「最近の若手社員が何を考えているのか、さっぱりわからない」――これは、長年上司世代が抱える共通の悩みかもしれません。しかし、社会環境が大きく変化する現代において、Z世代と呼ばれる新入社員の持つ価値観や行動は、これからのビジネスを加速させる大きな「強み」になり得ると考えます。

自身の業務に加え、新入社員の育成を担う管理職や先輩社員は、これまでの「当たり前」を押し付けるだけでは、彼らのポテンシャルを引き出すことはできません。新入社員が育った環境を理解し、その特性を活かしたコミュニケーションと育成方法を探っていくことが不可欠です。

本連載では、新入社員の特性を理解し、AIや音声解析といった最新技術も活用しながら、彼らが生き生きと活躍できる環境をどう創るか、そのヒントをお届けします。

前回はAIを人材育成に活かす方法と、その際のポイントについて解説しました。AIの活用は、自ら考え、行動し、改善する習慣を身につける「セルフコーチング」にも応用できます。今回は、新入社員の成長を加速させる「セルフコーチング」という手法と、それをAIで支援する方法についてお伝えします。

「セルフコーチング」で新入社員が主体的に成長する

「セルフコーチング」とは、自分で考え、行動し、改善する習慣を身につけることです。これまでの「上司がすべてを教える」やり方から、新入社員が自ら課題を見つけ、解決策を導き出すことで、主体的な学びを促します。これにより、上司は育成に費やす時間を減らしつつ、新入社員の自律的な成長を促すことができるのです。

セルフコーチングは、以下のサイクルで進めていきます。

(1) 目標・テーマの設定
(2) 現状把握
(3) 目標達成のための方法の検討
(4) 行動計画の立案
(5) 実行
(6) 振り返り

このサイクルを回せるようになると、新入社員は他者との比較ではなく、「昨日の自分より、今日の自分」の成長に目を向け、自信を育むことができるようになります。

なぜ、今「セルフコーチング」がZ世代に刺さるのか

Z世代と言われる新入社員は、幼い頃からインターネットやスマートフォン、SNSが身近にある環境で育ったデジタルネイティブで、「タイパ(タイムパフォーマンス)」や「即時性」を重視する傾向があります。

セルフコーチングは、誰かに指示されるのを待つのではなく、自らの手で効率的に成長したいと考える彼らのニーズと非常にマッチします。さらに、AIを活用すれば、いつでも、どこでも、自分の都合に合わせてフィードバックを得られるため、よりスピーディーに学びを深められるのです。

AIを活用したセルフコーチングで成長を加速

セルフコーチングを支援する上で、AIは非常に有効なツールです。

例えば、営業の商談を例に見てみましょう。自身の商談やロールプレイングの音声をAIが分析することで、話すスピードや自分と相手の会話のバランス、無意識にでてしまう「あのー」「えーと」といった口ぐせの回数などを数値化することができます。自身のうまくいった商談や先輩のお手本となる商談と数値を見比べて改善していけるのです。

また、録音データを文字起こしして、「表現のクセ」や「説得力が弱いところ」などをAIに抽出してもらうといった活用もできます。

さらにその改善ポイントに対して、「より良い表現への言い換え」「ヒアリングに適した質問例」「商談のシナリオ作成」などをAIに提案してもらうこともできます。

AIを活用することで、セルフコーチングの精度が上がり、タイパ(タイムパフォーマンス)を重視する新入社員も成長実感を持ちやすくなるでしょう。

上司の役割は「寄り添い、声掛け」 - 今日からできる「スモールスタート」のヒント

セルフコーチングにおいても、AIに任せきりにするのではなく、上司によるサポートは不可欠です。定期的に1on1を設定してメンバーが設定した目標や将来なりたい姿をヒアリングし、どのような行動を取れば理想に近づくかをアドバイスしましょう。その際のポイントも、上司は「教える」のではなく、「寄り添い」「褒める」ことです。

まずは、日々の業務の中で、「何か困っていることはない? いつでも声かけてね」「最近、何か良い気づきはあった? 」のような、新入社員に見守られている安心感を与える声掛けから始めてみましょう。

そして、彼らが次のアクションに悩んでいる時は、答えを教えるのではなく、「もし自分がお客様の立場だったら、何をしてほしいと思う?」や「この業務をやり遂げたら、どんな気持ちになりそう?」といった、自ら気づき、答えを導き出せるような質問でサポートしましょう。

1on1を「アドバイス」から「対話」の場に変える

新入社員が自らセルフコーチングのサイクルを回せるようになると、1on1の質が大きく変わります。

これまでは上司が課題や解決策を一方的に伝える「アドバイスの時間」だったものが、「対話の時間」に変わります。新入社員は「AIを使ってこの点を改善しました」「次はこの業務にチャレンジしたいです」といった具体的な報告ができるようになり、上司は「素晴らしい! その学びをどう活かしたい?」と、さらに自律的な思考を促す質問ができるようになります。

これにより、上司は「どう教えればいいか」と悩む時間を減らし、新入社員の成長を「共に喜び、応援する」というポジティブな関係性を築くことができます。

セルフコーチングは、新入社員の自律的な成長を促すだけでなく、教育コストを削減し、組織全体の力を底上げする有効な手段です。「教える」ことのプレッシャーから解放され、「育てる」喜びを再認識するために、今日から彼らに寄り添い、力を引き出す声掛けをしてみてはいかがでしょうか。