アストンマーティンの「ヴァンキッシュ」は、今や希少な存在となった「V12エンジン」を存分に楽しめる超高級スポーツカーだ。今回は「ヴァンキッシュ クーペ」に試乗し、どんな乗り味なのかをじっくりと味わってきた。このクルマ、次の「ボンドカー」に心から推薦できる1台だ。
絶滅危惧種のV12をわざわざ新設計
1913年に2人の青年によって創業されたイギリスの高級スポーツカーメーカー「アストンマーティン」。フラッグシップモデルの「ヴァンキッシュ」は同社の技術が凝縮されたV12エンジンを搭載する。
アストンマーティンのV12エンジン搭載フラッグシップモデルの座には、「ヴァンキッシュ」と「DBS」が交互に君臨してきた歴史がある。やや複雑だが簡単に整理しておこう。
ヴァンキッシュの初代モデル「V12ヴァンキッシュ」が登場したのが2001年のこと。2007年には後継モデルの「DBS V12」、2012年には「ヴァンキッシュ」(2代目)、2018年には「DBS スーパーレッジェーラ」が登場し、V12搭載フラッグシップのポジションについた。今回試乗した「ヴァンキッシュ」(3代目)のデビューは2024年だ。
そもそもV12エンジンは、パワフルでありがなら静音性に優れ、振動が少ないことから他のメーカーも高級サルーンやスーパーカーなどに採用してきた。しかし、よりコンパクトで生産コストを抑えられるV8エンジンやV6エンジンでも十分にパワフルであり、しかも燃費も抑えられる。
さらにハイブリッド車や電気自動車の普及・拡大もあって、近年はスーパーカーであってもV12エンジンを採用しないモデルが増えている。
そんな状況の中、アストンマーティンは3代目となるヴァンキッシュに、新たに設計したV12エンジンを搭載したのだ。
ライバルは12チリンドリ?
執筆時点でV12エンジンを搭載している現行の市販車を調べてみたところ、フェラーリ「12チリンドリ」「プロサングエ」、ランボルギーニ「レヴエルト」が6.5L V12エンジンを、メルセデス・マイバッハ「Sクラス」が6L V12エンジンを、ロールスロイス「カリナン」「ゴースト」「ファントム」が6.75L V12エンジンをそれぞれ搭載している。
いずれもブランドの頂点に君臨する超高級車ばかりだが、V12エンジン搭載車はヴァンキッシュを除いて7車種だけとかなり少ないこともわかった。
中でも、ヴァンキッシュ クーペ最大のライバルになるのは12チリンドリだろう。両モデルともフロントミッドシップにV12エンジンを搭載するスポーツカーだからだ。
ヴァンキッシュが搭載する5.2L ツインターボV12エンジンの最高出力は835PS、最大トルクは1,000Nm。アストンマーティンの量産モデルで史上最速となる最高速度345km/hを達成している。
一方、12チリンドリが搭載するのは6.5Lの自然吸気V12エンジンで最高出力は830PS、最大トルクは678Nm。最高速度は340km/hとなる。
ボディサイズはヴァンキッシュ クーペが4,850mm、全幅1,980mm、全高1,290mm。前後の重量配分が51:49、価格は5,290万円(オープン仕様のヴォランテは5,720万円)だ。
12チリンドリのボディサイズは全長4,733mm、全幅2,176mm、全高1,292mm。前後の重量配分が48.4:51.6、価格は5,674万円となっている。
まったく別の車種ではあるが、エンジンの搭載位置やサイズなどが非常に近く、V12エンジンを搭載する5,000万円台のスポーツカーという点も同じだ。ヴァンキッシュ最大のライバルといえるだろう。
優雅なクルージングにこそ最適?
試乗車の車内には、コーポレートカラーでもあるグリーンのレザーがふんだんに使われていて、ラグジュアリーな雰囲気が漂っていた。エンジンを始動すると、新設計のV12エンジンが勇ましく吹け上がる。
シフトを「D」にしてブレーキペダルから足を離しただけで、かなりの勢いで前に進むことには驚いた。もちろん、アクセルを踏み込めばとてつもない加速力を体験できるのは言うまでもない。
路面のつなぎ目やマンホールなどの段差を乗り越えても、路面からの突き上げ感は思ったほどではなかった。もちろん、乗り心地としてはかなり硬い方だが、前に試乗した「ヴァンテージ」の方がむしろ“ガチガチ”だった。
ヴァンキッシュ クーペは、どちらかというと「DB12」に近い乗り心地で、ゆったりとした気分で運転できる。シートがほどよくカラダをホールドしてくれるため、高速旋回でも急カーブでも安定していた。
2シーターだが全長が長く、座席の空間が広く取られている。長時間乗車していても疲労感が少ないはずだ。尖った走りばかりが強調されるモデルかもしれないが、優雅なクルージングにも適している。そんな印象を受けた。
V12復権の前兆か?
トヨタ自動車のフラッグシップサルーン「センチュリー」もかつてはV12エンジンを搭載していたが、現行モデルになってV8エンジンに変わった。
センチュリーの例にならって、V12エンジン搭載モデルは徐々に姿を消していくのかと思っていたところに、フェラーリが「12気筒」をモデル名にした「12チリンドリ」(チリンドリはシリンダーのこと)を発表し、そのすぐあとにアストンマーティンがV12エンジンを新設計したヴァンキッシュを発表した。この流れ、自動車業界におけるV12エンジン復活の前兆か? と話題になったのも確かだ。
かつてのフラッグシップクーペ「DBS V12」は映画『007 カジノ・ロワイヤル』の「ボンドカー」(ジェームズ・ボンドが乗るクルマ)としてお披露目されたと同時に、映画公開後の市販が発表された。今回のヴァンキッシュ クーペ(あるいはヴォランテ)も、まだ決定していない次期ボンド俳優の愛車になるかもしれない。そこも含めて、V12エンジンの動向に注目していきたい。

































































