株価や不動産価格の上昇などを背景に、日本では「富裕層」が増えている。とはいえ、総務省の調査によれば、日本の富裕層(純金融資産1億円以上)は世帯の約2%、超富裕層(5億円以上)は0.1%未満(※)。上位数%に入る少数派の領域である。
では、その少数派はどのような共通点を持ち、どうリスクを設計し、資産形成を積み重ねてきたのか。
今回は、FIRE達成者を多数輩出してきた「Financial Free College」(以下、FFC)の代表講師であり、「ライオンじゅんさん」としても活動する金盛潤一氏にインタビュー。サラリーマンから富裕層入りできる人に必要な思考と行動、そして受講生の実例をもとに、10年で目標を実現する人の共通点を語ってもらった。
※野村総合研究所「NRI富裕層マーケット調査 2023」
少数派になる覚悟があるか
サラリーマンでも資産運用によって富裕層になれる人に共通する最大の特徴は、「少数派になる覚悟」である。多くの人は資産を守ることを優先し、リスクを恐れて行動を控える。だが、上位1%に到達する人は逆の発想で動いている。
「多くの人は"お金を失うのが怖い"という理由で行動しません。ですが、1億円を作れる人は、"未来の可能性を広げるために行動する"。つまり、周囲の評価よりも自分の未来を優先できる人が、少数派になれるのです」(金盛氏)
金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査」※によれば、30代の平均金融資産は約600万円。
過去の資産額を基準に未来を予測すれば、達成は遠のく。むしろ「欲しい未来」から逆算し、今の行動を変えることこそが、富裕層入りへの第一歩となるのだ。
※金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査(2023年)」
リスクは"設計する"ものという発想
ここで欠かせないのが「リスクの設計」である。リスクを完全に避けることはできない。だからこそ大切なのは、いきなり大きな勝負をするのではなく、少しずつリスクを受け入れられるように準備していくことだと金盛氏は語る。
「投資でリターンを得るには必ずリスクを取る必要があります。ただし一度に大金を賭けてはいけません。自己投資 → 損失から学ぶ → リスクを許容できる額を増やす。この順序を踏むことが、富裕層入りを実現するための基本構造なのです」(金盛氏)
最初に投資すべき対象は「自分自身」である。知識やスキル、経験といった人的資本は、相場や通貨の変動に左右されない強固な資産になる。
こうして学びを積み重ねることで、少しずつ投資に使える金額(リスク・エクスポージャー)が大きくなり、結果としてより大きなリターンを狙える機会にも触れられるようになるのだ。
「忘れてはならないのが"インフレ"と"老いるリスク"です。お金の価値は時間とともに減少していきますし、年齢は決して巻き戻せません。行動を先送りすること自体が、数千万円規模の機会損失につながってしまうのです」(金盛氏)
FFC受講生の実例が示す、富裕層入りへの道筋
では、実際に目標とする資産形成を実現できた人はどのようなプロセスを歩んできたのか。金盛氏に、FFC受講生のうち、二人のケースについて聞いた。
一人目は、元美容クリニック看護師の佐々木さん(仮名)。浪費家だった20代から一転、投資を学び直し、わずか1年で資産を倍増させた。
「彼女はもともと"スイッチが入ると全力になる"タイプでした。FFC入会後は米国株を中心に徹底的に勉強し、仮説検証を繰り返す姿勢が成果につながりました。大事なのは、投資を"楽しめる"ようになったことです」(金盛氏)
二人目は、中川優花さん(仮名)。海外勤務時代の積立保険が満期を迎えたことをきっかけに資産運用を本格化し、現在は1億円超の資産を築いている。
「中川さんはもともと現金比率が高く、それを資産に振り向けたことで一気に加速しました。ただ重要なのは"守りながら攻める"姿勢を徹底した点です。インフレや相場変動を前提にしつつ、暗号資産や米国株を組み入れ、多様なポートフォリオを作った。FIREは決して一発勝負ではなく、設計と継続の積み重ねなのです」(金盛氏)
いまは二人とも正社員を辞め、フリーランスとして活躍しているそうだ。
誰でも富裕層になれる
そんな金盛氏自身も、25歳からの7年間で1億円を築いた経験を持つ。その過程を振り返り、こう語る。
「私自身も失敗だらけでしたが、人的資本に先行投資し、損失を学びに変える仕組みをつくった。その結果、リスク許容額が増え、自然とリターンも大きくなったのです」(金盛氏)
数式にすれば「人的資本 ×(損失の学習効率) ×(継続時間)=リスク許容総額の拡張=収益機会への接触増」となる。つまり1億円の形成は"特別な運"ではなく、再現性のある構造であると語る金盛氏。
「結局、最大のリスクは"動かないこと"。今日の一手が、10年後の自由を形づくります。額の大小は関係ありません。大切なのは、いま動き出すことです」(金盛氏)


