ポルシェ「911」を専門にレストアを手掛けるシンガー・ヴィークル・デザインの創業者兼会長であるロブ・ディキンソン氏が来日し、シンガーのチーフドライバーであるマリーノ・フランキッティ氏、国際的カーデザイナーである中村史郎氏とトークショーを開催した。シンガーが911のレストアに込める思いとは?

  • 「コーンズ・デイ2025」の様子

    コーンズ・モータース主催の「コーンズ・デイ2025」における「ポルシェ911カレラクーペ リイマジンドby Singer」の日本初公開に合わせてシンガー創業者のロブ・ディキンソン氏が来日。シンガーのチーフドライバーであるマリーノ・フランキッティ氏、国際的カーデザイナーである中村史郎氏とトークショーを行った(本稿の写真は撮影:原アキラ)

中村史郎とシンガーの出会い

日産自動車で「GT-R」などを手掛けたデザイナーの中村史郎氏は、シンガーとどのようにして出会ったのだろうか。

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    右から中村史郎氏、マリーノ・フランキッティ氏、1人置いてロブ・ディキンソン氏

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    シンガー・ヴィークルデザイン社の創業者兼会長であるロブ・ディキンソン氏

ディキンソン氏は元々、デザイナーとしてロータスに勤めていて、中村氏には共通の知り合いが沢山いたのだそう。その紹介で2017年にロサンゼルスの北の方にある工場を訪れてみたら、入り口がどこだかわからないバックヤードのような施設に、すばらしいポルシェが置いてある。ディキンソン氏はキャップを被った短パン姿で現れ、そのギャップにまずは驚かされたという。

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    国際的カーデザイナーの中村史郎氏

クルマのディテール、CMF(カラーマテリアルフィニッシュ)はビスポークで、1台1台の色や内装が全部違う。それを全て1人でやっている。ポルシェのオリジナルデザインをリスペクトしつつ、オーナーのオーダーに合わせた形や色で作っている。「それはもう、普通の才能ではできないことで、本当にすごいな」と思ったそうだ。

「それ以来、雇われているわけでもなく、お金をもらっているわけでもないけれど、ちょくちょくこうやって、ロブさんのサポーターをやっているんです。911(964)というのは昔のクルマだけれども、リアルタイムでこのクルマが見られる。買うのはなかなか大変だと思いますけど、じっくりとご覧になっていただければすごさがわかると思います」

ポルシェ911について語ってくれたのは、シンガーのチーフテストドライバーを務めるマリーノ・フランキッティ氏だ。

「私が一番最初にポルシェを見たのは、多分、2歳の時の1980年頃、父が運転する930ターボがガレージを出ていくところ。そのクォータービューをよく覚えていて、それ時、恋に落ちたんだと思います」

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    シンガーチーフテストドライバーのマリーノ・フランキッティ氏

シンガーについては「最高の仕事」だという。

ポルシェは基本的に扱いやすいクルマなのだが、シンガーでは複数のサービスがあって、それぞれ個性や味付けが異なる。今回のクルマに関しては、エンジンにもシャシーにもこれまでシンガーが蓄積してきたノウハウが詰まっていて、グッドウッドのアップヒルも上手く走れるようなダイナミックさに優れているそうだ。

「我々のクルマを入手したユーザーがどんな形で楽しんでくれるのか、それを知るのが非常に楽しみです」

ポルシェを称えるために

ここからはロブ・ディキンソン氏の発言を追っていこう。

まずは、なぜ911なのか。

「自分はカー・ガイというよりカー・ボーイでした。5歳の時に父に911を見せてもらって、単純に『なんだ、この不思議なマシンは』と思ったのが最初の出会い。そこからものすごいスピードでクルマにのめり込んでいき、自分は絵が上手かったので、もうデザイナーになるしかないと思ったのですが、同時にギターにも興味を惹かれてしまいました」

そこから問題がスタートしたのだとか。

「コベントリー大学で自動車のデザインを学んだあとロータスに就職したのだが、小さなデザインセンターであと30年もデスクに座ってデザインを続けるのか、と思ってしまったため、すぐにそこを辞め、ロックバンドをやることに。2003年にロサンゼルスに移居し、そこでカリフォルニアの自由な気風を取り入れて自分用にポルシェ911をカスタムで作ってみたのが、今のシンガーの母体というか、源流になった」

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    「ポルシェ911カレラクーペ リイマジンドby Singer」とディキンソン氏

それを日常の“アシ”として使っていると、たくさんの人から「どこでこれを買えるんだ」とか「写真を撮らせてほしい」と声をかけられた。そのうち雑誌にも取り上げられるような展開になって、「クラシックのポルシェ911に対する情熱が他の人にもあって、もっとこれからの展望があるのでは」との思いに至り、2009年にシンガーを設立することにしたという。

目的は「ポルシェという世界最高峰のスポーツカーを称えたい」ということ。社会全体でいろんなことが起こっている今、今後もこういったアナログで内燃機関のマニュアル車が存在するスペースは残っていくはず。例えば、乗馬をする人は今でもいる。クルマが馬に取って代わった部分はたくさんあるけれど、乗馬から得られるエキサイトはしっかりと残っているからだ。

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    シンガーのレストアでは、ビスポークによってさまざまな素材やカラーが選択できる。写真はパープルカラー内装の一例

911をEV化したいという人は皆無?

機械式の時計もその一例だし、EV化が進んでも、モノを作る人の情熱とか哲学が詰まったエンジンだったりMTだったりというのは、数が減っても必要となっていくと思うとディキンソン氏。「実は私もEVは嫌いではなく、使いやすくて実際に持ってはいるのですが、シンガーのお客様から911のeモーター付きのクルマがほしい、という声は全く上がっていないのです」という。

今回の911も、アナログのエクスペリエンスを最大化するために、セーフティ機構のアップデートをはじめとするテクノロジーやカーボンファイバー、マグネシウムといった最新マテリアルは最大限活用しているという。

一方のインテリアは、顧客からエルメスのトリムにしたいという要望があったため、そのハンドバックのような仕上げを行い、スポーティーかつ洗練されたヨーロッパ的な雰囲気を持たせた。ポルシェで伝統的に使われてきたコーデュロイをオマージュとして採用し、全体的に快適でとても美しい雰囲気とダイナミックさを兼ね備えた仕上げになっているそうだ。

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