ガキの頃はどんな車でも大きく見えたものだ。でも、気づけばほとんどの車の全高を身長のほうが追い越しちまった。大人になるっていうのはそういうことだ。仕方がない。けど、寂しくないと言えば嘘になる。
昔からデカい車が好きな人間にとって今、ひと際輝いて見える車がある。三菱自動車工業「トライトン」。日本の狭い道には不釣り合いなほど大きいこのピックアップトラックは、きっとあの頃に見た夢をもう一度見させてくれるのだろう。そう直感した俺は、気づけば試乗車のステアリングを握っていたんだ――。
バーボンの向こうに夢見たトライトンとの邂逅
曇り時々雨。というより、雨時々曇り。せっかくの試乗だというのに生憎の天気ではあるが、トライトンのようなオフローダーには逆におあつらえ向きなのかもしれない。
おっと、自己紹介がまだだったか。俺は龍一。行きつけのビアバーでは“龍ちゃん”なんて呼ばれている。マイナビニュースでは営業部長なんていう大層な肩書がついているが、まだまだベテランには程遠い若造だ。優秀な後輩たちのおかげで、随分と楽させてもらっている。
もともと車が好きだった俺はあるきっかけで東京を離れ、鎌倉へ移住したのを機に車生活へと突入。最初は日産自動車「キューブ」、その後はトヨタ自動車「RAV4」を挟んで、今は「ランクルドクルーザープラド」の「ブラックエディション」に乗っている。昔からデカい車に憧れていたこともあり、昇給と連動して車の大きさもグレードも徐々に上げてきたという経緯がある。
しかし、“デカい車”というのは意外と多くない。輸入車を含めればまだ選択肢も増えるが、国産車に絞って見るとかなり限られる。ランクル・プラドなんてかなり大きい部類に入るだろう。そのプラドのサイズをゆうに超える車に魅入られるのは、ある意味で必然だったと言える。
昨年、日本での展開が始まって以降、ずっとトライトンのことは頭の片隅にあった。実物を見てみたい。できることなら乗ってみたい。日々の晩酌、琥珀色のバーボンの向こうに朧気に浮かんでは消える橙色のピックアップトラック。そんな憧れの車が今、こうして目の前にある。
俺とサーフィンとトライトン~あるいは荷台から眺める海について
ピックアップトラック特有のフォルムは言うに及ばず、この野性味あふれる無骨なフロントグリルにも心を奪われる。厳ついフェイスはまるでアメ車のような貫禄だ。渋い。
18インチの大型ホイールも迫力に満ちあふれ、漆黒の塗装が鈍い光沢を放つ。デフォルトの純正でもここまで格好いいのかと改めて驚かされる。渋い。渋すぎる。
そして何よりこの“荷台”だ。500kgの最大積載量を誇るカーゴスペースに積めないものなどないだろう。奥行きはもちろん、トノカバーを閉めた状態でもそれなりの高さが確保されているのも嬉しい。
デカい車へのこだわりは、何も幼少期の憧れに起因するものばかりではない。実は今年、行きつけのビアバーで働くエイトと一緒にサーフィンを始めたのだが、その影響によるところもかなり大きい。
海のなかで味わう自然との一体感や爽快感は、到底、地上で味わえるものではない。すぐさまサーフィンの虜になった俺は、パタゴニアの“R5”ウェットスーツを着てこの冬も波に乗る予定だ。相棒はオーストラリア発のサーフブランド「FIREWIRE」(ファイヤーワイヤー)のショートボード。この板を積み込むにあたって、トライトン以上に相応しい“器”があるだろうか。
ところで、七里ヶ浜の海に面した「パシフィック ドライブイン」をご存知だろうか。“ハワイアンプレートランチ”をコンセプトにしたカフェで、ガーリックシュリンププレートやバターミルクパンケーキなどは特に格別。波乗り後のチルタイムにうってつけの場所なのだが、この駐車場から望む海がすばらしく美しいのだ。
ここだけの話、いつかパシフィック ドライブインにトライトンで乗り付け、サーフボードを積んだトラックベッドの上から波を観測するのが密かな夢でもある。トライトンの上から眺める江ノ島の景色は、いつも以上にその輪郭を濃くするに違いない。もちろん助手席にはエイト、お前も乗せてやるから心配しないでくれ。まあ、運転席は譲らないけどな。
“剛”よりも“柔” 乗り心地も快適なオレンジ色の獣
唯一の心配事といえば、この車体の大きさだ。これはサーファーにとって大きなメリットである反面、日常生活ではデメリットにもなりうる。ランクル・プラドが全長4,825mmなのに対し、トライトンは5,360mm。今の愛車より50cm以上も長い。都心は言うまでもなく、鎌倉も大通りから一本道を隔てるとかなり道路が狭くなるので、トライトンの図体は大きなネックになる可能性がある。
だがこの日、東京・下町の住宅街をじっくり試走してみたところ、思いのほかその巨体を持て余す感覚はなかった。もちろん内輪差などに細心の注意は払ったものの、見た目からは考えられないほど運転しやすかったというのが嘘偽りのない感想だ。
無論、小さなコインパーキングなどでは苦労することもあるだろう。立体駐車場などはそもそもアウト。だが、コンビニの駐車場程度であれば何も不便など感じなかった。無理に狭い道に分け入っていくことなどは控えたいが、日常生活で使う分にはさほど問題ないように思う。
乗り心地もトラックのイメージとは程遠く、程よい振動がむしろ心地いい。ただし、プラドとはまた違った個性があるのも事実だ。
アクセルを踏み込むたびに重厚なエンジン音が腹の底に響く。2.4L直列4気筒ディーゼルターボ。スペックだけ見ればワイルドだが、踏み込んだ瞬間に伝わるのは“剛”よりも“柔”。しなやかで静粛性も高い。どっしりとした重量感を保ちながらも、ステアリングの反応は意外なほど軽い。
角を曲がるたびに感じるが、トライトンにはデカい車にありがちな鈍さがない。視点が高く、視界が広い。その優位性が自信へとつながっているのかもしれない。まるでトライトンのボンネットの先にも自分の意思が宿っているかのような、そんな錯覚さえ覚え始める。
街を抜け、首都高へと入る。雨脚が少し強まるなか、トライトンは路面の轍を拾うこともなく安定して進む。重量のある車体は荒天時にこそ真価を発揮する。風に煽られることもなく、先行車に合わせて車間をキープするレーダークルーズコントロールシステムも頼もしい。
時折、雨雲の切れ間から薄く日差しが射し込む。濡れたボディに光が反射する姿は、オレンジ色の獣が目を覚ましたかのように映っていることだろう。
首都高を降り、週末の予定を頭のなかで整理する。トライトンは週明けに返却すればいい。それなら、土曜日は早朝から出よう。エイトを拾って、そのまま伊豆まで足を伸ばすのも悪くない。急にトライトンで迎えに行ったら、あいつはどんな顔をするだろう。
ふとルームミラー越しに自分の顔を見る。あの頃のガキの顔が、少しだけ重なって見えた。


















