日産自動車が新型ミニバン「エルグランド」を公開した。高級ミニバン市場は今、トヨタ自動車「アルファード/ヴェルファイア」の独占状態となっている。すでに強力なライバルがいる中、エルグランドはシェアを拡大することができるのか、「ジャパンモビリティショー2025」(JMS2025、会期は11月9日まで)の会場で担当者に話を聞いた。
高級ミニバン市場の開拓者が復権を目指す
高級ミニバン市場は好調だ。中でもトヨタ「アルファード」は、2025年度上期の車名別販売台数(軽自動車除く、日本自動車工業会が集計)で7位、販売台数は3万9,849台(前年比102.7%)と好成績。500万円以上する高級ミニバンではトップの販売台数を誇り、独り勝ちの状態だ。
アルファードは高い知名度に加え、価格以上の高級感があり、売却時のリセールバリューも高く、他のブランドを寄せ付けない強さを見せている。
この市場に一石を投じるのが、日産の大型高級ミニバン「エルグランド」だ。
そもそも、1997年に登場した初代エルグランドは大ヒットしたクルマだった。このクルマがヒットしたことでアルファードなどのライバル車が登場し、それまで存在していなかった「高級ミニバン市場」が誕生した。エルグランドは市場の開拓者だ。
当時、中学生だった筆者も、エルグランドの登場はよく覚えている。初代エルグランドがトミカになったときは、すぐに買ったものだ。
2代目エルグランドは2002年に登場し、より精悍な顔立ちへと生まれ変わった。この2代目は何度か乗ったことがあるが、近未来的(当時はそう感じた)な内装と、大きな車体に似合わず、アクセルを踏み込むと一気に加速するそのパワーに圧倒された。
ところが、エルグランドは失速してしまう。2010年に登場した3代目は細かなマイナーチェンジが中心で、初代モデルのようなトピックもなく、徐々に存在感を低下させていった。その間、最大のライバルであるアルファードは好調な販売を続け、市場シェアを拡大。一部の関係者からは、「エルグランドはこのまま終売になるのではないか」といった声も上がっていたほどだ。
そんな中でエルグランドは、15年ぶりにフルモデルチェンジを果たした。「復活した」といってもいいだろう。
見どころは迫力あるデザイン
新型エルグランドの見どころをJMS2025の会場にいた担当者に聞いた。
「全て、といいたいところですが、ひとつ挙げるとすれば、これまでのミニバンにはない迫力あるデザインです。コンセプトは『The private MAGLEV』(マグレブはリニアモーターカーのこと)。非日常の旅に出かける高揚感や期待感を感じさせる特別なデザインを実現しました」
フロントグリルは日本の伝統工芸「組子」がモチーフ。ライバルのアルファードも存在感抜群のフロントフェイスを持っているため、そこに対抗する狙いがあるのではないか。
ずばり、新型エルグランドのライバルも聞いた。
「もちろん、アルファードやヴェルファイアを意識していないわけではありません。ただ、個別の車種に対抗するのではなく、高級ミニバン市場に新しい風を吹き込むことができればと考えています」
目指すは打倒アルファードというよりも、高級ミニバン市場の新風だ。
「初代エルグランドが市場を開拓したように、新型エルグランドも新しいミニバン市場の牽引役になれればと思っています。それくらいインパクトのある1台になると思います」
下にいくにつれて広がっていくような造形は、歴代エルグランドの共通項だ。日産は“踏ん張ったスタンス”と表現しているが、路面をしっかりと捉え、走りを追求しているエルグランドらしいデザインである。
リアに目をやると、一番うしろのピラー(Dピラー)が逆スラント(後ろから前に向かって斜め)になっていて、これまで見たことがないようなデザインになっている。
開発にあたり苦労した点を聞くと、「日本らしさの中に、近未来的な外観と疾走感、そして高級感、それらをどう落とし込むかが課題でした」とのこと。個人的には、これまでのエルグランドの面影を残しつつ、日本らしさを加え斬新に生まれ変わったと思う。デザインに関していえば成功している。アルファードも迫力があるが、エルグランドもそれに負けないインパクトを獲得している。
アルファードよりも広い?
パワートレインは発電特化型の1.5Lターボエンジンにモーター・発電機・インバーター・減速機・増速機を一体化させた「5-in-1 e-POWERパワートレインユニット」を組み合わせる。駆動は100%モーターだ。そこに電動駆動4輪制御技術「e-4ORCE」を採用した。モーターとブレーキで駆動力をコントロールし、走行中の揺れを抑え、安定性の高い乗り心地を実現しているという。
一方のアルファードは、2.5Lのプラグインハイブリッド車(PHEV)、2.5Lのハイブリッド車、2.5Lのガソリン車という多様なラインアップを取りそろえる。PHEVでは16.7km/Lという低燃費を実現。TNGAプラットフォームの採用でボディの変形を効率的に抑制し、操縦安定性と振動を低減している。
現時点で正確な比較は難しいものの、排気量で比べると、エルグランドの方が税金などの費用を抑えられるだろう。ただ、どちらも快適性と走行性安定性、低燃費を両立しているのは間違いない。
異なるのはボディサイズだ。エルグランドは全長4,995mm、全幅1,895mm、全高1,975mm。対してアルファードは全長4,995mm、1,850mm、全高1,935mm。エルグランドの方が45mm広く、40mm高くなっている。
その恩恵からか車内は広々としており、乗り込むとプライベートラウンジのような空間が広がっていた。表皮や木目調パネルで高級感を演出しつつ、フロントにあった組子と統一感を持たせたキルティング生地をドアまわりに組み合わせることで、一体感を演出することも忘れていない。ただ、アルファードの車内もかなり広く快適だし、高級感があるので現時点では引き分けか。
ミニバンといえば、前席から後席にウォークスルーで移動できる印象があるが、新型エルグランドでは運転席と助手席の間に高めのコンソールを置き、パーソナル性を高めている。このあたりはアルファードでも同じような仕様が見られる。
こうしてエルグランドとアルファードを現時点でわかる範囲で比較してみると、エルグランドが市場のトップを走るアルファードの強力なライバルになる可能性は十分にある。特に運転支援機能「プロパイロット2.0」が新型エルグランドに搭載されるのは強みだ。2027年以降の市販車への搭載が予定されている「次世代プロパイロット」がエルグランドに載れば無双状態だろう。
エルグランドがアルファードの堅固な牙城を切り崩す日は、そう遠くないかもしれない。発売は2026年夏の予定。価格は未定だ。


























