高市早苗氏の新総裁就任を受け、10月6日の日経平均株価は史上初の4万8,000円台を突破した。市場は「積極財政」への期待を背景に、円安と株高が同時に進む展開となっている。
物価上昇と円安が続くなか、次に動く資金はどこへ向かうのか。一方で投資家の間では、「この上昇は一時的ではないか」「政権交代で日本株の潮目は本当に変わるのか」といった声も上がる。
そんななか、投資スクール「Financial Free College(FFC)」CEOの松本侑さん(X:@smatsumo0802)は、高市新総裁の就任について「方向性を明確にした点が大きい」と見る。政策の軸が示されれば、市場はそのシナリオに沿って動き始めるのだそう。
本記事では、政権交代がもたらす株式市場への影響、そして投資家が取るべき資産戦略について、松本氏に聞いた。
政権交代と市場。歴代政権が示した"資金の方向"
日本の株式市場は、政権の性格や政策の方向性によって大きく姿を変えてきた。特に2012年に始まったアベノミクス期は、「積極財政」と「金融緩和」がかみ合ったことで、市場が大きく活性化。日経平均株価は8年間でおよそ2倍に拡大し、個人投資家の参加も一気に広がった。
他方、短命政権が続く時期は株価が方向感を欠き、海外マネーも慎重姿勢を強める傾向があった。松本氏は、「市場が求めるのは"刺激"ではなく"見通し"です。安定した政権運営があってこそ、企業は中長期の戦略を描けるのです」と振り返る。
2020年の菅政権では、デジタル庁創設など構造改革の姿勢が評価を得たが、コロナ禍の影響で実体経済との乖離が際立つ結果に。続く岸田政権では「新しい資本主義」を掲げ、分配重視へ舵を切ったものの、成長戦略の不透明さが意識され、相場は一進一退を繰り返した。
「2024年の自民党総裁選で起きた 『石破ショック』も記憶に新しいですが、政策の方向が見えないとき、投資家はいったん相場から距離を取ります。政権交代期に求められるのは、一貫性とスピード感だといえるでしょう」(松本氏)
今回の高市政権では、積極財政・防衛強化・半導体支援など、明確な政策軸が早期に打ち出された。「方向が定まれば資金は動きます。焦点は"何を買うか"より、"どれだけ長く続くか"。投資家にとっては、その持続力を見極めることが最大のテーマになるはずです」と松本氏。
さらに松本氏は、今後の日経平均株価についてこう見通す。「短期的にはやや過熱感があり、年末にかけて一時的な調整もあり得ます。ただ、現状の流れから見て、2025年末から2026年初旬にかけては、4万5,000円から5万円前後で比較的順調に推移する可能性が高いでしょう」(松本氏)
4つのセクターが日本株市場を支える
高市新総裁の経済政策の柱は「積極財政」と「成長投資」。その中核を担うのが、防衛、半導体・AI、インフラ・不動産、エネルギーの4セクターである。いずれも国策として長期資金が流入しやすく、投資家の注目を集めている。
とはいえ、「株価はすでに上がり切ったのでは」「いまからではもう遅いのでは」と感じる投資家も少なくない。しかし松本氏は、そうした見方はやや短期的だと指摘。
「国策テーマは一過性のブームではありません。政策と企業投資が連動して動くため、成長サイクルが長く続く傾向があります。大切なのは"どの局面で仕込むか"をあらかじめ整理しておくことです」(松本氏)
防衛では三菱重工業(7011)やIHI(7013)、川崎重工業(7012)などが注目を集める一方、電子部品の日本電産(6594)や村田製作所(6981)といった精密制御分野にも資金が広がっている。
半導体では東京エレクトロン(8035)やレーザーテック(6920)に加え、SCREENホールディングス(7735)、ディスコ(6146)などの製造・加工装置メーカーも有望視されている。
「裾野を広く見れば、"第二の主役"になり得る中堅企業がまだ多いです。上昇した大型株だけでなく、関連企業を分散的に拾うことが賢明でしょう」(松本氏)
不動産・インフラ分野では、再開発需要が追い風となる三井不動産(8801)、東京建物(8804)、鹿島建設(1812)などに加え、LIXIL(5938)も堅調だ。エネルギーでは東京電力ホールディングス(9501)、関西電力(9503)、再エネ関連のイーレックス(9517)などが挙げられる。
「防衛や半導体の"攻め"と、不動産・電力の"守り"を組み合わせることで、相場変動に強いポートフォリオをつくれます。そして、投資で最も大事なのは"方向を見誤らないこと"です。短期的な値動きに惑わされず、資金の流れを見極める——構造を掴めば、焦らず長期の判断ができます」(松本氏)
債券とゴールド、守りにも戦略を
積極財政が続くなかで、物価上昇率はじわじわと高止まりしている。一方で名目金利の上昇は鈍く、債券の実質利回りは依然としてマイナス圏にある。見た目の安定感とは裏腹に、債券は「守りの資産」としての魅力を失いつつあるのが現実だ。
「個人向け国債の利率は1%前後です。インフレ率が3%なら、実質リターンはマイナス2%。長期保有での資産形成には向きません。ただし、短期債を少量持っておくことで暴落時のクッションにはなります。ポートフォリオ全体を安定させる意味では一定の価値があります」(松本氏)
対照的に、インフレ局面で存在感を増すのが「ゴールド」だ。金は通貨価値の低下に強く、財政出動や通貨安の局面で資産防衛の役割を果たす。松本氏は、「ゴールドは"価格"ではなく"機能"で捉えるべきです。インフレが続く限り、購買力の維持という意味で有効です。金融資産の3~10%を金に配分するだけでも、全体の安定感が違ってきます」と話す。
すでに価格が高値圏にあるいま、「買い時を逃した」と感じる投資家も多い。ところが、松本氏は「ゴールドはタイミングで儲けるものではありません。毎月の積立で平均取得単価をならしながら保有するのが理想であり、むしろ"買わないリスク"を意識すべき局面です」と語る。
「ETFや純金積立、現物購入など、それぞれに特徴があります。投資初心者の方は、まずネット証券の純金積立が現実的です。ETFなら流動性が高く、売買の自由度もあります。現物を持つ場合は保管コストを事前に把握しておくと安心ですよ」(松本氏)
トレンドに流されず、"方向"を読む。変化の時代に強い投資術
政権が変わると、市場は一時的にざわつく。だが、長い目で見れば結果を決めるのは"トレンド"ではなく"方向性"。いま問われているのは、投資家がどの時間軸で、どう判断を下すかという視点だ。
「短期ではイベントに反応して動き、中期では企業の業績を見ながら入れ替える。長期では、防衛やエネルギーのように国家政策と連動するテーマを軸に据えるのが理想ですね」(松本氏)
市場がひと息つく局面こそ、次の一手を考えるチャンスだ。とりわけ、キャッシュポジションをどのように管理するかによって、投資成果には大きな差が生まれるとか。
「優良株を適正価格で買うには、キャッシュの余力が欠かせません。あらかじめ"買いたい企業の悪材料リスト"をつくっておくとよいでしょう。悪いニュースが出た瞬間に動ける投資家が、最終的にリターンを取ります」(松本氏)
また、短期的な感情に振り回されないためには、売買ルールを"言葉と数字で明確にすること"が欠かせない。どのような条件で買い、どのような水準で売るのかをあらかじめ決めておけば、判断に迷う場面も少なくなる。
最後に、松本氏は「ルールを持つ人ほど、相場が荒れたときに強い。短期の値動きに一喜一憂せず、基準を守り続ける人が、結果として成果を残すのです」と締め括った。
政権が変わっても、資産を守る原則は変わらない。長期投資家に求められるのは、"方向を見極め、構造で勝つ"冷静な戦略だ。


