日本で最も売れているクルマと言えば背が高くて両側にスライドドアが付いた軽自動車、いわゆる「軽スーパーハイトワゴン」だ。このクルマの電気自動車(EV)化で一番乗りの栄誉を得るのは、意外にもホンダやスズキなどではなく、中国のBYDとなりそうだ。BYDが2026年夏の発売を予定する軽EV「ラッコ」とは、どんなクルマなのか。
海外専用設計で作るラッコの実力とは
「地球の温度を1度下げる」という企業理念のもと、「ジャパンモビリティショー2025」(JMS2025、会期は11月9日まで)でBYDが発表したプロトタイプ軽EVの名称は「ラッコ」(RACCO)だ。日本の軽自動車規格に準拠した海外専用設計モデルで、最新のバッテリーであるブレードバッテリー技術と製造技術の新たなチャレンジだと紹介された。
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BYDは「海洋シリーズ」として、「シール」(SEAL=アザラシ)や「ドルフィン」(DOLPHIN=イルカ)など、海の生物にちなんだ名前のクルマを販売している。動物のラッコは英語で「sea otter」だが、あえて日本での呼び方である「RACCO」を車名にしたのは、このクルマが日本特有の規格に準拠した「軽自動車」であり、メインのマーケットが日本となるからなのだろう。ちなみに、JMS2025で話を聞いたBYDの担当者は、ラッコを欧州など日本以外で販売することにも意欲を示していた
ラッコのボディサイズは全長3,395mm、全幅1,475mm、全高1,800mmで定員は4名。搭載するブレードバッテリーは、BYDが開発して最新モデルに搭載するEV用バッテリーで、リン酸鉄リチウムイオン電池のウィークポイントであるエネルギー密度の低さを克服するとともに、長い航続距離と安全性を両立させるため、細長い板状のセルを並べる構造を採用したものだ。
BYDの担当者によると、バッテリーは容量の違う2種類を用意する。長い距離を走れる大容量タイプと、日常の足として十分な航続距離を備えた通常タイプ(より安価なタイプ)だ。
日本の自動車市場で最も売れているクルマは、ラッコと同じ「軽スーパーハイトワゴン」だ。2024年度はホンダの「N-BOX」が21万台強で新車販売台数のトップに輝いている。ただ、今のところ、軽スーパーハイトワゴンのEVは、どこの日本メーカーも発売していない。このままいくと、BYDが同分野で一番乗りを果たすことになる。日本の軽自動車ユーザーがラッコにどのような反応を示すのか、注目したい。
世界最速のEVも登場!
JMS2025のBYDブースではラッコを含め乗用車部門で8台、商用車部門で5台のクルマを展示していた。ブースのコンセプトは「BYDはこれからの当たり前に、未来はこんなに静かに走り出す、BYDは日本の街に新しい空気を運びはじめました、風景に生活に音もなく溶け込むモビリティ、あなたの毎日を変える当たり前の選択肢へ、『ありかも、BYD!」となかなか長い。
プレスカンファレンスに登壇したBYDジャパンの劉学亮社長は、「私たちが暮らしているこの地球、一人一人が豊かな暮らしに何ができるか、それがイノベーションであると掲げました。新エネルギー自動車の領域においてはその先駆けとなっていて、私たちはつい今月の10月9日にブラジルの工場で1,400万台の新エネルギー自動車をラインオフしました」とし、さらに、「電気自動車についても、日本を含め、おかげさまで今年の1月から9月までに世界一の販売台数となりました。BYDは今年、この日本で20周年を迎えました」と続けた。
BYDオート・ジャパンの東福寺厚樹社長は、「乗用車部門は、2023年の国内販売の開始から話題作り、拠点づくり、そして実績づくりを着実に行い、これまでの累計販売台数もようやく7,000台を超えるところまでやってまいりました」とし、日本で発売する新型車の「ラッコ」とプラグインハイブリッド(PHEV)モデル「シーライオン6 DM-i」を紹介した。
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「シーライオン6」を紹介する東福寺社長。「シーライオン6 DM-i」は1.5Lエンジンと電気モーターを搭載するPHEV。BYDが日本にPHEVを投入するのは今回が初めてだ。先行予約の受け付けは2025年11月に開始する
乗用車部門ではこのほか、EVハイブランド「仰望」(ヤンワン)のスーパーカー「YANGWANG U9」を展示。このクルマ、EV世界最高速度の496.22km/hを達成(YANGWANG U9 Xtreme)したり、ニュルブルクリンク北コースで7分を切るタイムを記録したりと何かと話題の1台だ。
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EV世界最高速度の496.22kmを達成し、ニュルブルクリンク北コースで7分を切るタイムを記録したBEVハイブランド「仰望」(ヤンワン)のスーパーカー「YANGWANG U9」。劉学亮社長が乗り込んで登場した
商用車部門では、日本専用の小型EVトラック「T35」を出展。移動可能なオフィスという想定で小型EVバス「J6」をベースに新規開発した「J6」リビングカーも参考出品した。
リビングカーは主に路線バスとしての使用を想定したJ6の新たな可能性のひとつとして製作したもの。移動オフィスや災害時の一時避難場所など、使い方は幅広い。内外装にも細かなこだわりをみせ、快適な空間を創出するとした。














