近年、海外の富裕層を中心に、日本でヴィンテージ品を買い求める動きが活発化している。特に東京・表参道エリアは“ヴィンテージの聖地”と呼ばれ、連日多くのインバウンドで賑わう。
しかし、なぜ彼らは、わざわざ日本でヴィンテージ品を探すのか。その背景には、日本ならではの理由と、世界的な価値観の変化があった。
今回はヴィンテージ専門の新業態「KOMEHYO VINTAGE TOKYO」の企画全体を担当した田島靖啓さんにインタビュー。店舗のオープン秘話から、インバウンド需要のリアルな実態、そしてヴィンテージ市場の今後の展望まで、詳しく話をうかがった。
ヴィンテージ品世界的ブームの背景
――近年、ヴィンテージ市場が非常に盛り上がっているそうですが、このブームの背景には何があるのでしょうか?
始まりはアメリカの西海岸だったと思いますが、ヴィンテージのブランド品を身に着けることが「お洒落」だという価値観が生まれました。この流れは、TikTokやInstagramなどの普及で加速度的に世界へ広がり、日本でも2023年頃からブランド専門のヴィンテージショップが注目を集め始めました。
これまで「ユーズド品=お得に買えるもの」という認識だったのが、「ヴィンテージ品=希少価値があり、持つことがステータスになるもの」へと、人々の価値観が変化したことが最大の要因です。
――「ヴィンテージ」と「ユーズド」の定義について、改めて教えていただけますか。
実は、ヴィンテージという言葉には世界共通のはっきりとした定義がないんです。そこで私たちは、「KOMEHYO VINTAGE TOKYO」を始めるにあたって、社内で「製造から20年以上経過したもの=ヴィンテージ」と定義づけました。これまで明確に定義されず古いユーズド品として扱われていたものも、ヴィンテージという新たな価値観で捉え直すことで、新しい魅力を提案できると考えたんです。
――改めて、具体的にヴィンテージの魅力とは?
一番はやっぱり、その希少性です。ヴィンテージ品は、同じものに二度と出会えないかもしれない一点物だという絶対的な価値があります。影響力のある海外のセレブやインフルエンサーが、そうした希少なアイテムをSNSで発信することで、その魅力が一気に世界中へ広がりました。
“ヴィンテージの聖地”表参道への挑戦
――その世界的なブームを受けて、「KOMEHYO VINTAGE TOKYO」をオープンされたと。
表参道エリアはすでに、ブランド専門のヴィンテージショップが集まり始め、「ヴィンテージの聖地」と化していました。私たちKOMEHYOはそれまで、ヴィンテージという明確なコンセプトを打ち出した店舗を持っていなかったのですが、この機会を逃す手はないと考え、2024年11月、表参道に「KOMEHYO VINTAGE TOKYO」をオープンしました。
――ヴィンテージショップは初の試みだったということですが、企画の立ち上げはスムーズに進んだのでしょうか?
社内での反対意見は全くありませんでした。というのも、全くのゼロから新しい事業を始めるというより、「KOMEHYOがもともと保有していた膨大な資産を、ヴィンテージという新しい切り口で編集し直す」というかたちだったからです。 結果、企画を発案してからわずか半年というスピーディーな展開でオープンにこぎつけることができました。
――オープン後の反響や客層などはいかがですか?
おかげさまで非常に好調で、オープンから3ヶ月間で売上計画比150%を達成しました。 客層としてはインバウンドのお客様が圧倒的に多く、2025年3月期では免税比率が56.3%に達しました。国別で見ると、アメリカが約3割で最も多く、次いで中国、シンガポールと続きます。
――オープンしてみて、想定通りだった点、逆に想定以上だった点はありましたか?
海外からのお客様が中心になるだろうという予測は、まさにその通りでした。一方、嬉しい誤算としては、国内のお客様の比率も高かったことですね。当初は全体の2割程度と想定していましたが、実際には3割5分ほどのお客様が国内の方々でした。
もうひとつは、店舗のディスプレイへの反応です。従来のKOMEHYOの店舗では、商品をガラスケースに並べているのですが、ここではお客様が気軽に手に取れるオープンなディスプレイを採用しました。直接手に取って商品を見られるということで、非常に好評です。モノを売るだけでなく、探す楽しみや見つける幸せといった体験を売る、という点が響いているんだと思います。
なぜ海外富裕層は、遠い「日本」をわざわざ選ぶのか?
――なぜ海外の富裕層は、わざわざ日本で中古のブランド品を購入するのでしょう?
大きく3つの理由があると考えています。
1つ目は、質の良い品が豊富にあること。1980年代から90年代のバブル期に、日本では非常に多くのブランド品が購入されました。それらが今、良好な状態で市場にたくさん出回っているんです。
2つ目は、商品の状態が非常に良いこと。日本人は物を丁寧に扱う国民性があり、海外ではその品質の高さを称賛する「USED IN JAPAN」という言葉まで生まれています。
そして3つ目が、圧倒的な信頼性です。日本のリユース業界は、企業がシステムとしてしっかりと査定や鑑定を行っているため、“買取基準外品”を買ってしまうリスクがすごく低いんですね。世界では「CHECKED IN JAPAN」という言葉もあるほど、高く評価されています。
――“買取基準外品”というのは、いわゆるニセモノですね。ちなみに、価格的なメリットはいかがでしょう?
ヴィンテージアイテムにも世界の相場があるので、日本だけが極端に安いということはありません。ただ、円安など為替の影響でお得に購入できるタイミングはありますね。
個人的な意見ですが、海外では個人店でヴィンテージ品を扱っていることはあっても、表参道エリアのように、我々のような企業がヴィンテージ品をまとめて扱っているというパターンはあまりない気がしています。そのあたりの事情も、日本のヴィンテージ品やショップが人気になっている理由のひとつかもしれませんね。
――お客様が住んでいる国やエリアによって、売れるアイテムに違いや傾向は出ますか?
面白いほど違いが出ますね。アメリカのお客様は、ブランドにとらわれずご自身の感性で個性的な一点物を選ばれる傾向があります。一方、中国をはじめとするアジア圏のお客様の中には、エルメスのケリーやバーキン、シャネルのマトラッセといった「定番品」を求められる方が多く見受けられます。 日本の若いお客様には、エルメスのシルバージュエリーが非常に人気です。そういったさまざまなニーズを的確に捉え、品揃えに反映させていくことが重要だと考えています。
プロが実践する情報収集術と市場の未来
――常に変化するトレンドを、どのように捉えているのでしょうか?
情報収集は欠かせません。競合店のSNSをチェックし、どんな著名人が訪れているかを確認するのはもちろん、Googleアラートに「VINTAGE」や「アーカイブ」といったキーワードを登録して、関連ニュースを常に追っています。
ラグジュアリーブランドの新作コレクションも必ずチェックしますね。最近は、過去の名作へのオマージュとして復刻モデルが発表されることが多く、そうなるとオリジナルのヴィンテージ品の価値がさらに高まるからです。
あと、私はNBAが好きなのですが、有名選手のパートナーは世界的なセレブやインフルエンサーである場合も多いんですよ。彼らが日本のヴィンテージショップを訪れたり、ヴィンテージアイテムを身に着けたりすることが、さらなる注目を集める要因になっているので、そのあたりもチェックするようにしています。
――最後に、ヴィンテージ市場の今後の展望についてお聞かせください。
ヴィンテージ品は、今後ますます価値が高まっていくと確信しています。なぜなら、これらは「もう二度と作られない」からです。状態の良いものは年々減っていくため、その希少性は増すばかりです。この流れは一時的なブームではなく、一つの文化として定着していくでしょう。KOMEHYO VINTAGE TOKYOはこれからも、ただ商品を売るだけでなく、お客様に「探す楽しみ」や「見つける幸せ」といった体験価値を提供していきたいと考えています。
「USED IN JAPAN」「CHECKED IN JAPAN」という言葉が象徴するように、日本のヴィンテージ市場には揺るぎない信頼がある。世界の富裕層が日本を目指すのは偶然ではなく必然なのかもしれない。
KOMEHYO VINTAGE TOKYO
- 住所:東京都渋谷区神宮前5丁目1−16 地下1階、1階
- 営業時間:11時~20時
- 定休日:不定休 ※都合により変更する場合あり










