでしょうか。
1.不動産の「棚卸し」をする
まず必要なのは、不動産を感情ではなく事実として整理することです。
- どんな不動産を持っているのか
- 収益は出ているのか
- 維持コストはいくらかかっているのか
- 将来、売れる見込みはあるのか
「残したい」という気持ちの前に、客観的な現状把握が欠かせません。
2.「誰に」「どの前提で」引き継ぐのかを考える
次に重要なのが、「誰が何を引き継ぐこと」を想定しているのかを明確にすることです。
- 住み続ける人がいるのか
- 経営的に関与できる人がいるのか
- 現金化を望む相続人はいないか
ここを曖昧にしたまま「とりあえず仲良く平等に分けてくれるだろう」という発想に行き着くと、安易な共有や相続人間での対立の温床になります。
3.「残す」以外の選択肢を排除しない
不動産は、必ずしも「残すこと」が正解とは限りません。
- 生前に売却して現金化する、国や業者に有償で引き取ってもらう
- 資産組み換えによって管理しやすい形にする
- 活用できる状況に整理する
こうした選択肢を検討することは、決して家族への裏切りではなく、家族への配慮そのものです。
「うちは揉めない」が一番危ない
相続の相談で、最も危うい言葉があります。それが、「うちは家族仲がいいから大丈夫です」という一言です。
相続トラブルは、仲の悪い家族ではなく、話し合いの準備をしてこなかった家族に起きます。不動産をどう残すかを考えることは、相続人に負担を背負わせないための、被相続人としての最後の責任とも言えるでしょう。
相続対策というと、税金や手続きに目が向きがちです。
しかし、不動産に関して本当に重要なのは、相続人がその後、無理なく引き継げる形になっているかです。
これらを相続発生前に整理しておくことで、家族が不動産を理由に傷つくリスクを大きく下げることができます。
次回は「相続が発生したあと、分割協議に入る前に必ずやるべき整理」について解説します。
「どう分けるか」を考える前に、「どう話し合うか」を整える。それが、相続不動産で揉めないための次の一歩です。


