今や「絶滅危惧種」といっても過言ではない2ドアクーペの世界にさっそうと登場したホンダの新型「プレリュード」。クーペでハイブリッドで600万円台、こんなクルマはほかにはなさそうで、開発陣に「ライバルは?」と聞いても「いないのでは?」との回答だったのだが、もし比べるならどんなクルマがあるのか。考えてみた。
スペシャリティカー市場を席巻したプレリュード
ライバルを考える前に、ホンダ「プレリュード」とはどんなクルマなのかをおさらいしておこう。
初代プレリュードが登場したのは1978年11月だ。「シビック」や「アコード」などで販売好調だったホンダが、多様化するライフスタイルに合わせて、「序曲」や「先駆け」といった意味を持つ車名のスペシャリティカー「プレリュード」を140万円で発売した。
同年にはマツダ「サバンナ RX-7 リミテッド」(169万円)や日産自動車「フェアレディ 280Z-T 2by2」(237.3万円)、翌年にはプレリュードの強力なライバルになりそうなトヨタ自動車「スプリンタークーペ1600 トレノ」(140.5万円)なども登場。この頃はクーペが隆盛を誇っていた時代だ。
1982年になるとプレリュードは2代目へと進化。ボディは一回り大きくなり、リトラクタブルヘッドライトを採用するなど大幅な進化を果たし、国内のスペシャリティカー市場を席巻したといわれている。1987年には好評だったスタイリングを継承しつつ全長を大幅に拡大。量産乗用車として世界初となる舵角応動式4輪操舵システム「4WS」を採用し、スペシャリティカーとしての地位を不動のものとした。
その後、プレリュードは1987年に3代目、1991年に4代目、1996年に5代目へと進化するも、ワゴンやミニバンなど使い勝手のいいクルマに押され、2000年に生産を終了する。
その生産終了から25年を経て、2025年9月に登場したのが6代目となる新型プレリュードだ。
新型プレリュードは、これまでのモデルをオマージュしているわけではない。アクティブなシニア世代や、父と娘あるいは定年を迎えた夫婦が、2人だけの空間を満喫できて、かつ実用的に使えるクーペ(デートカー)が令和の時代にあってもいいのでは? そんな考えから生まれた完全な新型車だ。“どこまでも行きたくなる気持ちよさ”と“非日常のときめき”が開発のグランドコンセプトとなっている。
今の自動車市場ではミニバンやSUVが人気で、セダンやワゴン、クーペなどはかなりの少数派だ。しかし、初代プレリュードが誕生した時代よりも、ライフスタイルが多様化している現代において、2人だけの空間を満喫できるクーペの需要は増していてもおかしくない。プレリュードに心をひかれつつも、ほかにクーペの選択肢はないかと模索しているユーザーもいるのではないだろうか。
ホンダ開発陣は、「新型プレリュードの開発当初から、ライバルにあたるクルマはないかといろいろ考えてきましたが、結局、最後まで見当たりませんでした」と話す。
とはいえ、もしクーペを新車で買うとしたら、プレリュードと比較検討してもよさそうなモデルはいくつか思い浮かぶ。ピックアップしてみたので、購入時の参考にしていただければ幸いだ。
ハイブリッドクーペはほぼ存在しない?
プレリュードのボディサイズは全長4,520mm、全幅1,880mm、全高1,355mm。パワートレインは最高出力141PS、最大トルク182Nmの2.0L直噴エンジンに最高出力184PS、最大トルク315Nmのモーターを組み合わせる。価格は617.98万円だ。
そもそも、ハイブリッドの(燃費が比較的良好な)スペシャリティクーペであるところが珍しいので、完全にキャラがかぶるモデルは他に存在しないが、ライバルとして真っ先に思い浮かぶのはトヨタの2ドアクーペ「GR86」(スバルの「BRZ」が兄弟車)だ。
最高出力235PS、最大トルク250Nmを発揮する2.4Lの水平対向4気筒エンジンを搭載するGR86は、最も安価なグレードが293.6万円でプレリュードのおよそ半値。エンジンと価格では比べようがないかもしれない。ただ、ボディサイズはプレリュードの方がわずかに大きいもののほぼ互角で、ともに4人乗りだ。GR86は硬い乗り心地という印象だが、プレリュードと同じような使い方ができなくもない。
次に比較できそうなのが、日産「フェアレディZ」だろう。サイズも価格もほぼ互角で、車内の質感の高さも近い。ただ、プレリュードは狭いながらも後席を備えているが、フェアレディZは完全な2人乗り。エンジンスペックも走りに特化している印象があるので、比べるのは難しいかもしれないが、もしプレリュードを買うならフェアレディZと比較してもいいだろう。
プレリュードに最も近いモデルを強いて挙げるとすれば、レクサス「LC」かもしれない。そう話すホンダのエンジニアもいた。LCはプレリュードよりも一回り以上大きなボディを持ち、価格も1,410万円からと一気に高額になる。
ただ、プレリュードとの共通点は、ハイブリッドモデル(LC500h)をラインアップしているところだ。プレリュードのハイブリッドシステムとはまったく異なるが、ハイブリッドクーペというジャンルで分けるなら、同じカテゴリーに入るだろう。比較検討する余地はあるかもしれない。
クーペ市場拡大の起爆剤になるか?
輸入車にも目を向けてみると、いくつか比較できそうなモデルがある。そのうちの1台がBMWのクーペ「2シリーズ クーペ」だ。全高こそ2シリーズ クーペのほうが高いが、ボディサイズはほぼ同じだ。
電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)を多くラインアップしているBMWだが、2シリーズクーペは現時点でガソリンエンジンのみ。価格は626万円(220i M Sport)でプレリュードに近い。クーペを検討しているのであれば、乗り比べてみてもいいかもしれない。
そのほかにも、2ドアクーペというカテゴリーでいえばポルシェ「718 ケイマン」、メルセデス・ベンツ「CLE クーペ」、ジャガー「Fタイプ」、アルピーヌ「A110」などが思い当たる。ただ、本稿を執筆するために改めて2ドアクーペを国内外のメーカーから探してみたが、ハイブリッドを採用しているモデルはレクサスのLC以外に見つけられなかった。ハイブリッドでなくても、クーペという選択肢そのものが、思っていた以上に少ないことにも改めて気付かされた。
新型プレリュードは2023年の「ジャパンモビリティショー」でコンセプトカーが披露され、大きな話題となった。2年越しで登場した新型プレリュードは、これまで縮小傾向にあったクーペ市場を拡大させる起爆剤になる可能性を秘めている。
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いろいろと比較してプレリュードに決めたら、次はボディカラーで悩もう。選択肢は「ムーンリットホワイト・パール」「メテオロイドグレー・メタリック」「クリスタルブラック・パール」「フレームレッド」の4色だ。実物の印象として、個人的には鮮やかなレッドが最も輝いて見えた(写真はアクセサリー装着車)
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個性を際立たせたいならM-TEC社の「プレリュード用 無限パーツ」で彩るのもいい。19インチアルミホイールは存在感抜群。カーボンドアミラーカバーやスカッフプレートは、プレリュードのスタイリングを特別なものにしてくれるだろう
個人的には、子供から手が離れたシニア世代がミニバンやSUVから乗り換えるとなった場合、2人だけの空間を堪能できるクーペという選択肢は十分にありだと思う。プレリュードなら、街乗りでもワインディングでも運転を楽しめる。それをこの価格で叶えられるのであれば、買いなのではなかろうか。












